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私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていた~  作者: unnamed fighter


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8 温度はいかがでしょうか

 もはや溜め息すら出なかった。


 明日、絶対チーフに言おう。護衛を変えてくださいって。


 そう心に誓って、ベッドの上でごろりと仰向けになる。木材が剝き出しの天井をぼんやりと見つめながら、ぐったりと腕を広げた。


 本当は今日は市場に食材を買いに行く予定だったのに。

 新しい香草と、干し肉、それから豆類も補充したかったのに。


 でも……、あいつと一緒に行くのなんて、死んでも嫌なんですけど。


 嫌味で、態度が悪くて、口を開けば一言多い。顔を見るだけでイライラする相手と、休日を過ごすなんて拷問でしかない。


 リリアは実家に帰っていていないし……、もう食べる物がない。乾燥パンも底をつき、保存食もほとんど残っていない。


「……はぁ」


 いくら考えても、行くという選択肢しか残っていなかった。


 観念した私は身支度を整えて部屋を出る。廊下は静かで、休日特有のゆるんだ空気が漂っていた。

 隣の部屋の前に立ち、少しだけ間を置いてからノックする。


 コン、コン。


 数拍の沈黙の後、ドアが開き――、


「なんだ?」


 宿敵クラウディオが現れた。

 ちっとも騎士らしい振る舞いは皆無なくせに、立ち姿だけは無駄に様になっているのが本当に腹立たしい。


「市場に買い物に行きたい」と用件だけを端的に告げる。


 それを聞いた彼は、わざとらしく溜め息をついた。はいはい、予想通り。


 あからさまに嫌そうな顔をしたまま部屋から出てきたクラウディオは、私の横を通り過ぎて「行くぞ」とだけ言って、スタスタと歩き出す。


 はぁぁ?? こっちだって好きで一緒に行くわけじゃないんですけどぉ?


 私は心の中で全力のメンチを切りつつ、毒づきながら後を追った。


 宿舎を出て並んで歩き始める。

 

 歩調は速い、と思いきや私が遅れない速度だ。なんだかんだ言って、歩く速さは私に合わせてくれているらしい。


 そんな彼の横顔を、ちらりと盗み見る。


 引き締まった顎のライン、真っ直ぐ前を見据える横顔。

 口を開かなければ、本当に……。


 ぐぬぬぅ……。


 心底業腹だけど、顔はすごく好みなんだよな。これで性格さえ、性格さえ良ければ言うことなしなのにッ!!


 そんなことを考えているうちに、城下町へと続く通りに出ていた。


 石畳の道には人が行き交い、露店の呼び声が響く。新鮮な野菜、色とりどりの果物、香ばしい焼き菓子の匂い。活気に満ちた市場の空気に、自然と気分が浮き立つ。


 やっぱり市場はいいなぁ。


 私は馴染みの露店で足を止め、真剣な表情で食材を見比べる。葉の張り、色つや、香り。頭の中で献立を組み立てていく。


 あれもいい、これもいい、とつい買い込んでしまい、気づけば買い物用のトートバッグはかなり重くなっていた。肩に掛けた紐が食い込み、じわりと痛む。


「……」


 ちらりと隣を見て、一応という体で口を開く。


「持ってくれないの?」


「俺は護衛だ。荷物持ちじゃない」


 はい、即答。知ってましたけどね。


「それに荷物を持っていたらお前を守れない」


 その一言が、思わぬ角度から胸に飛び込んできた。


 どくん、と心臓が大きく跳ねる。


 お前を守れない――。


 もちろん、業務上の言葉だ。イチマイクロミリほどの他意もない。


 分かってる、分かってるけど……。


 それでも心臓の音がやたらとうるさくて、思わず視線を逸らした。


「ふ、ふん! べ、別にいいですよーだ! わっ、わわ……!」


 意識が散漫になっていたせいか、私は人の波に呑まれて流されそうになる。


 その瞬間、手首を掴まれぐっと引き寄せられた。


「――っ」


 クラウディオの胸に私の額がぶつかる。


「え……?」


 驚いて顔を上げると彼は私の肩に手を回して、「あまり俺から離れるな」と言った。


 私は今、彼に片手で抱かれている。

 この体勢、どう見ても〝恋敵に『こいつはオレの女だ』って宣言するシーンのアレ〟じゃない!?


 自分の顔が熱くなるのが分かる。胸の鼓動は、さっきよりもずっと速い。


 な、なんなのこの人……、ナチュラルにイケメンムーブしないでくれる!?


「わ、わかったから……気を付けるから……」


 そう言うとクラウディオはすっと腕を離した。何事もなかったかのような涼しい顔。


 驚きの温度差!!


 私は動揺した顔を見られたくなくて、うつむいたまま少し速足で歩き出した。


 そのときだった。


「あっ! チドリさん!」


 聞き覚えのある明るい声にはっとして顔を上げる。


 人混みの向こうで手を振っているのは、ノエルだった。




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