表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

プロローグ

 ……彼女に逢ったのは、物心ついた頃だ。

 始まりなんて、知らない。子どもが、親という存在を知るように。自分が、生きていることを実感するみたいに。ずっと続いていた関係には、明確な区切りなんてものは存在しない。ただそれが自然で、流れる風を感じるように、触れ続ける。

 始まりなんて、記憶にない。その関係がなんであるかなんて、それこそ知るはずもない。

 ただ、その存在だけを知っている。彼女がいて、彼女に触れて。彼女の話し方、彼女の性格、触れられたときの感触、彼女がまとっている雰囲気。声の調子、笑ったときにどんな表情をするのか、怒ったときにどんな形になるのか、傍にいるときの感じ、手を繋いだときの感触、遠目に見る彼女の存在感。

 よく、遊びに行った気がする。いつも、遊んでいた気がする。年の離れた彼女とでは、ほとんどが話をしていただけだったけど、そんなことは関係ない。彼女と一緒にいた、その思い出だけは確かなのだ。

 家の中でも、木々の中でも、風の下でも、空の下でも。家が近くだったからなのか、幼い自分は、そんなことは知らない。まるで、彼女と会うのは、日常のよう。毎日繰り返される、欠けることのない、貴重な時間。

 彼女との繋がりがなんだったのか、幼い頃なので知らなかった。でも、理由なんてどうでもいい。彼女に会って、彼女と一緒にいて、彼女と一緒に遊んで、彼女と一緒に笑って。

 それだけで十分だと、そう感じていた。

 幼い頃なんて、そんなもの。大人の理屈や、社会の理論、自分の理性も、相手の打算も、関係ない。

 自分が目にしたものが世界の全て――。

 自分が耳にしたものが世界の全て――。

 自分が触れたものが世界の全て――。

 自分が感じたものが世界の全て――。

 ――自分が()ったものが。

 ――自分の世界――――。

 幼いころは、ただ無知(むち)で。

 幼いときは、ただ無智(むち)で。

 ――幼い自分は、ただ無恥(むち)

 だから、いつまでも忘れない。

 彼女の話し方や、性格や、触れられたときの感触や、彼女がまとっている雰囲気や。彼女の在り方を。彼女という存在を。

 経験した記憶は貯蔵されるのではなく――。

 ――記憶は、刻まれる。

 心に。体に。記憶に。感覚に。意識に。無意識に。精神に。肉体に。魂に。あらゆる全てに、刻まれる。

 だから、忘れない。忘れられるわけがない。彼女という存在、彼女が生きた証、彼女とともに過ごした日々。

 だから、裏切れない。なかったことになんて、できるわけがない。彼女はここにいた、そこで笑っていた、一緒に話をして、一緒に過ごした。

 いつまでも、ここにある。

 ――ずっと、忘れない。

 彼女に、逢ったこと――。

 その優しさ。その厳しさ。その温かさ。その辛さ。その痛み。その苦しみ。――その想い。

 だから、一生忘れない。この瞬間から、この命が終わるまで。……あなたを、忘れない。

 ――あなたが死んで。

 あなたが、生き返っても――――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ