表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星巡り、ボン・ボヤージュ!  作者: 井平カイ
初めての別惑星は何か色々問題ありでした
8/11

 それからはしばらく森をひたすらに歩き続けた。

 本来なら乗り物も用意出来るそうだが、これだけの木々が生い茂る場所では返って危険らしく、結局は徒歩になった。目標の地点までは徒歩三時間とのことであるが、森の木々をよけながら、大きな根を超えながらの移動は、実際の距離以上の疲れを招いていた。

 ここで、一つのことが発覚した。それは、メンバー達が意外と体力がないことだ。俺も少しは疲れてはいたが、それ以上に疲労困憊になるメンバー。一番体力がありそうなシュートですら、肩で息をしていた。あれだけの文明があるのだから、それも当然かもしれない。発達し過ぎた文明で、人が本来持つ“歩く”という当たり前の行動ですら、彼らにとっては重労働に感じるのだろう。

 圧倒的な科学力と引き換えに、本来あるべきの能力を失う。それは、何にでも同じなのかもしれない。優れた何かを得るには、何かしらの代償を払わないといけないのだろう。


「……クラウス、あなた意外とタフなのね……」


 一人普通に歩く俺に向け、ユウは呆れるように呟く。ていうか、まだ一時間程度しか経っていないのだが……


「俺は学校には歩いて行ってたしな。それに、昔親父に鍛えられたし、体動かすのは割かし特異な方なんだよ」


 男とは、常に強くあるべし。それは、親父の教えの一つ。その掲げられた言葉の元、幼少時にはとことん鍛えられた。空手、柔道、剣道、合気道……あらゆる道場に通い続けた。それは中学まで続けられたのだが……ほぼ一週間まるまる毎日のようにしごかれ続けた俺には、あまりいい思い出とは言えない。それでも、体力は自然と跳ね上がったわけで、そういう意味では親父には感謝している。現に、今現在涼しい顔をしているのは、俺一人だった。


「……クラウスくん、地球人って、みんなこんなに体力があるの?」


 一番バテバテとなっていたニクルは、青ざめた顔をしながら質問する。


「みんなかどうかは知らないけど、少なくとも体力は俺たちの方が上みたいだな。中には、百メートルを九秒台で走る奴もいるぞ?」


 金メダリストとか。


「百メートルは、と……なな、なんと! 52フィル!!」


 あ、フィルって距離のことだったのね。メリアフィルって、どれくらいなんだろうか……


「……それ、何か機械を使ったり、パワードスーツ着たりしてるの?」


「まさか。純然たる、肉体のみだよ」


「マジかよ……化物だな……」


 ユウ達にとっては、途轍もなく凄まじい早さのようだ。別に俺が走れるわけじゃないのに、何だか誇らしくなった。電圧的な名前の人。貴方の記録は地球人の誇りです。


 まあそれは置いといて、さっきの巨人たちだが、動体センサーに反応しなかったのは、地中を進んでいたかららしい。身体についても、体温が相当低いらしく、土の方が暖かいもんだから、熱源センサーも全く反応しないようだ。

 地中を進み、獲物を見つけるや飛び出し狩る。道の途中で色々手足が異常に長い動物だとか、けったいな色をした軟体生物だとかいたが、おそらくはあの巨人たちが食物連鎖の頂点に立っているのだろう。


 そんな奴らがいる星のどこに星の涙があるのだろうか。俺たちは、マリが持つレーダーだけを頼りに、道なき道を歩き続けた。




 *  *  *




「ここだよ~」


 着いた場所はとある岩場。反応は、その中からあるらしい。周囲を見回ってみたが、入り口がどこにもない。ていうか、これ一枚岩なんですけど……

 そもそも、星の涙は突然として空間に現れるらしい。故に、どこにあってもおかしくはないのだが……まさか、岩の中にあるとは……


「参ったわね……これだと、この岩を砕く必要があるんだけど……」


 ユウは腕を組みつつも、表情を険しくさせていた。その理由は、何となくわかる。こんなところで爆発なんてさせたら、一発で巨人たちが大集合する。


「どうするんだ、ユウスフィア? 少しずつ削っていくか?」


「そうね……それしかないとは思うんだけど……」


 それは、少々厳しいと思う。ぶっちゃけ、どう見ても俺以外は体力がかなりヤバめだし。


「う~ん、反応はこの岩のちょうど中心だし、削っていくならちょっと時間がかかり過ぎるかもね~」


 マリは頭をポリポリかきながら補足する。


「……僕、そこまで頑張れないかも」


 それを聞いたニクルは、がっくりと肩を落としていた。


 それぞれが案を出すが、この岩、かなり頑丈らしく、並大抵の衝撃じゃ壊れないことが分かった。それから全員はああでもないこうでもないと議論を交わし、結果まるで葬式のような雰囲気が周囲に散布することに。

 ……だが俺は、一つ方法を思いついてしまっていた。でも、ちょっとそれには色々と問題があるんだけど……とりあえず、言うだけ言ってみることにする。


「なあ……ちょっと思ったんだが……」


「どうしたの?」


「いや、ちょっと思いついたことがあるんだよ」


 その言葉に、全員が俺の方に視線を送った。……もっとも、その目は疑いの目であったが。


「……まさか、諦めるとかいわないわよね?」


「そう言いたいのも山々だけど、言ったってどうせ採用されることはないから言わねえ。……要するに、この岩場をぶっ壊せばいいんだよな?」


「まあ……そうだけど……」


「だったら、俺に案がある。もちろん上手くいく保証はないし、危険だってある。……それでもいいなら、俺に任せてくれよ」


 ユウ達は、黙り込んだ。俺の真意を探っているようだ。まあ、採用されないならそれでもいいけど、今の段階で何か案があるわけでもないしな。


「……分かった。ここは、クラウスに任せるわ」


「了解。……マリ、質問があるんだけど」


「ほいほい」


「重力制御装置って、調整できるか?」


「まあ、出来ないことはないけど……どうするの?」


「とりあえず、俺の重力を二十分の一くらいまで軽くしてくれよ」


「いいけど……でも、それってスンゴク大変だよ? ちょっと飛んだらポーンと飛んでっちゃうし、何より重力場の過剰な変化はかなり体に堪えるよ?」


「いいから。頼むよ」


「う~ん、わかったよ」


 その返事を聞いた俺は一度頷き、今度はシュートの方を見た。


「シュート、バーベキューセットって、まだあるか?」


「ああ。あるけど?」


「じゃあ、それ、出してくれよ」


「出すって……何に使うんだ?」


 その問いを受けた俺はニヤリと笑う。


「決まってるさ。――バーベキューだよ」




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ