55 コードネーム
「はあ? 毒を以って毒を制すだと?」
幹部たちは一斉にぽかんと口を開けた。この女は一体何を言っているんだって感じに、彼らの頭上にはクエスチョンマークが浮かんでいる。
そんな空気の中、隣にいるエドガーだけが眼を見開き、「なるほど……」と呟いた。
「司令、彼らへの説明は私がします。司令は隊員たちに作戦概要を伝えてください。おそらく先ほどの一言だけで十分と思いますが」
「分かりました」
短く頷き、踵を返すとマントが風をはらんでふわりと舞う。
ほっ……。なんとか司令官っぽく演じれたかな?
ドキドキが収まらない。エドガーが詳しい説明を引き継いでくれて良かった。あんな怖い顔で睨んでくるおじさんたちに上手く説明する自信はないよ……。
「作戦は決まったのか?」
東屋へ戻ってきた私にクラウディオが腕を組んだまま問う。
私はこくりと頷き、フェルに視線を向けた。
「フェルさん、アルタイルの装備の中に可燃性ガスを検知するタリスマンがありましたよね?」
「もちろんあるッスよ」
「検知する基準って変えられますか? たとえば上限値でタリスマンが反応するように設定するとか」
フェルは一瞬だけ考え込み、顎に手を当てる。
「少し時間があればいけるっス」
「そうですか。では、すぐに調整をお願いします」
「了解ッス」
「それで……、司令は具体的にどうするつもりですか?」
私を見つめるノエルの表情と声はどこかぎこちない。私が司令官だという現実に、戸惑っている様子。今まで接していたときと違って硬さがある。この前まで食堂で働いていた人が突然騎士服を着て現れたんだから当然よね、しかも司令官ってさ……。
私は一拍だけ間を置き、全員を見渡す。
「毒を以って毒を制します」
さっきと同じセリフを告げた瞬間、眼の奥に火が灯ったようにノエルの表情が変わった。
「そうか、それなら確かにいける。思いも付かなかった……」
そう言ったノエルの隣で、クラウディオがくつくつと笑う。
「無害そうな顔して、イカレた作戦を考えたもんだ」
〝イカレた〟とは、ずいぶんな評価だけど、きっと彼なりの賛辞なのだろう。さすが口の悪い男だ。
「今は誉め言葉として受け取っておきます」
いなすように返して私は微笑を浮かべた。
「チドリ司令」
背後からエドガーの声がかかる。
「衛士隊長から作戦実行の承認を得ました。現在、魔素兵器を取り寄せていますので届き次第、行動を開始します」
「了解しました」
短く応じると、エドガーはそのまま隊員たちへと向き直る。空気が一段と引き締まる。
「各員の任務分担を伝える」
全員が無言で頷く。
「イーグル、交渉役だ。国務室の官僚に扮し、犯人と接触。可能な限り注意を引きつけろ」
「了解」クラウディオが応えた。
「ホーク、突入役だ。合図を待って屋上から突入しろ」
「了解!」ノエルが応える。
「スラッシュ、私と工作班だ。必要な物があれば現地指揮所に伝えて用意させろ」
「了解ッス!」
「局面の指揮は私が執りますが、よろしいでしょうか」
エドガーがこちらを見てきたので、「よろしくお願いします」と即答した。
部隊として訓練を重ねてきたエドガーの方が、隊員たちの特性やスペックを理解している。ましてや端から私に指揮なんて執れるはずがない。
作戦を考えただけでも上出来なのだ。私の仕事は終わったと言っても過言ではない。はっきり言って、これ以上のことはできない。
一つ言えるとしたら、正直なところ、口が悪い、性格が悪い、態度最悪の三拍子そろったクラウディオより、ノエルやエドガーの方が交渉役として適していると思う。
でも、学生と同じ年齢のノエルでは若すぎて交渉役としては不向きだし、エドガーには局面の指揮がある。だから、消去法でクラウディオしかいない。
「チドリ司令、司令のコードネームを決めておきましょう」
「え? コードネーム、ですか?」
「フェルの開発した〝離れていても聞こえるくん〟を使用します。作戦中に司令を呼び出すこともあり得ますので」
真面目な顔で〝離れていても聞こえるくん〟なんて言われると、思わず吹き出してしまいそうになる。この事件が解決したら名称を変更するようフェルさんに具申してみよう。
って、もしかして変なフラグを立ててしまったかな?
「我々は鳥類で統一しています。お好きなコードネームを付けてください」
おっといけない、コードネームを決めないと。そうは言われてもパッと思い浮かばない。私が呼び出されることはないと思うけど、だからといって適当なのは嫌だし、うーん……。
パッと閃いたのは、自分のファミリーネームの最初とファーストネームの最後を合体したものだった。
『白』城千『鳥』で白鳥、つまり――、
「それではスワンにします」




