とある少女の独白~驚愕そして・ ・・~
ミア視点一先ず終了です。
ミアの回想が終わった後は途中から他者視点になります。
「ロゼリア・ハーヴェスト侯爵令嬢
君との婚約を破棄させてもらう!」
何故こんなことになってしまったの?
「君はミアに酷い行いをした!」
確かにそうかもしれない。けれどあの時のロゼリア様はいつもとは様子が違った、何故それが分からないのですか?
そう告げようとしても身体が動かない。
声を出そうとしても息の音しかでない。
言いたいのに、止めたいのに身体は頑張っても指先程度しか動かず顔に至っては表情すら変えられない。
私が身体を動かそうと必死でいるのを分かったのか私を抱き止めていた人は口を開いた。
「無駄だよ、ミアちゃん。君が飲んだ薬はね強力なものでね。速効性のある、まあ痺れ薬のようなものだからそう簡単には動けないよ。あっ大丈夫薬の副作用は目眩があったり、意識が一時的にあやふやになるくらいだから後遺症とかはないよ、安心して。だから大人しくしててね?君にはここで大人しくこの場を見守ってもらいたいんだから」
そういって私を抱き止めていたマリアン様は抱き止めている手により力をいれました。
ああ、何故こんなことになってしまったのでしょうか?
それは殿下がロゼリア様に婚約破棄を言い渡す30分程前に遡ります。
私は殿下の最近の行動を殿下の従兄でもあり、右腕的な存在であるマリアン様に相談しようと約束を取り付けました。
マリアン様からはすぐに許可がおり、食堂を話す場所として提示してきたので食堂にてマリアン様の到着を待っていました。
いつもなら跡を付け回してくる殿下もその日は王子としての公務があったために学園には来ていませんでした。
5分程度その場で待っているとマリアン様が到着しました。
「ごめんね、待たせてしまったかな?」
「いいえ、あまり待っていないのでお気になさらないで下さい。それよりお忙しいのにすみません」
「いや、それこそ気にしなくていいよ。それじゃあ早速話をするために移動しようか」
「はい」
私はマリアン様に続いて食堂の中でも奥まった方のテーブルへ向かいました。
食堂には何人かの生徒がいましたが奥まった席に座ったため、生徒たちからも私たちからも双方の会話が聞こえることはありませんでした。
席につき、マリアン様が座ったのをみて私も座りました。
すると食堂の給侍ではなく、マリアン様の侍従が紅茶をいれ、私とマリアン様の前にそっと置きました。
マリアン様は置かれた紅茶を優雅に一口飲むと、ティーカップを置き、私の方に目を向け、口を開きました。
「それじゃあ話を聞こうか」
「はい。ではさっそく本題に入らせていただきます。マリアン様は最近の殿下の行動をどう思っていらっしゃいますか?」
「どうというと?」
「率直に申し上げますが殿下は最近私に対し、距離をつめてきたり、触れることが多かったりなどという行動があります。これは婚約者がいる人、さらには王族の方がとる行動ではないと考えます。また、殿下のロゼリア様に対する態度に関しては婚約者に対するものとは思えないような態度を取っていますがマリアン様は何も思わないんですか?」
マリアン様に殿下の態度に関しての話を一息で告げ、質問を投げ掛けるとマリアン様は再び紅茶に口をつけました。
私もマリアン様と同様に紅茶に口をつけました。
相談することに意識が向いていて紅茶に口をつけていなかった私は少し冷めてしまった紅茶を飲みながら少し心を落ち着かせました。
紅茶を飲み一息ついた後、マリアン様の言葉を待ち再び居ずまいを正した私を見て、マリアン様は苦笑しながら口を開きました。
「確かにここ最近のシルの行動態度は目に余るものだね」
「では、何故それを指摘しないのですか?」
「う~ん・・・シルはねある意味純粋なんだよね」
「純粋・・・・・ですか?」
「そう。シルはね王族にしては素直すぎるというか信じやすいし、一度そうだと思ったことは頑として変えないし、変に夢みがちなところもあるしね」
「・・・だからといって殿下の態度に対し、指摘しない理由にはならないのではないでしょうか?」
「そうだね。でも僕が指摘しないのはその方が好都合だから」
「・・・えっ?」
「僕にとってはシルの行動や態度は好都合だと言ったんだよ」
「それはどういうこ・・っ!?」
マリアン様の言葉にどういうことか聞こうとした途端身体にしびれが走り身体が思うように動かなくなり、立ち上がろうとしましたがふらつき倒れそうになったところを予想していたかのように立ち上がったマリアン様が私を抱き止めました。
「どうやらもう薬が効いてきたようだね」
「・・・っどう・・・・・い・・うこ・・・と・・・・・・・っすか・・?」
「ああ、ごめんね。驚いたよね?さっきの紅茶に少し薬を入れさしてもらったよごめんね君には駒となってもらうよ」
「シルを貶めるためのね」そういってマリアン様は私を抱き止めた状態のまま奥のテーブル席から離れ出口付近に移動しました。
そこに今日は学園にいるはずのない殿下やロゼリア様を除いた生徒会の面々が姿をみせました。
「ああ、丁度良い時間だね」
マリアン様はそう告げると殿下達の方へ私を連れ、向かいました。
すると殿下達が私達に気付きこちらに身体を向けました。
「マリアン、遅かったじゃないか」
「ごめんごめん、ミアちゃんと話が盛り上がっちゃって」
「そうか、しかしどうやらミアの様子がおかしいが?いつもより表情がかたいような」
「これから起きることが上手く行くか心配でしょうがないんだよ」
「そうか、そうだよな。だが安心しろミア、必ずあの女との婚約を破棄し、お前と結婚する」
殿下はそう言いながら熱の籠った目をこちらに向けてきました。
私は殿下のその表情と話の内容に恐怖を感じました。
話の内容からいってこれから起きることが予想できたからです。
私は断固拒否し、止めさせようと身体を動かそうと声を出そうとしましたが身体も動かなければ、声も動かず、ただ次第に周囲に集まる人々とロゼリア様が殿下の真正面に立つ姿を見ることしか出来ませんでした。
そして・・・
「ロゼリア・ハーヴェスト侯爵令嬢
君との婚約を破棄させてもらう!」
冒頭に戻ります。
いったい何故こんなことになってしまったのでしょうか?
それから殿下のロゼリア様に対する罵倒が始まり、私は止めることの出来ない絶望と薬の影響でぼんやりとしながら話を聞き流していました。
話が終盤になる頃、殿下がロゼリア様に「異議申し立てはあるか」と尋ねました。
するとロゼリア様は「ありません」とはっきりと仰いました。
その声を聞いた私は朦朧とする意識の中必死でロゼリア様に意識を向けました。
するとそこにいたのはここ最近輝きのない瞳をしたロゼリア様ではなく、以前のように光の灯った意志のある瞳をし、ほはえむロゼリア様が前にいました。
私はそんなロゼリア様を見て、涙が出そうになりました。
(ロゼリア様だ、前のロゼリア様だ)
私はそう思い僅かながら嬉しさが込み上げました。
けれどロゼリア様は私達の方、正確には後ろの方を見て、驚愕の顔をし、焦ったようにその場を去りました。
(待って下さい)
そう告げようとしても声も出ず、追いかけようにも身体は動かず私は心の中で引き止めることしか出来ず、そこで私は意識を手離しました。
気付いたら見たこともない天井が目に入り、ふかふかなベットに寝ていることに気付きました。
起き上がろうとすると目眩がし、再びベットに逆戻りしました。
改めて辺りを見回すとベットだけでなく、テーブルや椅子、ソファ、化粧台まで置いてあり、どれもが高級品だと分かるほどの豪華なものでした。
部屋の中を見渡し、呆然としていると部屋のドアが開き、マリアン様が入ってきた。
「あ、起きた?体調はどう?」
「ここはどこですか?」
「ここは王宮の中の一室だよ」
「何故そのような場所に私がいるのですか?」
「シルが君をここに連れてくるように言ったんだよ」
「何故あのようなことをしたのですか?」
「うーん、ロゼリアとの婚約破棄はシルが望んだことだし、君に薬を飲ませてあの場に留まらせたことなら僕の独断だよ」
「・・・何故マリアン様はそのようなことをなさったのですか?」
「さっきも言ったとおり、君にはシルを貶める駒になってもらうためだよ。シルは君に惚れてるからね」
「ですが王族である殿下が私に好意を寄せているからといってマリアン様が望むような行動をするとは思えません」
「これまでのシルの行動や態度を見てきた君がそれを言うの?」
「・・・」
「シルはね純粋で素直なんだよね。好きだと思ったものへの想いも嫌いだと思ったものへの想いも強いんだよね。それに単純でもあるから君が自分に好意を寄せていると仄めかせば自分達は両想いだと簡単に信じる。君が嫌がっているように見せて恥ずかしがっていると伝えればそれを簡単に信じる。本当に愚かなほど素直だよね」
「ではまさかこれまでの殿下の行動はすべてマリアン様が仕組んだことということですか?」
「そうだよ」
「っ!?何故ですか?マリアン様は殿下とあんなに親しかったではないですか!」
「別に僕はあいつと親しいなんて思ってないよ。まあ、あいつは親しいと思っているようだけどね。僕はむしろあいつが憎いよ」
「・・・」
「だからあいつを貶めるためには手段を選ばない。・・・ごめんね、君を巻き込んでしまってでももう後戻りはしないやっとあいつを貶めることが出来るんだから」
「・・・・何故、そこまでなさるのですか・・?」
「言ったでしょ?あいつを憎んでいると、だからあいつを貶めるんだよ。死ぬなんて生ぬるい、永遠に苦しむような人生を歩ませるためにね」
「・・・」
「ああ、それとね君の大好きな僕の叔父上には期待しないことだね」
「っ!?」
「流石の叔父上も僕の計画には気づいていないし、宰相であっても王子であるシルのことを叱責は出来ても強固手段は取れないしね」
「何故・・私とあの方のことを・・・・」
「いやあ、驚いたよ。まさか君と叔父上に接点があるなんて。まあ君の片想いのようだけど」
「・・・」
「まあ、そういう訳で叔父上を期待しないことだね。それとシルに言っても無駄だよ?あいつは僕のことを誰よりも信頼しているし、シル君が好きといってもそれは盲目的な恋だ。君の話なんか聞かないよ、現にシルの行動を君が指摘しても直らなかったのが何よりの証拠さ。まあそう思い込むように長年刷り込んできたんだけどね」
「・・・」
「それじゃあそろそろ行くね。・・・あっそう言えば忘れてたよ。君の両親には君が暫く帰らないことをそれとなくシルの従者から言っておくようにしたから安心して。学園の方も特別処置として成績に支障がないように配慮してもらったから。じゃあね」
そう言い残し、マリアン様は部屋を出ていきました。
残された私は話された内容に理解がついていかず呆然としているままでした。
あれから私は部屋を何度か訪れた殿下にマリアン様のことを訴えかけたり、部屋から出して貰うように訴えかけましたがマリアン様の言う通り、私の言葉は殿下に届くことはありませんでした。
ならばと脱出をはかり、鍵のかかって開かない窓を椅子をぶつけ、割り逃げ出そうとすればそれを予測していたかのようにマリアン様の部下が窓の外の庭に待機していたり、ドアの開いた隙を狙い強行突破しようものなら警備兵に捕まり、食事を届ける侍女に泣き落としをしようにも無表情に無感情に仕事をこなすのみ。
何一つ上手くいかないまま、ときは過ぎていきました。
そして今に至る。
(これからどうすれば、いいんだろう?どうすればここから出られるの?)
自分の学園入学してからのことを思い起こしていたミアは諦めが心の隅にあるのを感じながらもこの部屋から出る方法を考え続けていた。
しかし、そんなミアを嘲笑うかの如くミアの作戦は次々と破られた。
そして今日もミアは部屋から出ることを考え続け、夜になった。
ミアは既に夕食を済ませ、それから数時間方法を模索した後、就寝の準備をしようと動いた。
以前は寝る間も惜しんで考えていたがマリアンにより無理矢理睡眠薬を飲まされることが続いたため、大人しく就寝していた。
今日も考えが思い付かないことに溜め息がこぼし、肩を落としていたミアの耳に扉ごしにガタッゴトッという物音が聞こえ、ミアは扉に目を向けた。
そして扉が開き、緊張した面持ちで見ていたミアの目に飛び込んで来たのは思わぬ人物であり、喜ぶべき人物の一人であった。
正確には扉から見えた人物は二人だったがもう一人は知らない人物であったためミアの注意は一人に向けられていた。
(何故・・・貴方様がここに・・・・・?)
「久しぶりだねダノン嬢」
「・・・お、お久しぶりでございます・・・・ラングスタ様・・・・」
扉を開いた人物はロゼリアの幼馴染みであり、ロゼリアの良き理解者であるユーリアス・ラングスタであった。
ミアは驚き、そして希望が見えたと目頭が熱くなるのを感じた。
「ダノン嬢、僕らは君に聞きたいことがたくさんある」
(私も貴方様に聞きたいことがたくさんあります。ロゼリア様は今どうしておられるのですか?ご無事ですか?元気ですか?)
「今回の件について君の意思でないことも分かっている」
「だからダノン嬢、君の力を借りたい。・・・ロゼリアを救うために」
(はい、勿論です。ロゼリア様の為ならば・・・)
「ありがとう。じゃあ今すぐここを出よう。余り長居すると他の人間に気付かれる」
部屋を出れるという喜びや安堵、そして希望がミアの中で溢れユーリの言葉にただ、ただ首を縦に振り続けたミアをユーリは部屋から出るように促し、部屋を脱出した。
夜に紛れ、ミアはユーリ達と共に王宮を脱出した。
シルベルトのロゼリアへの婚約破棄宣言から監禁され、約1カ月ミアはこの日ようやく外へ出れたのだった。
物語がまた動き出します。
そろそろロゼリアさんを出す予定です。
主人公なのになかなか出せなくてすみません(汗)
因みにユーリと一緒にミアを救出したのはキースです。
今回もお読みいただきありがとうございました。