シロの中で
ちらちら、ふわふわ、よろよろ。
雪が、ふってきた。
そんな中でも、公園のベンチの上からは動きたくない。
だってひとりぼっちだったら寒くないから。
誰かといっしょにいると、寒いことがわかるから。
ちらちら、ふわふわ、よろよろ。
雪はまだ、ふっている。
上なんかみたくない。
そこに誰かがいたら困る。
今のこんな顔、みられたくないから。
ちらちら、ふわふわ、よろよろ。
雪はもっと、ふってくる。
むかし、ある人が言ってた。
雪はね、空からの手紙なの――。
その人も、もういない。
ちらちら、ふわふわ、よろよろ。
雪は、積もっていく。
それでも、膝の上の雪はとけていく。
ぽたぽたと、上から落ちてくるしずくで。
読めない手紙が、読みたい手紙が、消えていく。
……………。
雪は、いつのまにか、やんでいた。
それでも、動きたくない。
地面の上にも、積もった雪。
明日には、溶けてしまう。
ふと、そのとき――
さくり、さくり。
誰かの足音。
小さな足音。
雪を踏んでやってくる。
さくり、さくり。
「ここにいたんだ、―――。」
顔は上げたくない。
今の顔だけは、見られたくない。
今の顔を見ていい人は、もういないから。
「早く帰ろう、―――。」
そっと、さし出された手。
小さな小さな手。
つかんだ手は、暖かった。
さくり、さくり。
二つの足音が、重なる。
地面だけを見ている。
つないだ手にひっぱられる。
さくり、さくり。
そっと、上をみあげた。
そこには、雲からでてくる、お月様。
三日月の、かけてるお月様。
それが、ちょっとだけ二人に、にていた。
二人がいっしょに笑った目に。
もういなくなった、二人の。
さくり、さくり。
月に照らされて、二人は、歩いていった。