地獄からの使者
今回からシリアス場面にはいります。
そこは豪華な調度品が品よく配置された一室。
その部屋にいるの貴族然とした女性と貴族の令嬢といった姿の少女が向かい合って立っていた。
『いいですか、ロゼリア。あなたはこの国の第二王子と結婚するのです』
『でもおかあさま、わたくしはユーリとずっと一緒にいたいのです』
『いいえ。ロゼリア、あなたは王子と結婚するのです』
『ですが、おかあさま、わたくしは・・・』バシッ!
『いい加減になさい!ロゼリア!』
『・・・』
少女は母と呼ぶ女性に頬を叩かれ驚きで固まってしまった。
女性はそんな少女に構わず少女の腕を思いきり握った。
『っ!?痛い!おかあさま、痛いです!』
『あなたは王子と結婚するのです!
そして王家の人間を《 》!』
「いやあああ!」
「はぁ・・はぁ・・・はぁ・・・あれっ?夢?」
(夢にしてはとても恐ろしいものだったような気がします。いえ、幼いころあのようなことがあった気がします。ですが何を言われたかよく覚えていません。あの後お母様は何と言ったのでしょうか?)
「・・・あっそろそろ着替えて朝御飯を食べなくては」
朝から夢見が悪く気分の落ち込んだロゼリアだったが気を取り直して着替える為に動きだす。
「よしっ!今日も1日頑張りましょう!」
ロゼリアの1日は身仕度を整え、朝御飯を食べたらお店の掃除から始まる。
中を箒で掃き終わり、店の前を掃除するためにロゼリアは外に出た。
今日は天気が少し曇っていた。
曇っている空を見て、ロゼリアは気持ちが落ち込んできたので昨日のユーリとのお出掛けを思いだした。
(昨日は楽しくてとても幸せな気分でした。こんな日が続けばいいのにとすら思いました。)
昨日のことを思うとロゼリアは心が浮き足立つのを感じた。
(今日もユーリは来るのでしょうか?早く来てくれないでしょうか。でも少し恥ずかしい気もします)
そう思っていると後ろから数人の足音が聞こえてきた。
(お客さんでしょうか?)
そう思い、ロゼリアは後ろを振り返った。
「申し訳ございません。まだお店ははじまっ・・・・て・・えっ?」
(うそ・・・)
「お探しいたしました。お嬢様」
(そんな・・・・)
「旦那様方も心配されてます」
(なんで・・・)
そこにはフロックコートを着た数人の男性。
その胸元には思い出したくもないだがよく見慣れた紋章の入った金色のバッチ。
それは彼らの部下のものでもっとも主に忠誠を誓い、どんな手を使ってでもその命を全うするといったものの証。
そして彼らの先頭に立っている人物はよく見慣れた相手であり、もっとも主の命を全うする男だ。
「さあ、帰りましょう」
(いや・・・・っいや!)
「っいや!私は戻りません!」
(あそこへは戻りたくない!!)
「お嬢様困ります。これは旦那様の命にございます。たとえお嬢様といえどそれを覆すことは出来ません。さあ、帰りますよ」
そう言い、先頭の男はロゼリアの腕を掴み、引っ張ろうとする。
「いやっ!離して!離しなさい!あそこへは戻りません!」
(いやっ!誰か助けて・・・!)
すると誰かがロゼリアの腕を掴んでる男の腕を掴み進行を止める。ゴードンだ。
「おい。そこのお兄さんたちちょっと強引過ぎやしないかい?」
「あんたらうちのロゼッタになにしてんだい!」
「物騒だなおい」
「すみませんが警備隊を呼びますよ?」
「ロっロゼッタお姉ちゃんいっいじめっるな!」「っるな!」
ゴードンに続き、肩を怒らせ怒鳴り声をあげるおかみさん、冷静に言ってるように見え、その実目は男たちを威嚇してるルカス、表情こそ穏やかだが目は笑っていないキース、怖がりながらもロゼリアを守ろうとするユキノとユキヤ。
おかみさんたちはロゼリアの傍により、男たちを威嚇する。
そのことにロゼリアは少し安心し、肩の力を抜くことが出来た。
だが、それらに怯む男たちではない。
「失礼ですが、関係のない貴女方に指図される謂れはございません。」
「んなことねぇだろ。ロゼッタはうちの看板娘だ。関係は大有りだよ」
「主の命を前にそのようなこと関係ございません。」
「いやいや、可笑しいだろ。第一ロゼッタは嫌がって・・・「ゴードン・ネイビス」」
「っ!?」
「失礼。以前貴方に似た方でそういうお名前だった方を思い出しまして」
「・・・俺はただのゴードンだ」
「左様でしたか。失礼いたしました。」
「・・・」
男たちを止めようとやんわりと静止するゴードンだったが先頭の男が言った言葉に驚愕と警戒を強くさせました。
その顔はどこか苦しそうだった。
ゴードンが何も言わなくなったことを確認すると今度はキースに向き直った。
「貴方は確かキースと言いましたね。眠り姫はご健在ですか?」
「なっ!?」
男の言葉にキースは驚き、その顔は青白くなっていた。
さらに男はユキノとユキヤを見やった。
「これがサミュエルの花の忘れ形見ですか」
「っ!?何故それを・・・!」
男の言葉に今度はおかみさんとルカスが顔を青白くさせ、当の二人は男に見られていることに怖がっていた。
「我らに手に掛かれば貴女方の情報を手に入れることなど造作も無いことです。そして、それをどうするかも容易く行えるのですよ」
「・・・」
「分かって頂けたようなら口出しなどしないで下さい」
男の言葉に顔を青くさせたおかみさんたちだがそれでもロゼリアを庇おうとする。
次第に今まで無表情を貫いていた男が眉ねを寄せながら口を開いた。
「貴女方が何を言おうともお嬢様をお連れいたします。そのことに否を唱えるのであればそれ相応の処置を取らせて頂きます。」
男のその言葉にロゼリアははっとした。
(このまま彼らに逆らってはおかみさんたちに危険が及んでしまう)
「・・・おかみさん
ルカスさん、ゴードンさん、キース、ユキノ、ユキヤみんな今までありがとうございました。私、彼らと共に行きます」
「ロゼッタ!」
「何いってんだよ、ロゼッタ!」
「あんたが無理する必要なんてないんだよ」
「「いやっ!ロゼッタお姉ちゃん行かないで!」」
「みんな彼らに逆らってはいけません。彼らは使命を全うする為には手段を選びません。たとえそれが多くの犠牲を伴ったとしても」
「・・・」
「だからもう何も言わないで下さい。私が彼らと共に行けば良い話ですから」
「あんたはそれでいいのかい?ロゼッタ」
「・・・みんなにこれ以上ご迷惑をお掛けする訳にはいきません」
「・・・」
「皆さん、今までお世話になりました。短い間でしたが皆さんと過ごせた日々は幸せでした。ありがとうございました」
「・・・ロゼッタ」
「「ロゼッタお姉ちゃん・・・」」
「どうかお元気で」
ロゼリアはそう言い、悔しそうにそして悲しそうに自分を見るおかみさんたちに精一杯笑顔を造り、別れを告げた。
「お嬢様」
「分かっています」
「・・・作用ですか。それでしたら彼方に馬車をご用意しております。そちらにお乗り下さい」
「・・・分かりました」
ロゼリアは一度も振り替えることなく、馬車に向かい、男の手を借りて馬車に乗り込んだ。
暫くすると馬車は動き出し、窓から見える景色が変わってゆくのをロゼリアただ眺めていた。
(みんなさよなら。もう会うことは決してないのでしょうがどうかお元気で・・・ユーリとももうお別れなのね。最後にもう一度会いたかったな)
『トサント』の人々やユーリとの一生の別れを感じたロゼリアは別れの悲しみとあの場所へと戻ることへの恐怖からかその頬には一筋の涙が伝った・・・。
今回から話が動き出しました。
これから話がどんどんシリアスになっていきます。
三人称やロゼリア視点ではなく、他視点からの話も出す予定です。
拙いストーリーではあると思いますが引き続きお読み頂けたらと思っています。
お読み頂きありがとうございました。