星砂糖の夜
エピローグです。第3話『あめのかわ』をご覧になってない方はそちらからどうぞ。
一夜限りで消えてしまう『天の橋』に近付かないことを子供たちに約束させ(保険のため家中に鍵を掛けた)、空いている客室にまとめて放り込むと、姉弟の周りはやっと静かになった。町に手紙も飛ばしたから、今頃は子供たちの親も安心しているだろう。人騒がせな悪戯小僧にはすでに説教済み。後は明日町の皆と協力して道を開き、子供たちを送り届けたら、この騒動は収束だ。それが済めば『雨雲』を織って客に渡し、また雨が止んだら材料を集めに行かなければ。
今日は忙しい一日だった。そして、もうしばらく忙しい日々が続きそうだ。
眠る前のひととき、ベガお手製のシュガーミルクを片手に談笑するのが慣わしだ。今日はないが、たまにケーキも作る。このときばかりは、アルタイルの異常な集中力も途切れてフラフラとキッチンへやってくる。朝は弟のためにコーヒーを淹れるが、夜はシュガーミルクが定番だ。寝る前にコーヒーだなんてとんでもない。これはベガの一方的な命令だが、なぜか生意気な弟もこれには反抗しない。ベガのシュガーミルクが美味いからだろうか。シュガーミルクはほんのり甘い、星砂糖の味がする。
「ねえアル」
「何?」
だいぶ瞼の下りてきたアルタイルは頬杖を付いたまま、顔だけを姉に向けた。
「あの、森で言ってたことなんだけど……」
弟は黙って瞳を瞬かせること数回、続いて首を傾げた。
「俺何か言ったっけ?」
どうやら本気で言っているらしい弟に、ベガは笑った。こういう弟だ。わかっていたはずだ。シュガーミルクからほのかに上る湯気が、ベガの目元を隠した。
「ううん、何も」
「そうだっけ」
「うん」
少しの時間、沈黙が流れた。アルタイルが頬杖を解き、小さく呟くように訴えた。
「姉さん、今度さ、あの『おもちゃの船』のストック作らない?」
今度はベガが瞳を瞬かせる番だった。
どうせまた天使たちのエサに使われるんだろうけれど。
「いいよ。今度はもっと上等なの――アルが人にあげたくなくなるくらいの作るからね」
星砂糖が瓶の中でコロンと転がり、それを最後に『紡ぎ唄』の夜は静かに更けて行った。




