Trompe L'Oeil
――絵は好きですか?
僕は好きです。
――嘘は好きですか?
ボクは好きです。
今日も僕は線をなぞる。
好まれる鮮やかをそこへ添え、色を引いては絵を描く。
そう、ボクは絵が好きだ。
そこには人が望む綺麗な物しかないから。
「デッサン狂いすぎだろ。しかも現実はこんな光の当たり方しない」
誰かがそう口にする。
知ってるよわかってるよ。
でもこっちの方が好まれやすい、キモチイイ絵だろう?
「どんな状態だよこれ、腕の角度おかしすぎだろwww アニキャラかよwww」
また誰かが嗤う。
そうだよ。
流行りのアニメみたいに、カッコヨクしたんだ。
良いだろう?
「〇〇さんの絵、独特だけど良いよね面白い」
「この色遣いとかすごく好き、〇〇くん変わった絵を描くよね」
「○○ちゃんの描くイラストってゾクっとするからつい見ちゃう」
ほらごらんよ。
ボクの絵を好きと言ってくれる人が居る。
僕の引いた線に共感してくれる人が居る。
ぼくの籠めた嘘に惹かれる人が居る。
そう。
これは絵と言う非現実。
でも誰もが現実と同じく、ココチイイ都合の良い嘘を好むのさ。
故に絵は非現実でありながら現実で。
現実と同じく、みなは嘘を好む。
「アタシ、このアニメが好きでさー、〇〇くん知ってるー?」
「知ってる知ってる、最近よく聞いてて気になってるんだよね。
CMしか見てないけど、キャラクターがとても魅力的みたいだよね。ああいう雰囲気好きだよ」
「あーやっぱり知ってた?
キャラもいいけどストーリーもおすすめだよー!
もし良かったら今度見てみてよー。アタシあのアニメ凄く好きでー」
ごめん嘘。
ボクはあの作品、好きじゃあない。
色が激しくて目がチカチカするし、キャラの顔が量産的で好みじゃない。
「私このアーティストの歌が好きでー最近ハマっててさー」
「コンビニでもよく流れてるよね、気になってこないだCD買っちゃったよ」
「〇〇くん聴いてるの? いがーい!
じゃあ今度カラオケ行かない? 歌ってるの聞きたいー」
ごめんね。
実はもう聞いてないし、むしろ嫌いな曲だった。
テンポは早いし歌詞も陳腐だし、甲高い歌い方が軽くて耳障り。
「○○、この料理好きなんだ?」
「○○ちゃん、この映画興味あるんだねー」
「この服好きだったんだ○○くん、ちょっとビックリ」
ごめんねみんな。
ボクはそれが嫌い、好きじゃない、不快だ。
けど僕はそれを明かさない。
そしてボクは違う答えを選んで、口にする。
どれもこれもみなに好まれやすい線をなぞる絵のように、好まれやすい嘘をなぞっていく。
どれもこれもみなの興味を引く色を選ぶ絵のように、興味を引く嘘を添えていく。
――そして繰り返した嘘と言うラフで、僕の輪郭はいつの間にか仕上がって行く。
「アイツ、誰と話してもヘラヘラしてるよな、気持ち悪い」
誰かがそう口にする。
知ってるよわかってるよ。
でもそっちの方が話しやすい、キモチイイ会話だろう?
「八方美人過ぎwww ご機嫌取りとかキッショwww」
また誰かが嗤う。
そうだよ。
みながヨロコブよう、流行りに合わせてみたんだ。
悪くないだろう?
「○○ちゃんの趣味変わってるよねー、面白いけど」
「好み独特だけどキャラ変わっててるとこ好き、○○くん意外なとこ多いし」
「わかるー、○○さんってイラストと同じで惹かれる性格だよね」
ほらごらんよ。
ボクの嘘を好きと言ってくれる人が居る。
僕のなぞった嘘に共感してくれる人が居る。
ぼくの籠めた絵のように嘘へ惹かれる人が居る。
だから今日もボクは線をなぞる。
嘘と言う色を引いては、好まれる鮮やかをそこへ添えて。
そう、僕は嘘が好きだ。
そこには人が望む綺麗な物しかないから。
全てはまるでTrompe L'Oeil―――。
現実の人間関係は絵のようで、ボクが描く全ての絵は、それらを写したかみたいに鮮やかで。
そう。
なぞって仕上がる僕の全ては、さながら騙し絵のようさ。