おまけ
ある人物の過去話。
会話文のみです。
短いので気軽に読んでください。
「なぜだ?」
「それは、わたしがあなたの命を救った理由を聞いているの? だとしたら、こう答えるしかないわね。あなたは強く、そして美しい。わたしを惹きつけてやまないあなたを見捨てるなど考えられない、とね」
「人間くさい精霊だ」
「普通よ。あなたがわたしたちのことをよく知らないだけ。神は自らに似せて人間を形作った。神の眷属たるわたしたちが神の似姿たる人間に惹かれない理由がないでしょう」
「この顔が焼印を押されてもなお、美しいか」
「ええ。とても。それに、その焼印は古くは、神に見初められたものに自然と浮かび上がる聖痕を模したもの。現代の人間社会の中では、単に奴隷身分の証のようになってしまっているけど、古くから在り続けているわたしたちにとっては神聖なものなのよ」
「これは神に刻まれたわけじゃない」
「知っているわ。わたしはただ、顔に焼印を押された程度ではあなたの魅力は微塵も損なわれない。そう言いたかっただけなの」
「あんたの目は腐ってる。俺はとるにたらない、くだらない存在に過ぎない」
「それは、大切な肉親の女性を守ることができなかったから? 愛しい人を守れなかった自分には価値がないと?」
「ああ、そうだ。俺にとってはサーシャを守ることが全てだった。それがうしなわれた以上、俺に生きる意味はない」
「残念だけど、あなたは死ねないわ。わたしの加護があなたを縛るから。暗闇と影、それと夜空に浮かぶ月のある限りね」
「……厄介な精霊に目をつけられたものだ」
「諦めなさい。人間の幸福は不幸を受け入れ、諦めるところから始まるというわ。きっと、あなたにも今に、新しい生きる意味が見つかるときがくる」
「どうでもいい話だ」
「……わたしにもっと力があれば、サーシャの命も救えたのだけど」
「上位精霊といえど万能じゃない。そんなことはわかっているさ。悪いのはあんたじゃない。俺に力がなかったから、弱かったからいけなかった。それだけの話だ」
「だから、死んで楽になりたいの?」
「いけないことか?」
「いけないとかじゃなくて。わたしがあなたにそれをしてほしくないの。たとえ、自由意志を束縛してでもね」
「……いずれ、俺は魂の自由を取り戻す。そのときには」
「そのときまでには、あなたに死ねない理由ができていることをわたしは願っているわ」