わたくしの弟は腹黒副会長らしいです
他のシリーズとは別世界です。
「ぐずっ…姉さん……」
目と鼻から体液を流し続ける儚げ美人。
わたくしの弟です。
ちょうど弟が学校へ行っている時間に実家へ帰ってきて、学校から帰宅した弟がわたくしの顔を見るなり何故かボロボロ泣き出しました。何が何だか。
しかし、努力家でプライドが高くちょっとツンデレ気味な弟が人目もはばからず泣き出すとはただ事ではありません。
場所を移し、メイドの入れてくれたホットミルクを一口飲んで落ち着いてから、弟は話し出しました。
「僕もう学校にいきたくありません…」
「どうして?」
「だって、あの転校生を見ると僕、変になるんです…」
「転校生って、この前紹介してくれた子?」
大人しめの美少女を装った子ですよね?
弟が溺愛オーラを振りまきながら紹介してきましたが、わたくしはあんな小娘の猿芝居に騙されるほど節穴ではありません。
家族以外の人には壁を作る癖があって、友人の少ない弟がいいなら見守ってあげるつもりでしたけど…、これは一体どういうことでしょう?
「あの子を好いているのではないの?」
「違う!!」
普段は作り笑顔を貼り付けて穏やかに話す弟が声を荒げました。
「好きなんかじゃない!でも、彼女を見ると、思ってもない言葉がスラスラ出てきて、会長たちと彼女を取り合ったりして、生徒会の仕事したいのにそんなことよりも彼女だって身体が勝手に動いて…、自分が自分じゃないみたいで……っ!」
両手で顔を覆って俯く弟。
……それは、怖いですね。
自分がそんなことになったら、と思うととても恐ろしい。大切な旦那様がいるから余計にですね。
わたくしは弟の隣に腰掛け、背中をさすります。
「こ、この前なんて…っ、か、彼女に、き、き、キスを……!」
「口?」
「気持ち悪いこと言わないでくださいよ姉さん!手の甲です!口だったら……僕は首を吊ります」
真っ青になって真剣に言う弟に、これは重症だと思いました。
「…あら?」
「どうしました?姉さん」
「貴方さっき、会長たちと取り合ってるって言ったかしら?」
「はい。生徒会役員は全員。あんなののどこがいいんでしょう」
「……それって、貴方と同じなのではなくて?」
「!!」
すぐに電話して確かめてみます!と弟は携帯を取り出しました。
生徒会役員は勿論有能な者が選ばれますが、有能な者とは総じて大企業などの跡取りとして教育を受けてきた者で固まります。
つまり生徒会役員=御曹司と考えていただければ。
…何だか、大変なことになりましたね。
「姐さん!!」
「「お姐ちゃぁーん!!」」
「ねぇ、さ…」
「うわぁ〜ん!姐さん〜!」
弟から連絡を受けた生徒会役員たちは我が家に集合しました。
彼らは社交界や親の関係で昔から知っています。
彼らはわたくしのことを「姐」と呼びます。
「やっぱり、貴方たちも弟と同じように?」
「そうなんだ!俺なんか廊下でアイツがぶつかってきて、いつもならそんなの謝ったらこっちも悪かったとかで終わるのに、俺の口からは庶民がふざけるなとか出てきてさ!アイツと口論になって、気に入ったとか言ってんの!!んな訳あるかよ、気持ち悪ぃいいいいい!!!」
「僕らも聞いて!僕らのことを見分けられる人なんてお姐ちゃんや親衛隊の子にもいるのに、何でかあの子を見ると」
「この子だけが僕らを見分けてくれるって思いになるんだよ!何でそう思うか分かんなくて、でもあの子を目にすると何の矛盾も感じなくなるんだ!」
「ぼく、動物アレルギー、で、動物好き…違うのに……何でか触りに行っちゃって、かゆくなる…、ヤダ……」
「オレっ、オレなんか、アイツの前じゃ、キョッ今日の夜…ッイイコトしない、とか!すぐきききキスしたり、とか!とにかくスキンシップが激しくて!オレ女遊びとかしたことないのにっ、自分の知らない言葉とか言ったりして!この前、せふれって何だろうと思ってネット検索したら、したら…ッ、オレ童貞なんだけど!!」
……純粋に育ったんですね、将来大丈夫でしょうか。
ぐすぐす泣き崩れる彼らが、何だか違う方向に心配になってしまいました。
それにしても。
「何なんでしょうね、その子」
自分の意思とは全く別にその子をチヤホヤする。
恐ろしいほどの強制力です。薬でも盛られたにしても効果が限定され過ぎです。
「……さぁ?」
「今まで自分の言動に嫌悪するばかりで会長たちがおかしいのにも、姉さんに言われて初めて気付きましたし…」
「あの子の前だとみんなのこと恋敵って思っちゃって」
「みんなのこと好きなのに、嫌いになるんだよ〜!」
「みんな、幼なじみ…、仲良し」
「オレなんか可愛い可愛い弟のことまで敵視するんだぜ?自己嫌悪が、もう……」
弟たちが不本意でおかしくなっているのを放置する訳にもいきませんし。
「分かりました、可愛い弟たちの危機です。一肌脱ぎましょう」
「姉さん!」
「「姐さん!」」
「「お姐ちゃん!」」
「ねぇ、さ…ん…っ」
まずは協力者を集めましょう。
「副会長様!」
「よく来てくれました、姫」
ふわふわした可愛い女の子を、薄幸の美青年が迎え入れます。
「今日はお招きありがとう!」
「いえ、こちらこそ。姫と一日中居られるなんて、夢のようですよ」
「も、もうっ、副会長様ったら!そういうこと気軽に言ってると誤解されますよ!」
「誤解?ふふっ、誤解ではありませんよ、私の姫」
「〜〜っ」
顔を赤くする美少女と熱を孕んだ瞳で微笑む美青年。
を、モニターで見るわたくしたち。
「…………成程。これは怖い」
「ヒデェな」
「誰これ」
「冗談ではなかったんだね…」
集合した協力者たちもドン引きです。
そうですね、先程までドアの前で真っ青になって怯えていた子がペラペラと歯の浮くようなことを言っていますものね。
そして、チラリと横を見ますと……。
「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い」
「「おうち帰る〜〜!」」
「…………(プルプルプルプル)」
「イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ」
恐慌状態の生徒会役員たち。
声を聞いても危ないそうで、彼らは耳を塞いで目をギュッと瞑りうずくまっています。
その姿は多大な同情を引きます。ほら。
「お労しい、坊ちゃまたち…っ」
「お可哀想にっ」
「普段豪胆な息子がここまでになるとは、凄まじいな」
「ああっ、私の可愛い息子たちが毒婦の毒牙にっ、気づけなかった愚かな母親を許してちょうだい…!」
「兄上のこんな姿初めて見ました…女の人は怖いのですね」
「あに様、可哀想」
「コイツら、女恐怖症にならねェか?てか、既になってねェか?」
変な女に目を付けられて、不憫な子たちです。
姉は貴方たちの将来が心配です。
「あ、客間に入ったよ」
「そうですね。では、ほら出番ですよ」
「嫌だぁあああ!怖いぃいいいい!!」
「「お姐ちゃんの鬼ぃ〜!!」」
「ヤ、怖い」
「オレらもああなるからイヤだって言ってるのに!姐さん酷いよ!」
「うちの弟も全力で拒否していたわ。けれど、今ちゃんと役目を果たしてる。貴方たちは弟一人だけにあの苦行を押し付ける気なの?」
「そうは言っても…っ」
「あの子、だけ、はっ」
「あの女だけは勘弁して!!」
「うだうだ言ってねェで、男なら腹ァ括って逝ってこい!!」
「「字が違うよ〜!」」
小動物さながらに怯える彼らを客間に投入。
「おい、庶民が何でこんなとこにいる?身の程を弁えろよ」
「「僕らも姫ちゃんと遊ぶ〜!」」
「姫、いっしょ、居て?」
「今日も可愛いね。どう?今夜あたりオレと…」
「何ですか、貴方たち。私が姫と一緒に居たんですよ。帰ってください」
この豹変ぶり。馬鹿みたいな話でも目の当たりにすると信憑性が増します。
「副会長様、そんなこと言っちゃ悪いよ!みんなで遊べばいいんだもん!ねっ、みんな!」
無邪気な笑顔で言っていますが、演技ですね。
これはチヤホヤされて喜んでます。
「何だこのアマ」
「うざ」
「優越感に浸っていますわね、穢らわしい」
「こんな生き物を持ち上げなければいけないとは、屈辱以外の何物でもないね。しかも不本意に」
「お可哀想っ、出来ることなら代わって差し上げたい!」
「坊っちゃま…!」
この状況を本当に戸惑っているなら容疑も薄れましたが、より一層濃くなりましたね。
「行きます」
「おう」
そこにいた協力者たち全員で客間に乗り込みました。
「ぇ、だ、誰?誰も居ないんじゃ…」
困惑を見せる少女にニコリと微笑む。
「ごきげんよう。誰とはご挨拶ね、将来家族になるかもしれない子に忘れられているなんて、わたくし悲しいわ」
「あっ、お、お姉さん!す、すみません!私、人の顔覚えるの苦手で…」
「そうなの。最初から覚える気がなかったのかと思いましたわ」
「そんなっ、そんなことないですっ」
「姉さん、いくら姉さんでも姫を悲しませるなら許しませんよ」
少女を庇うように前へ出てくる弟たち。
…これで終わっても記憶はあるんですから、とんだ黒歴史ですよね。可哀想に。
さて、何をすればこの呪いは解けるのでしょうね。
とりあえず、事実を伝えてみましょう。
「落ち着いて聞いてくれますか?実はわたくしの弟とその友人たちが貴女に囁き続けてきた愛の言葉は全て嘘なのです」
「えっ?」
「弟たちもよく分かっていないのですが、何故か貴女が近くにいると勝手に身体が動いて貴女を口説き始めるようなんです。突然こんなことを伝えるなんて申し訳ないですが…」
「えと、何のことか分からないけど、それは、みんなが私のこと好きだから自然に身体が動いてるんじゃないですか?」
『…………………』
…………このメンバーを絶句させるとは、やりますね。
「おいおい、とんでもねェポジティブ思考だぞ」
「頭のネジをどこかに落としてきたんですかね?」
「無邪気を装っているが、自分にとても自信があるんだね。そうでなければ、そんなセリフはとてもじゃないが言えないよ」
「そんなに言うほどかしら?十人並みではなくて?」
「その通りです、奥様。あの小娘とならば比べるまでもなく奥様の方がお美しいです!」
「坊っちゃま……うぅ…」
協力者たちは言いたい放題です。それに目つきを鋭くさせる弟たち。呪いは継続中。
「そうですか…。では弟たちを解放してくれませんか?」
「え?」
「弟たちが各家の跡取りとされているのはご存知ですよね?」
「は、はい…」
「その弟たちが一人の女性に入れあげて、仕事をしないという今の状況は非常に良くありません。弟たちのためにも、離れてくれますよね」
疑問符は付けません。必要がない。
弟たちを本当に大切に思っているなら離れるでしょう。言われる前に自分で気付けと思わなくもありませんが。
「……何これ、こんなイベントあったっけ?追加イベント?」
何かブツブツ言っていますね。
「……ん?」
呪いにかかっている弟たちが静かだなと思ったら、弟の顔が少し強張っています。
あら?少女を前にしたら表情も歓喜に変わっていたのに…、どういうことでしょう?
思考を巡らしていると、少女が控え目に声を上げました。
「えっと、お姉さんの言う通り、離れた方がいいかもしれません。でも、それでも私はみんなと居たいんです!だからっ」
「テメェの意見は聞いてねェんだよ。嫁は離れろって遠回しに言ったが、暗にコイツらに二度と近付くなっつってんだ。バカかテメェ」
「旦那様」
「嫁。こういうタイプはストレートに言わねェと、ねじくり曲がった自己解釈するばっかで話進まねェぞ」
……それもそうですね。
「近付くなって……、どうして、私はみんなが好きなだけなのにっ、どうしてそんなことを…っ」
「本当に話が通じませんね。ここまで来ると特殊能力ですよ」
「頭悪い」
「人前で取り乱して涙を見せるなんてみっともないわね」
「君、こちらの言う通りにしてくれないかな。でないと」
「日本が世界に誇る五大企業を敵に回すことになりますが、覚悟はお有りですか?」
それまで後ろで見ていた彼らの家族が、わたくしの隣に並ぶように立ちました。
世界の企業と肩を並べる五家に、たかが一般人の貴女が立ち向かえると?
「ホント何なのこれ…。逆ハーエンド間近に家族に認めてもらうとかイベントなんてなかったじゃない……」
またブツブツ言っていますが、後悔も反省も何か考えている様子ではありませんね。このメンバーを目の前にしてその態度はある意味凄い。
「おい小娘。いいか?うちの義弟と友人たちはテメェのことを好きだなんてこれっぽっちも思ってねェ。むしろ、テメェに会いたくないっつって登校拒否になるとこだった」
「なっ?!」
自分に会いたくない、と聞いてようやく少女は素で驚愕を表しました。
「私に会いたくないって…、ホントなの?みんな」
「…………」
少女に問われても、弟たちは沈黙を守るだけ。
呪いが解けかけているようですが、キーは何なんでしょう?
「嘘よね?だって、みんなは私のこと、好きだって言ってくれたもの!自分だけを見ろって、他の男の所へ行くなって、私のこと愛してるって!」
「ですから、それは全て彼らの本心では…」
「黙ってなさいよ!私はみんなに聞いてるの!何なのよ、副会長様の姉とか家族構成欄にしか出てこなかったモブが!何なのよこのイベント!家族が出てくる必要ないじゃない、みんなは私のことを好きなんだから。ちゃんとイベントクリアして好感度はマックスのはずよ!みんなが私を愛してるの!ねぇ、そうよね!みんな!」
愛する人を見て、真っ青を通り越して真っ白な顔をする人がいるなら面白い話ですね。
それにしても、イベントだの好感度だの、彼女は一体何を言っているのでしょうか?
「〜〜〜〜っ、ぷはぁっ!!」
「っ動いた!!」
「「うわぁあああんっ」」
「怖かったーー!!」
「ぐずっ……おうち、帰る」
まるで、今まで息をしていなかったかのように、息継ぎをする弟たち。
どうやら呪いは解けたようです。良かった…。
「兄上!大丈夫ですか!?」
「あに様!」
「あぁっ、良かったわ…!私の可愛い息子たち!」
「坊っちゃまぁ〜!」
「ようございました!」
「気はしっかり保て、と言いたいところだが、今回ばかりは本当に良かった。災難だったな。よく頑張った」
協力者たちがそれぞれ呪いが解けた自分の家族へと向かいます。
彼らも少女の側には居たくないのか、必死の形相で走ってきます。
「ぐすっ……お、ねえ、ちゃっ…うっうっ……」
走ってきた勢いのまま、わたくしに抱きついてきた弟を優しく受け止めます。
恐怖から解放され安心したのでしょう。小さな頃のように「お姉ちゃん」と呼んできました。懐かしい。
「よしよし、可哀想に。怖かったですね。もう大丈夫ですよ。怖いものはお姉ちゃんが追い払って、二度と貴方に近寄れないようにしますからね」
「うぅ〜〜っ」
「大丈夫、大丈夫よ」
昔、幽霊を怖がって泣いていた弟にしていたようにポンポンと背を優しく叩きます。
ええ。
あとはお姉ちゃんに任せなさい。
わたくしの大切な弟を怯えさせた挙句泣かしたんです。
それ相応の罰は受けてもらいますよ。
「な、何なの、何なのよこれは……」
「弟たちに働いていた強制力が解けたようですね。残念でしたね?もう、弟たちは貴女をもてはやすことはありません。貴女の思うようには動きませんよ」
「何で…こんなことに……?副会長様!会長様!書記様!会計様!庶務様たち!」
『ヒィッ!』
呼びかけにビクつく彼ら。弟もプルプルと震えています。
この女……。
「旦那様」
「ああ」
旦那様は少女の方へ一歩踏み出したかと思うと一瞬の内に床へ叩き伏せました。素敵ですわ、旦那様。
弟を庇うように抱きしめて、わたくしは少女に目は一切笑っていない笑顔を向けて、言いました。
「わたくしの大切な家族を傷付けたこと、死にたくなるほど後悔させて差し上げます。わたくしは、貴女を絶対に許しません」
「おねぇちゃん…」
わたくしを見てくる弟にニッコリと笑いかけると、へにゃっと安心したように笑ってくれました。可愛いですよ。
わたくしたちの後ろにいる協力者たちも同じ思いでしょう。少女へ向けて殺気に近い怒気が飛んでいます。
「……ぅ…」
「あん?」
「…がう……、違う違う違う違う違う違う違う違うっ!!!副会長様も会長様たちも!違う!そんな風に泣いたりしない!副会長様は腹黒で家族に愛されず愛に飢えてて、愛を教えた私を溺愛してくれるの!会長様は俺様で鬼畜で、可愛いって言うと照れ隠しで甘いキスをしてくれるの!庶務様たちはゲームで当てた私を気に入って、同一視しない私を独占したくなるの!書記様はワンコで動物が大好きで、野良猫に優しく接する私を良い子だって仲良くなって、自分の言葉を理解してくれる私に懐くようになるの!会計様はチャラくて自分より優秀な弟がコンプレックスで、弟と比べなかった私に本気で好きになるの!
こんなっ、こんな風に、姉に甘えたり父親と普通に会話したり母親と使用人に泣きついたり妹を抱きしめたり弟に心配されたり……、こんなのっ、生徒会じゃないっっ!!!!」
………え、何これコワイ。
旦那様もモニターを見ていた時以上にドン引きで、一気に何かを喚き散らす少女から離れてわたくしの隣へやってきました。
ええ、離れた方がいいでしょう。きっと何かの病です。うつったら大変ですわ。
泣いていた弟たちもあまりの驚きで涙が止まっています。何を言っているのか、頭の容量を超えたのでしょう。
おぞましく痛ましい気味の悪いものを見る目の向けられても、少女は狂ったように独り言を続けます。
「こんなの嘘よ、バグよ、あははは、やだ、私セーブしたっけ?だいぶ戻っちゃうかもしれないけど、でもこんな展開許せない!製作会社にも文句言わなきゃ、ああ攻略法も探さなきゃ、検索したらあるかな、アハッ、そうよ、これはゲームだもの、やり直せるのよッ、アハハははははハハはははははははははははははハはははははははははははははハハハははははははははははははははははははははははははははははははハハはハハハハ……!!」
客間に、少女の狂った笑い声が暗く響きました。
わたくしは部屋でメイドの淹れた紅茶を飲んでいました。
隣には旦那様、膝には泣き疲れて寝てしまった弟。
あの少女が狂気染みた笑いは、家の警備員に引きずられて行かれてからも続きました。
その声に恐怖が限界を超えた子は気を失いました。
協力者たちは自分の家族と一緒に家へと帰って行きました。しばらく悪夢を見そうなので、しっかり見ていてあげて下さいね。
「結局、弟たちの変貌はどういった理屈だったのでしょうか」
「さァな。尋問に向かわせた部下たちの報告じゃあ訳の分からないことをずっと口走ってるらしいし、確かなことは何一つ分かっちゃいねェ……、が」
不自然に言葉を切る旦那様に、弟の寝顔を見ながら頭を撫でていた顔を上げました。
旦那様はそのワイルドなお顔にニヒルな笑みを浮かべていました。
「義弟も他の御曹司も無事だった。それでいいだろ」
……。
私は私の膝を枕に穏やかに眠る弟をもう一度見て、自然と微笑みました。
「ええ、そうですね」
弟たちも、時が経てば今まで通りに過ごせるようになるでしょう。軽いトラウマにはなるかもしれませんが、それは……。
「次はありません。弟の影を増やし、近寄る害は弟が知る前に除去します。二度と、あんなモノを弟に近付けませんよ」
今回の呪いともいえる強制力の原因は分かりませんでしたが、解放されたので良いでしょう。
解明せず同じことがあったらどうするつもりだ、と言う輩もいるかもしれませんが、『次』など有り得ません。
わたくしが許さない。
…今回はわたくしの力不足でしたが。
「わたくしの全てを持って、守ります」
可愛くて大切なたった一人の弟を。
小さな頃から変わらない、わたくしの守るべき者。
「あァ、嫁の好きにすればいい」
わたくしの覚悟を婚姻する前からご存知の旦那様がギシリ、と身体をこちらへと向けさせて、とても楽しげな笑みで、こう言いました。
「守りたいものを先陣切って守ろうとするお前を、守るのが俺だ」
唇に感じる温かみに、わたくしは頬を緩めました。
「ありがとうございます、旦那様」
弟「姉さん、ありがとうございました」
生徒会『姐さん(お姐ちゃん)、ありがとうございました!!』
姉「いいえ、わたくしも早く気付いてあげられなくて、ごめんなさいね」
弟「そんなっ、姉さんが助けてくれなかったら僕らは今頃も……本当にありがとうっ!」
姉「貴方たちが無事で良かったわ」
『姉さん(姐さん)(お姐ちゃん)…!』
旦那「…………」
一見逆ハーレムの姉に、分かってても面白くない旦那様。
☆★☆
・姉
副会長の姉。
クール系美人。
既婚者。旦那様ステキ、愛してます。
ブラコンでなく、弟が大事なだけ。
弟に影(護衛)をこっそりつけてる。今回から増えた。
・旦那様
姉の夫。
口悪い。
社長だが、実際はヤがつくとこのトップ。隠れ蓑用の会社が成功した。
揺るがない嫁を気に入っており、その嫁を守るのは自分だけと思っている。
・弟
生徒会副会長。
儚げ美人。
人見知りで、人と仲良くなるのが物凄く下手。
生徒会役員はみんな幼馴染みで友人。
敬語笑顔が標準装備だが、別に愛に飢えてるとかは全くない。
昔から変なモノから守ってくれる姉を守れる男になりたいのに、未だ守られっぱなしの自分が不甲斐ない。
・会長
カリスマあるし天才肌の秀才だけど、俺様でも鬼畜でもない。
父親を超えるのが目標。
姐さん呼びの理由は、副会長に群がるモノを潰す時に一緒に自分に群がってたモノも潰してくれてたから。
自分を特別扱いしないし優しいし大感謝で、大好き。
・会計
下ネタが通じないくらいピュアで、間違ってもチャラい下半身男ではない。
自分より優秀だけど弟も本当に可愛がっていて、コンプレックスはない。
姐さん呼びの理由は、小さい頃周りが弟ばかりに構っていた時期に副会長たちと一緒に面倒を見て可愛がってくれたから。
本当の姉みたいで大好き。
・書記
話すのは遅いが、別に何かトラウマがある訳でもない。
動物アレルギーで動物苦手。可愛いとは思うが実物はダメ。
妹がいる。可愛い。
姐さん呼びの理由は、小さい頃に喋るのが苦手な自分の言葉を根気強く待って、話を聞いてくれたから。
あのままだったら、ちゃんと話せない自分が嫌いで妹も嫌がってたかもしれないと思うので、感謝いっぱい。大好き。
・双子。
そっくり顔だが、見分けてくれる人はいる。
わざと同じ格好をして遊んでるだけなので、悲しみとかそんなものはサッパリない。
愉快犯な性格だが、お姐ちゃんはリスペクト。
お姐ちゃん呼びの理由は、自分たちのことを間違えないし、捻くれてた頃の自分たちと家族との仲を取り持ってくれたから。大好き!
・協力者
姉の旦那、会長の父、会計の弟、書記の妹、双子の母と侍女
・姫
乙女ゲームのヒロインに転生した子。
この世界はゲーム!という発言を幼い頃にしていたせいでこの世界の家族には見放されている。
家族から愛を得られず益々攻略対象に執着する。
世界の強制力により愛を得たが、それにより龍の逆鱗に触れた。
☆強制力
対象の意思は関係なく、プログラム通りに動かされる。
ヒロインが攻略対象の前でヒロインらしからぬ行動をとると、プログラムがバグって強制力が失われる仕組み。
☆世界
ゲームかもしれないが、ゲーム前の背景はあるし、人にも意思はある。
神のみぞ知る、である。