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第1章 〜邂逅〜 第6話

 冷たい風が外套のフードをめくり、森精アールヴ特有の青みがかった緑色の髪を巻き上げた。


(ああ、もう。あの悪戯っ子達ったら!)


 精霊を視認できる森精アールヴの瞳に可愛らしい風の精霊達のじゃれ合う姿が映っては消えていく。


 フードを被り直し、気を鎮めよう。この山に目標がいることは把握している。自分は今まさに狩人なのだ。


(ザンヴェルジ。今日こそ仕留めてくれる)


 奴が殺気に鋭敏であることは昨日見事に思い知らされた。ならば罠を仕掛ける。殺意を無機質なものに変えるのだ。淡々と、まるで舞台を終わらせる緞帳の紐を引っ張るように。そこに殺意など生まれるべくもない。


 狙い定めしは水辺の際。囲む8箇所に氷霊子弓グラキェサルクを仕掛けた。氷精石を基礎に精霊子で簡単な機械弓ウィンドラスの物理構成を再現した氷霊子弓グラキェサルクは、言霊一つ念じれば、引き金が通り、8つの弓から同時に氷の矢が放たれる仕組みだ。昨日の量産製品とはワケが違う、妖精の秘めたる力を叩き込んでくれよう!


 かの虎がこの隴風山を根城にしていることは冥香楼の主人から聞き及んでいた。彼女はできれば生け捕りにしてほしいなどとこぼしていたが、全く聞く耳を持つつもりはない。


(セルム・・・貴女の仇を討たずして我は前には進めぬ)


 今は亡き親友の儚げな笑顔を思い出す。共に過ごした日々はそれほど長くはない。だが不思議と惹かれた。それは彼女がどれだけ不幸な境遇に見舞われても、決してそれに負けない強い意志を見せたから。そこに不老長寿の精霊からは見出せぬ人の人たる美しさを感じたのだ。


 結局、彼女は不幸の連鎖から抜け出せず、ある日虎に噛み殺され死んでいたという。


 人々に命を分け与えることを生業とし、自らは何も与えられぬまま、虐げられ、罰せられ、裏切られ、呪われ、ゆえに憐れみもされず朽ち果てていったのだ。


 果たして彼女の短い人生の中で幸福を感じた時間はあったのだろうか。そう考え出すといつも遣る瀬無くなり、胸が締め付けられた。


 だから、ああ、セルム。そう。セルミナス=ドロクレアという女性は、せめてその命が奪われたならば、その死を悼む者が仇討に突き動かされるほどには徳のある人間であったと、証明したかった。

 そのためには、怨敵の首を彼女の墓前に据える。これしか手立ては考えられなかった。


 ふと気配を感じ、我を取り戻す。顔までは分からないが肉眼で十分把握できる。


 少女の姿だ。


 程なくして二つ目の気配。山側から現れ、少女に近づいて来たのはまさしく標的だった。どちらかと言うと少女が標的を訪ねてきたように見受けられるが・・・?


 少女の身の危険を案じる気持ちは生まれなかった。

 なぜなら標的は当然のごとく、屈みこんだ少女の肩に親しみを込めるように頭を擦り付けたのだから。


風精シルフェヌよ。奴らの声を運んでおくれ』


 狩人はそっと通り過ぎる精霊に囁きかけた。風上に潜む狩人の位置は彼らの通り道付近なので造作もないことだろう。案の定精霊たちは素直に微笑んで、道すがら風の回廊を狩人の潜む場所にまで曲げてくれた。


“私もう死んじゃいたいわ”


“・・・パンは喜んでもらえなかったのか?”


“私を盗人と・・・うぅぅ”


“そうか。不憫なことだ。あれだけ苦労した君の気持ちが伝わらなかったとは。もはや姉上を嫌いになってしまったか?”


“姉様を嫌いに?そんなことあるわけ、ない。でも、もう受け入れてもらえないわ。また捨てられてしまったの。なんで私は!そうよ!嫌いなのは姉様じゃない。いつだって私自身なのよ!”


“・・・気持ちは分からんでもないが、カタリナは君を捨てたりはしないよ。私も君の味方だ”


“とらさん・・・本当に?”


“君のお母さんに誓ってな”


 少女は虎の首に抱きついて、深々とした毛並みにその顔を埋めた。


(ザンヴェルジめ・・・人の言葉でかどわかすか。あの少女はカタリナの妹?邪魔だな・・・)


“ああ。いつか君の苦心が報われる日が来る。そのために私も力を尽くすと約束しよう。悲しいときはここに来て、吐き出してしまえばいい”


“とらさん、私もずっとここにいてはダメ?”


“そうだな。私だっ・君・・ばにい・いが、ここは危険・・・。私には君達のために・・なければ・・・いこと・・・”


“やらな・・・って?昨日・って・・・魔女・・・選別・・・んな・・・”


(ち、風の回廊が途絶えたか。最後の会話は一体なんのことを?)


 それにしても歯痒いのは、標的が目の前にいるにもかかわらず少女が体を密着させているせいで氷のやじりを放つ機が得られないことだ。いつ終わる?苛立ちに歯を軋ませた。


いや、焦りは禁物だ。狩人は一度視線を切って俯き、深く息を吸い込んだ。そうして思いを取り直して前を見る。


(ッ!!)


 森の精は信じられなかった。抱きつく少女の肩越しに、虎眼が、確実に、繁みの奥から放たれる狩人の視線を咎めていたのだ!


(バカな・・・気取られていた?く、やるか!?)


 虎は罠の存在にまでは気づいていないはず。ならば機はまだある。


(・・・いや)


 狩人は逡巡した挙句、静かに去った。必殺の環境を失った今、手練手管まで披露することを拒んだのだった。


 ザンヴェルジはアルルからそっと離れた。


「おそらくこの地は近いうちに戦場となる。それまでに君の呪いを解かねばな」


「え・・・戦?・・・呪い?」


「聞きなさい。ニコラス=アルツァスといったか、あの男を頼ってはならない。彼は敵になる男だ」


「でも、あの人は善い人よ」


「・・・そうだな。善人だよ。だが、善人が常に味方になるとは限らない。まあ、今は胸に留めておけば良い」


 アルルは首を捻った。私を取られたくないのかな?と内心を勘繰ってみたりする。


「よく分からないわ。でも覚えとく」


 アルルはここに来た時よりも少しだけ晴れやかな顔でそう答えた。


 虎はグルルと小さく喉を鳴らすと、大地を蹴って岩上までひとっ飛びし、一度だけ振り向いてから山の奥へと姿を消した。



■■■■■■■■■■



 ある二人がだ。

 同じ日、同じ時に、同じ夢を見るなんてことが、この世の中にはあるのだろうか。もしそんなことが起こったならば、それはおそらく何らかの神懸かりな啓示に違いない。


ーしかし、だ。


 その二人は、実は出会ってそれほど長い間柄ではなく、共通の宗教や志を持つわけでもない。同じ血縁でもないし、まして人種そのものが異なる。そんな赤の他人同士の二人がある日揃いも揃って共通の啓示を与えられたのだ。


 何の脈絡もない、謎めいたこの人選を訝しむのは当然だろう。果たしてこの旅路の行先に待ち受けるものは望外の幸福か、あるいは悪魔の奸計か。


ーしかし、だ。


 不安を共有する相手が、この妙齢の美女ならば、それもあながち悪くはない。


 彼女と自分はどこか似ている気がする。好奇心が強く、喧嘩っ早くて、危なっかしいところが放っておけない。


 彼女はもともとある人物を探す旅をしていて、自分はその道中を警護する雇われの身に過ぎない。だから、いざ彼女が目的を果たせばきっと二人は容易く別れるのだろう。それだけの間柄だ。


ーしかし、だ!


 今はそんなことはどうだっていい。

 必ず助けてみせる!

 ただの旅の連れでも、赤の他人でも、彼女は絶対に見捨てられない仲間なのだから。


・・・・・・


 東国の冒険者イサルガ=レビは苦痛を紛らわせるために絶え間なく思考を巡らせていた。


 半ば強いられて始めたこの砂漠行は、今最大級の試練を迎えている。病に倒れた相方を担ぎ、一体どれ程の距離を歩いただろうか。


 初めて背負った頃と較べ、明らかに彼女の体重は軽くなっていた。高熱のせいで脱水症状を起こし、必要な肉や脂肪が厚みを失い、其処彼処そこかしこが角張ってきている。


 それでも荷袋を引き摺りながら彼女を背負って歩くその負荷は、鍛え上げられた東国きっての冒険者をして、確実に疲労の極みに追い込んだ。


 その脚はもう何度も痙攣を繰り返し、荷を降ろせと脳が信号を送り続けてくる。ついでに腹の虫も引っ切り無しに鳴いていて、そろそろ本当に腹が背中にひっついてもおかしく無さそうだ。


 それにしても、今更ながら道中で駱駝を殺されてしまったことが悔やまれてならない。子鬼ラルヴァの襲撃が最近盛んなことは、噂ながら耳にしていたのに。


 今二人は当初の目的地から逸れ、夢の中の神託に従い、地塩の都ザファケルを目指している。お告げではあらゆる病を癒す医者がその地にいるというのだ。

 眉唾ながら、選択肢はもはや限られているのだから行動あるのみ、とレビは腹を括っていた。


「れ、レれビ、す、すまん、オレ、は・・・。ややまい、うっ、うつっ、てていい、いない、か?」


 レビは首筋に水滴が流れるのを感じた。泣いているのか?この、いつも強気で生意気な女が?

 まさか。いや、単に体が弛緩して涎でも垂れ流しているだけかもしれない。きっとそうだ。


「仕方が、ないことも、あるさ。旅は道連れ、世は情けってな!俺は、病には強い方だ。カイ、ゼリヤよ。無理して、喋るな。舌も、回っていないぞ」


 喋るレビの息が切れている。無理して喋ってるのはそっちの方だと頭をはたいてやりたい。


 ああ、この男は文句一つ言わないが、完全に脱力した自分の体はさぞ重かろう。


 カイゼリヤ=ウルススは、あまりに情けない己の体たらくに下唇を切るほどの悔しさを噛み締めた。


 プツリと皮膚が切れ、舌先にざらりとした血の味が広がる。


 ふと、曖昧に記憶していた説話の一節を思い出す。

 誰から聞いたかは憶えていないが、確か、"血の味が薄くなれば、それは己の死が近づいている証だ"というような話だったか。


 どうやら、幸いにして、まだ自分の血は死神好みの味には至っていないようだ。


 揺らされ揺れて、今更ながら自分の腰がレビの身体にがっちりと帯で括り付けられていることに気付かされた。絶対に離さないという男の意思表示が素直に嬉しい。


ああ、まったく淡白な顔つきに似合わず、世話好きな男だ。


 涙を流すなんて勿体ない。全く益体も無い。それなのに、もはや枯渇したと思っていたのに、己の意思に反してそれは出てきてしまう。


 ああ、なんて情けないのだ。


 カイゼリヤは熱が浮いた顔で密かに微笑んだ。申し訳なさの一方で、赤子のようにただ体を預けることができる心地良い安堵感に身を浸しながら。


・・・・・・


 何度目の夜だろう。


 当然だが、砂漠の夜が暖かい日などあった試しがない。日中の灼熱天下を耐え凌いでも、大自然は決して緩めることなく、落日の後に絶対零度のとばりを降ろす。


 だから、天幕は日の暮れ時に素早く張るに限る。

 できるだけ無駄な体力の浪費を避けるのが砂漠行の生存条件だと学んだ。


 天幕を組み建てたら、カイゼリヤを寝かせ、陽が完全に落ちるまで幕内でジッと待つ。もう一週間近く繰り返してきた日課だ。


 そして、今喫緊の問題が目の前に浮上してきている。


 自分たちに残された食糧のことだ。

 殺された駱駝を解体して得た肉が残り数切れ、返り討ちにした子鬼ラルヴァの死体から搾り取った血のワイン。子鬼ラルヴァの肉は試したが、あまりに筋肉質で噛み切れず、食べられたものではなかった。


 人外種を食糧にすることは、1世紀前の大飢餓時代からさして珍しい話ではなくなったが、やはり人間。形態が近いものを捌いて食するのはそれなりに抵抗感があるし、特に鬼人種は精神に毒をもたらすと云われ危険視されている。


 それでもレビ達は躊躇わなかった。死ぬよりも、死なせるよりも、ずっと良いのだから。


 兎にも角にも尽きかけの食糧をなんとかしなければならないが、炎天下の中で食糧調達で体力と水分を消耗するのは愚の骨頂だ。

とは言ったものの、陽が落ち、獣が活動を休むこの時分に収穫できるものもたかが知れている。


 ここのところ全く姿を現してくれない荒原カムプネズミ、砂漠ワスティト蟹の数匹にでも遭遇できたら歓喜、垂涎ものだ。場合によっては仙人掌カクタケ虫やマグナアリジゴクも良い。攻撃的で巣穴から頭を出すことは珍しく、他の食糧候補より獲るのが困難だが、昆虫類は滋養が高いのだ。


 カイゼリヤのこともあるし、遠出はできないので良い出会いに期待したい。幸い夜目は常人以上に効く。見つけたならば、狩ることができる。狩猟民族として育ったレビには確かにその自信があった。

 

 やがて天幕の下に広げた獣皮の敷物が冷え始めた頃、レビは立ち上がった。


 砂を払ったばかりの防塵外套デセルタサグルムを再び身に付け、砂漠帽クーフィーヤを被り直し、短剣を腰に差し、手裏剣といしゆみを物静かに手にする。

 そうしてから、寝息も立てず目を閉じたままの相棒に向けて慈しむほどの眼差しを外し、厳寒の外界へと足を踏み出した。


 天幕が見えなくなるところまで離れ、立ち尽くす。

 暗闇と赤月、寒風と砂塵、隔離と孤独。まるで最果ての世界に一人取り残されたような錯覚を感じる。


 どうやって残る道程を乗り切るか?

 目的地まであと何日かかるだろう?

 カイゼリヤの生命はもつだろうか?

 いや、それ以前に自分の体力は?

 

 痩せ我慢は禁物。無理は厳禁だ。

 

 今夜の狩りは、中止!

 もう、やるしかない。


 レビはどかりとその場に座り込み、おもむろに鞄に手を突っ込んだ。

 

 いつでも作業はできるよう、準備はしていたのだ。

 先ず小さな擂鉢を取り出す。続いて駱駝肉を。

 手にした駱駝肉は短剣で刻んで鉢に放り入れ、更に子鬼ラルヴァの血を加えながら短剣の柄頭を使って擂り潰し始めた。泥泥どろどろになるまで垢離垢離ごりごりと。


 もう一つ鞄から取り出したのは緑の液体が入った小瓶。コルクを抜き、擂鉢の中に数的垂らし入れる。


 作業をしながらレビの頭の中には旅立つ前に別れた四つ足の友人の言葉が去来していた。


ーーこの瓶を授けましょう。中身はある魔獣から採取した血液です。これと獣人の血を混ぜ、獣の肉を液状になるまで溶かしなさい。すると、特殊な香を出す魔薬へと変化する。その匂いは・・・"奴"をぶのです。


(相変わらず酷い匂いだ。きっとアイツの鼻はバカなんだろう!これが香だと?悪臭の間違いだ!)


 喩えようもない不快な臭いがレビの嗅覚を刺激し、やがて冷たい風に溶けていく。


 なけなしの肉を消費するのは本当に抵抗があった。かの獣人の友は信を置けたが、果たしてうまくいくものか。獣人の血には子鬼ラルヴァの血を用いようと考えたが、何しろ子鬼ラルヴァは獣人ではなく鬼人種だ。生態系譜を辿れば獣人の親戚のようなものだが、今や全く異なる種族に組されている。この目論見が成功するかは分の悪い賭けでしかない。


 "奴"がこの砂漠に何度も姿を見せたという情報は、砂漠行を決する前から知っていた。


 もはやこれしか二人が無事に砂漠を乗り越える手段は無いのだ!


 それにしても冷える。砂漠の夜風は邪悪そのものだ。肢体の末端が痛い程にかじかみ、ただでさえ手際を求められる動作を鈍くさせる。


 そのせいか、レビは耳の奥を引っ掻き回すような、豪風と防塵外套デセルタサグルムを弾く砂塵の音の裏側で、かすかに聴こえる異音にすぐ気付く事ができなかった。


ーピシャシャン、ピシャシャン。


(なんだ?)


 レビがその音を認識した時、それは既に随分と近づいていた。


ーピシャシャン!ピシャシャン!


 馬を打つ鞭のような音だ。


(まさか"奴"が来たのかッ!?やった!しかし、この音は一体)


 気づかれぬよう慎重に立ち膝になり、周囲に目を凝らす。

 何処から来る?見つけなければ!僅かな月明かりの中で。


ーピシャン!ピシャシャン!ピシャン!ピシャシャン!!


 音が近づく・・・こちらを目指しているのが分かる。そして、それは目的地の方角からだ。


 鞭の音が近づくにつれ同時に奇妙な雑音が耳に入った。


 佛佛ぶつぶつと云う呟きのような・・・いや、呟きでも雑音でもない。それは歌だ。節を持っていて、死を口ずさんでいるのだ。それも一人や二人ではない。集団が声を揃えて念じるように歌っているのだ。


 月明かりの下でぼんやりとその集団の姿が視界に入った頃、レビは立ち止まっていたことを後悔した。


 夜の砂漠に歌を念じる集団・・・思いがけない異様な状況に包まれ、さすがの勇猛果敢な冒険者も丹田に氷を突っ込まれたような気分になり顔色を失った。


("奴"ではない!あれは・・・何なんだ!?)


 悪寒が脊髄を逆撫でする。


 身を隠す時間がないことは明白。呆けた我が身を叱咤しつつ、レビは擂鉢の位置から10歩退き、身をかがめて短剣を握りしめた。



ーおお、死と踊りし神の子らよ。

汝の目にの者の姿は映っているか。

あれは彼我の罪に炙られて、なおも罰とたはむるあがないの王

もくさば、今ひとたび悔い改めよ

祈り(まよい)を断ちて其の下へつどわん

されば迎えるは、罪人とがびとたちの楽天地ー



 はっきりと聴こえ始めた生命感がない人々の歌声。

 煉獄で戒められる罪人のように、永遠に続く罰を受け入れざるを得ない嘆きと諦めを綯い交ぜにした憐憫の響きが、聴く者の心を虚無へと誘う。


 レビの目が捉えたものは、あまりに不可解だった。


ーピシャン!ピシャン!


 あろうことか、この凛冽たる凍夜の下、半裸の老若男女が四列縦隊で擦り歩きながら、それぞれが絶え間なく自らの背に鞭を打ち続けていた。


ーピシャシャン!ピシャシャン!


 その群衆の誰もが常軌を逸している。見定めるべき世界を捨てたかのように目玉を失った真っ暗な眼窩で虚空を睨み、洞穴のように開けっぴろげた口腔から呪詛の韻律を漏らしている。

 その裸身は朧げに青褪め、かそけき月光を不気味なまでに返照していた。

 痩せ細った腕は関節を失い、振り上げられるとまるで鞭と一体化したかのように流麗な円弧を描いて、その乾いた背を打ち付けた。


 彼らに悪意はない。ただ只管に我が身を咎める。

 繰り返し、繰り返し、己の罪を戒めようと。

 繰り返し、繰り返し、背に張り付く業魔をしりぞけようと。


(砂漠に鞭打苦行団・・・こいつら・・・いやまさか、屍人か?)


 聞いたこともない砂漠の夜の怪談だ。

 昼間の暑さが頭を蝕み続けた所為せいで幻でも見ているのだろうか。


 レビは無意識のうちに短剣を握る力を弛め、石像のように固まっていた。

 

 もう逃げも隠れもできない。一団はすぐそこだ。


 だが、このおぞましき群体は、レビの予想に反し、確実に視界に収まっているはずの彼にはまるで興味を示さず、なおも直進を続けた。

 やがて歩みの速度をそのままに彼の前を通り過ぎ・・・ることはなかった。


 何故だろうか。レビが離しておいた魔薬の鉢の手前でピタリとその歩みを止めたのであった。


(・・・こいつらは鼻が効くのか?)


 続く所作で、この怪異は鞭を打つ手をだらんと下げると、顔の真ん中の空洞を閉ざし、直立した姿勢のまま頭だけをぬるっと前に突き出したのだ。それが全く一様に同調して動くものだから、傍観者の内心には恐ろしさと共に奇妙な滑稽さすらこみ上げた。


 そんな中でレビはこの光景にふと違和感を覚えた気がして、素早く意識を切り替えた。


 なんだろうか?頭を巡らし、すぐに思い至る。まるで傀儡人形のような群衆の中で何か気になるものが視界の端を掠めたのだ。


 薄闇の中、目を細めて見渡してみて、その違和感の正体はすぐに知れた。頭を突き出す姿勢で時が止まったように動かぬ苦行者達。その縦隊の半ばあたりにいる男苦行者がボロ切れをまとった子どもを肩に担いでいた。


 明らかにこの群体の不純物。ひょろ長い背丈の苦行者に二つ折りで担がれ、完全に意識を失っているのかピクリとも動かない。


 レビは思った。厄介な場面に出くわした、と。

 こんな場面に出くわして、見過ごすことなどできるはずがない。


(まさかこの団体さんの身内って訳はないよな?)


 レビはそろりと摺り足気味に移動を始めた。

 完全停止している縦隊に近寄り、先頭から丁度半分くらい。6人目の位置で足を止めた。


(50人程度の盲人の集いか・・・この鞭は痛そうだ。うっかり触りでもしたら悲惨なことになりそうな・・・)


 直感だが、おそらく魔香の効果が切れたところでこの怪異は動きを取り戻すだろう。 全くこちらを意に介しないのは解せないが、視覚がなく、嗅覚は魔薬の香に奪われ、聴覚は暴砂風に塞がれている。


(今しか機会はない、な)


 思うが早いか、レビは腰を屈めると、するりと群体の中にその身を潜り込ませた。

 慎重に、不気味な人形どもに触れぬよう、身を捻りながら最初の端列をやり過ごす。


 案の定動く気配を見せない。


(よし、いけるぞ)


 二列目は顎を突き出し固まったままの老いた女苦行者だ。余生を穏やかに暮らしたかったろうに、何の因果でこの群衆に加わったのか。怪異の正体は知る由もないが俄かに哀憫の情が湧く。


 さあ目的のところまで掻い潜ろうと思ったが、難点があった。何しろ彼女の垂れた乳房の分だけ隙間が狭いのだ。


(ふむ。若かりし頃はさぞ立派だったのだろう)


 などと品のない夢想にうつつを抜かしていると、グゥ、と腹が鳴いた。


(げっ!)


 ・・・そろりと上を覗き見たが、どうやら大丈夫そうだ。

 油断し過ぎだと己を戒めながら、前方に這い出るために片手を大きく伸ばし、目の前の砂地に手をついてーー


 ズボッと音がした気がした。


 予想だにしない手応えの無さ。見事悪戯小僧の落とし穴に嵌ってしまい、レビは顔から砂に突っ込んだ。


(ブッ!何なんだ一体!?)


 思わず声が出そうなところをなんとか堪え、頭をねじって横を見やれば、鼻先には獰猛な眼をしたマグナアリジゴクが堅強な顎を開き、まさに巣穴を壊した無作法者に仕置をくれてやろうと息巻いている。


 気付いた時にはもう遅い。人の拳ほどもあるアリジゴクの顎鋏がレビの頰肉にがぶりと食いついた!


「痛ッッ!」


 今夜レビが初めて出した声は、悲鳴だった。


 彼の痛覚に対する条件反射は攻撃本能に根差している。声を上げたその直後には、レビは身体を回転させ、埋まった腕を引き抜くやアリジゴクの頭よりも小さな胴体を逆手に引っ掛けて一気に捻り飛ばした。


 その勢いで仰向けになったレビの眼は、千切れ飛んだマグナアリジゴクの体の行方を追い・・・はしなかった。

 勢いづいた引き手に弾かれ、慣性の振り子よろしく左右に揺れる萎びた乳房の間から、ぐわっと覗き込む老女の失われた瞳孔に、ただ釘付けになっていたのである。


(まずー)


 その瞬間、甲高い奇声とほぼ同時に、レビの顔面には彼女の鞭が叩き込まれていた。


 東方出身のレビは、この鞭をよく知っている。名を自国では"九尾の猫"と読んでいた。

「星」と呼ばれる小さく尖った鉄塊を先端に結んだ九本の荒縄は、振り下ろされる時に怒った猫のように軋り声を上げ、打ち付けられたところには爪で引っ掻いたような傷が残ることからそう名付けられたらしい。


 本来の用途は、無論、悶絶必至の拷問用具である。


 なるほど。星だ。この星で打たれると目の前に更なる星が生まれるのだ。近近チカチカと目と鼻の先で瞬くのだ。


 今宵の被害者もまた、無惨にも防護服の隙間から覗かせていた素肌を、眉間を、頬骨を、鼻腔の下を同時に弾かれ、声にならぬ声を上げながら思うがままに悶絶の姿を見せた。


 痛みのあまり目を開けられない!

 第ニ打は肩を打った。同時に背も打たれる。必死に頭を庇い、身体を丸め・・・同時に?


 レビの頭に最悪の展開がよぎり、そして理解した。

 四方は囲まれ、既に逃げ場はない事実を。

 矢継ぎ早に鞭の風切り音がつんざき、次の瞬間には防塵外套デセルタサグルムを引き裂いてレビの背肉に赤い筋を残した。


 痛みが激しい!

 この展開は予想の中でも最悪のものだ。

 この怪異の滑稽さにどこか油断していたのかもしれない。鞭の殺傷力を侮っていたことも認めよう。


 ひたすら痛い!

 ここから挽回するためには絶対の忍耐と絶大の集中力が必要だ。そう。ただ冷静に敵の情報を読むことが肝要なのだ。


 背を打つ呼吸の間隔で敵の数を知る。

 痛みが走る傷の向きで敵の方向を知る。

 空を裂く音の強弱で敵の腕力を知る。


 囲みを突破するためには弱い所を一撃で打ち崩すに限る。そして、それは何度も叩かれ、刻まれた背中の痛みが教えてくれる。


 レビは短剣を鞘から抜くと、神速の動きで右後方に位置する苦行者の右踝をざくりと抉り抜いた。


(手応えあり!)


 直後には標的は肺が潰れたような鈍い声を吐き出して背後に吹っ飛んだ。右足の腱まで深く切り裂いた後、レビは、体を崩しかけた苦行者の鳩尾辺りに尖らせた肘鉄をぶちかまし、一点突破してのけたのである。


 その時、どさりと地面に何かが落ちた音がした。


 子ども・・・少女だ!

 今突き飛ばした苦行者は、例の子どもを担いでいた男だったのか!


「こいつは僥倖だったな」


 いやしかし、だ。


 残念ながら囲みは一重のはずがなかった。次なる囲いは更に分厚く、物々しい殺気に満ちた気配が立ち昇っている。


 そして、彼らはその洞穴のような口から歌を口ずさみ始めた。先ほどとは異なる呪禁の歌だ。


 荒ぶる意思を持って獲物を嬲らんと統一した構えで鞭を振りかぶりながら、躙り寄せてくる。


「そうか。これは集団怨嗟か・・・」


 気付いてしまった。そして知ってしまった。彼らのかつての悲運を。あまりの憐れさに思わずレビは目頭を熱くした。


 子どもを取り戻した以上、もはやこれ以上の闘いは彼にとってなんの大義も無い。


「すまんな。無闇に貴様らに手を出すべきではなかったのかもしれん。成仏させてやりたいが、生憎俺は坊主ではない。本当にすまん」


 レビの右手からはいしゆみの矢が放たれ、それは容赦なく老女の額を真っ直ぐに貫いた。

 老女は何かから解き放たれたようにその形相を無表情に変えると、仰向けに倒れたまま、それっきり動かなくなった。


 その時である。何処からともなくこの周辺一帯に女の怒声が響いた。


⦅奴を潰しなさい!私のピューパ達よ⦆


 その声を聞いた瞬間、前屈み気味の苦行者達が一斉にった。先程脳天に鏃を食らった老婆のように。

 だが、彼らは老婆とは違った。そのまま倒れることなく、むしろ今までにない俊敏さで身を起こすや、足元の砂塵を巻き上げてレビに向かって一度に飛びかかってきたのだ!


 先までとはまるで速さが違う!力が、意思が違う!

 集団の統一感が失われ、個々の九尾に結ばれた星々が乱舞する。


「な、なんだ!いきなり元気になった!?」


 もういしゆみは間に合わない。どうする!


 子どものことが気になる。場所を移動したい!

 担いで逃げるにも砂に足が取られ、動きにくい。一気に間合いを離すことなど到底出来ない。


 それに闘いだというのに全く身体が滾ってこないのはどういうことか。足が宙に浮いているように蹴り足に力が漲らない。皮肉めいているが、極限の空腹は何より重い足枷ということか!


 さらに思い知ったのは、短剣がなんともこの鞭と相性が悪いことだ。短い刀身で受けると、荒縄が巻きつき、その先端が剣柄を握る指の背をゴツリと叩くのだ!


 何度か繰り返し指を殴打され、堪りかねて、レビは短剣を手放してしまった。


 なんとか応戦を!

 応戦!?とんでもない。避けるのも精一杯だ。

 

 レビは防塵外套デセルタサグルムを翻し、鞭を受け流しながら後退するも、今度は後ろからの打撃にしこたま背面を叩かれる。


 前のめりに体勢を崩して諸手をつく。すぐそこには未だ目覚めない子どもが横たわっていた。

 

 その子の前には、敵の足!


(この子に傷がつけば、俺は何のためにーー)


 レビは咄嗟に手裏剣を抜いて上方に投げつける。距離感はもはや勘でしかなかったが、手裏剣は首尾よく女苦行者の喉元を貫いた。


「やった!」


 そのまま旗旗バタバタと踠くように子どもに詰め寄り、その小さな身体を外套で隠してー


「ガッッ!!」


 側頭部に大きな衝撃が走り、一時レビの視界は全てを喪失した。

 彼はその瞬間、きっと砂漠帽クーフィーヤの日除け布が破れ、同時に、自分の顳顬こめかみの上あたりからごっそり、髪の毛ごと肉片が抉り飛ばされたことを理解した。


 レビの左の視野が忽ち赤黒く染まる。視力を取り戻した右目は手裏剣を喉元に挿したまま鞭を狂狂くるくると回す女の裸体を映していた。


「ば、かな・・・」


 レビの頭の中では、あの女苦行者も老婆同様表情を失い、動かなくなっていたはずだったのだ。


 せめて少女を覆うように、レビはうつ伏せになって倒れこむ。間髪入れずに鞭の雨が容赦なくレビを叩く。


(あぁ、本格的にまずい・・・目の前がぼやけ・・・カ、カイゼリヤ・・・すまん。まさか、こんなところで・・・)


 そんな霞んだ視界の中で、レビの眼は青い月光を浴びて立ち昇る一筋の煙が写していた。


 あれは、魔薬を作ろうと自分が持ち出した擂鉢で、この騒動で蹴倒されたのか、器の中身を半分飛び散らせて転がっている。そして、その器の中からか細い煙が上がっている。まるで墓前に供えられた線香の煙ではないか。


 暗くて、意識も朦朧として、もう何もかもよく分からないが、そんな中にあってか、レビには擂鉢の煙の色が月光の青と混じって紫色に変わっているように思えた。


 思えばこの忌まわしい集団を呼び寄せたのは、この煙のせいではなかろうか。

 そんな心持ちで擂鉢を睨みつけてみると、おかしなことに気付いた。


 倒れた鉢から草が生え出ているのだ。


(・・・草・・・?・・・・・・)


 背に再び鞭が食い入った。


 虫の死骸に集まるアリのように苦行者達はレビを取り囲み、一心不乱に鞭を振るい始めた。

 同胞に当たろうが、自分に当たろうが構いもせず。


(いや、あれは、俺の頭の・・・髪・・・け)


 どこか甘ったるい果物のような香が鼻をかすめた。


(・・・この香り・・・そうか)


 レビはなけなしの力を振り絞って地を這いはじめた。

 

ビチィィッ!!


 あまりに苛烈な一撃が首筋を強打した。危うく意識を身体から分断するほどの強烈な一撃。


 今までにないほど迅速に眠気が訪れる。もうこれ以上、耐えることなど・・・


ーーしかし、だ!!


 あの煙の、擂鉢のところへ!


 あと少し・・・あと・・・


 あ・・・とど・・・た


 意識が途切れる間際、レビは腹の奥の更に奥で何やら盛大に牙狼牙狼ごろごろと鳴り響く音を聴いていた。


・・・・・・


 朦朧とする意識の中でぼんやりと聴こえる声は、彼女にとってどことなく空から降り注いでいる慈雨のように感じられた。


「カイゼリヤ、がんばれ!もう少しだ!」


 息を弾ませ、男は振り向かず肩越しに声を投げかけていた。先程から恐らくずっと励ましてくれていたのだろう。


 風を切る音が耳に心地良い。

 心なしか、自分の体がどこか浮かんでは沈む乗馬のような感覚を味わっているのは、どういうこと?


「こ、これは」


 その感覚は間違ってはいなかった。周りの風景が教えてくれる。自分は、レビとともに高速で砂漠を走っているのだ。


 それも巨大なピュトンに乗って!!


「れ、レレビ。いいいったい、さ、昨夜にな何がぁああっ?」


「驚いただろう?あいつの、ケイロンの思し召しさ」


「ケ、ケケイロロンの」


 カイゼリヤの頭に半人半馬の賢者の顔が思い出される。二人の旅の始まりを見送った優しい友人の顔を。


 半身を潜らせ上下に蛇行する巨大蛇の頭に二人はしがみついている。もっとも蛇にしがみついているのは相棒の男で、女はその男の背に括り付けられている図だ。


・・・いや、若干違う。


「レビ、この子は何だ?」


 急にまともな口調になったカイゼリヤの声色に、心底レビはぎくりとした。


 レビの腹の下には砂で白っぽくなって汚れているが、縮れたくせ毛の銀髪を持つどこか神秘的な少女が可愛げに寝息を立てて眠っているではないか。


「おお?いや、昨夜、なんだ?・・・拾った?」


 何とも歯切れの悪い答えだ。自分でもそう思う。


「拾った?砂漠でか?相変わらず厄介事が好きな男だな。いや、女には見境が無い、か?」


「おいおい、理不尽な!これでも」


「これでもなんだ?身体を張ってこの子を助けたみたいだが、ツレを増やす余裕があるとはサスガダネ」


「ぐ、仕方なかろうがっ!」


 背後の彼女の顔は見えないが、想像は容易に付く。無機質な、ただ眼光だけは氷柱のように尖って冷たい、暗殺者のそれだ。レビは本気で殺されやしないか、心配になった。


「ま、まああいい。ああ、か体がだるい。後でゆっくり馴れ初めををき聞かせろ」


 そう言ったきり、カイゼリヤは口を閉じた。


・・・・・・


 昨夜の鞭打苦行団は一体何者だったのか。

 そして、号令を掛けたあの声の主は?

 この少女は何故連れ去られようとしていたのか?


 考えに耽っているうちに、再び背中から問いがあった。


「れ、レビ、その、あ頭のき傷は」


 さすがに目立つか、とレビは苦笑いした。

 帽子の破れた隙間から見え隠れしているレビの左側頭部には、真新しい五本の溝が彫り込まれてる。かなり深そうだが、既に傷の上から周りの細胞によってうっすら皮膚が作られていた。


 レビの回復力が並外れていることは既に知っている。だが、この男がこれほどの深手を負った記憶は、今までの修羅場を思い返しても、一度も無い。


「もう目を瞑っていろ。余計なものは見なくていい。砂が目に入って痛いだろ?」


 確かに。カイゼリヤは俯いて、見て、後悔した。

 高速で波打つように揺れる地面を。なるほど、これは怖い!


(レビ、何者かと闘ったのか?オレのため、いや、この子のためか)


・・・・・・


 やがて、大蛇ピュトンが少し警戒するかのように行軍を緩め始めた。


 常に視界を遮る砂埃が時折晴れる時がある。


 防塵外套デセルタサグルムに身を包み、荒野を越えてきた東からの訪問者を歓迎するかのように、一陣の突風が砂塵を上空に巻き上げ、旅人に目的地が近いことを知らしめたのだ。


「カイゼリヤ!やった!夢のお告げにあった地塩の家だ。ザルツァイ都市だ。城壁が見えてきたぞ!俺たちは乗り越えたぞ!!」


 ああ、レビの喝采が遠くに聞こえる。

 レビはよくやった。彼が助かって良かった。だけど、もう、オレは・・・。


 脳みそを直接茹でられているかのような高熱に意識をつなぎとめるのも億劫になってきて、カイゼリヤは虚ろな眼差しで、新しく自分の手の甲に浮かんだ黒斑模様を見つめていた。


 これが何かを考える気力はもはや失われていた。


 辛うじて動く人差指に力を入れると、その斑点はうねっと歪み、黒い骸骨のような模様がニタリと笑った。

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