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ミステリアス


「――きて……」

「起き……くれ……」

「……お兄……」

「……う?」


 なんだ……? リリア、ダリル、ロッカの声が聞こえてきた。これは幻聴なのか……?


「――あっ……!」


 俺は我に返って起き上がる。


 そうだ……あのとき自分はシュルヒから大事なものを奪ってしまって、そのまま意識が途絶えたんだっけか。それは彼女の自我、すなわち()()()()()()()()だったはず。盗んだものはなんとなくわかるようになったんだ。温かくて、それでいて気高いものだった。


「ウォール君!」

「ウォール……!」

「ウォールお兄ちゃん!」

「……えっ……?」


 まさか……俺はまだ夢の中にいるというのか……?


 そういや、俺は四階層にいたはずなのにダンジョンの外にいるし、ぼんやりとした顔のシュルヒだけじゃなくダリル、リリア、ロッカまで近くにいる。あれ……おかしいな。夢なのになんか熱いものが込み上げてくる……。


「ウォール君……会いたかった……」

「ウォール……バカッ、心配したんだから……!」

「ウォールお兄ちゃん……私、寂しかったよぉ……」

「ダ、ダリル、リリア、ロッカ……」


 ち、違う。これは夢なんかじゃない。こんなにも心を動かされてるのにまやかしのはずがない……。


「みんな……一体、何が……」

「それが……君のあとを追ってダンジョンへ潜ったわけなんだけど――」

「――ダリル、あたしにも言わせて! それでようやくウォールを見つけたと思ったら、急に倒れちゃって……心配したんだからっ!」

「リリア、ウォールお兄ちゃんが女騎士さんとデートなんかしてるって怒ってたくせにぃ――」

「――ロッカ、脱がすわよっ!?」

「いやぁっ……!」

「……」


 あのいつもの光景だ。これが夢じゃないんだと俺は改めて理解する。


「こらこら……二人とも、折角ウォール君に会えたんだから、こういうときくらいは――」

「――いいんだよ、ダリル。それで、そのあとどうなった……?」

「あぁ、なんかロッカが正体不明の男から声をかけられたみたいで、例の殺人鬼が近くにいると思うから早く逃げるべきだって……」

「へえ……」


 多分、あのグルーノとかいう怪しい男だな。疑われていた割にはみんなこうして生きてるしいいやつだったってことか。


「そのあと、謎の男が教えてくれた方向へ進んだら、本当に攻略できる鍵付きの枯れ木が見つかったっていうわけさ」

「そうか……」

「そうよ! それはもう、苦労したんだからっ……!」

「よしよし、頑張りましたね……」

「……」


 リリアがロッカに慰められてる。聖母状態、久々に見たなあ……。


「本当に頑張ってくれたんだな、みんな……」

「あぁ、みんなで協力してなんとか、ね」

「……あ、そういえば、無差別殺戮犯については何かわかった?」


 そこで俺は大事なことを思い出した。元々、シュルヒと一緒に四階層へ潜ったのは殺人鬼を探すためだからな。


「それが……リリアが【分身】で飛び掛かったときに殺人鬼の姿を見たらしいんだけど、それも含めてトラウマになっててまだ詳しくは話せないみたいなんだ……」

「お、思い出させないでよっ! ちょっとでもそのことを考えると震えが来ちゃうんだからっ!」


 リリアが真っ青になってる。殺人鬼の姿を見たのか……。相当怖い思いをしたらしく、ユニークゾンビがいたお化け屋敷でも見たことがない顔だ。そんなきつい経験をしてまで俺を追いかけてくれたんだな。


「みんな、ありがとう。俺はみんなを捨てて出て行ったようなもんなのに……」

「まったくだよ。ウォール君は酷いね。誰かは教えないけど、()()()だって泣いてると思うよ!」

「あはは……」


 多分、あの子っていうのは女版ダリルのことだろうな。


「あれだけサービスしてあげたのに勝手にいなくなるなんて最低よ! ふんっ……!」

「捨てちゃ嫌ですよ……?」

「ごめん……みんな……」

「……まあ、僕たちも未練タラタラだったんだけどね。あとをつけたりしてストーカーみたいなもんだよ」

「いや、それは俺を心配してくれてのことだろうし――」

「――ウォール君、覚えてるかい……?」

「え?」

「《ハーミット》の信条さ」

「ああ、確か……急がば回れ、だっけ?」

「うん。実はそれともう一つあるんだ」

「へえ、何?」

「明日は明日の風が吹く。もう過去のことは忘れて開き直ろうってこと。でも、今回だけはそれを守れる自信がなかったんだ、僕を含めてみんな……」

「……」

「あ、あたしたちにはウォールがいない明日なんて考えられないのよ……!」

「私もです」

「み、みんな……」


 ダリルたちと過ごした日々のことを思い出して涙が込み上げてきそうだった。どうやら俺も守れなかったらしい……。


「――う……? じ、自分は何を……」

「「「「あっ……」」」」


 突然の出来事だった。呆然自失状態だったシュルヒが我に返った様子で周りを見渡し始めたのだ。俺は彼女から自我を奪ったはずで、返却もしてないにもかかわらずだ。一体どうやって……? どうやらこのアビリティにはまだわからないことが数多くあるらしい……。

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