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私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていた~  作者: 堂道廻
第三章【初陣】

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54 人はそれを覚醒と呼ぶ、かも

 校舎の窓から死角となる位置に、現場指揮所は設置されていた。


 簡易的な木製の折りたたみテーブル。その周囲を、年季の入った鎧を身にまとった壮年の衛士たちが取り囲んでいる。おそらく彼らは衛士隊の幹部だろう。


 テーブルの上には校舎の見取り図が広げられ、彼らは指で位置を示しながら言葉を交わす。焦燥と緊張、張り詰めた空気がその場を支配していた。


 その輪の中へ、エドガーが一歩踏み出した。


「戦術騎士隊アルタイル、到着しました。国務室および騎士団長の命により、本件の対応を引き継ぎます」


 簡潔で無駄のない報告に、幹部衛士たちが一斉に振り返った。向けられる視線は鋭く、そして露骨だった。値踏みするような鬱陶しさを隠そうともしない視線。


「なんの実績もないひよっこ部隊が……」


 誰かが吐き捨てるように言った。その声には、はっきりとした嫌悪が混じっている。


 彼らは自分たちの縄張りを荒らされていると感じたのだろう。そんな空気がひしひしと伝わってきた。けれど、エドガーはまったく意に介さない。まるで風でも受け流すかのように、淡々と口を開いた。


「それでは現在の状況を教えてください」


 舌打ちがひとつ、乾いた音を立てる。それでも幹部たちは私たちを作戦卓へと招き入れ、渋々といった様子で説明を始めた。


 犯人と人質がいるのは校舎四階の音楽室。

 窓はすべてカーテンで閉ざされ、内部の様子は確認できない。


 事件直後に逃げ出してきた生徒の証言によれば、犯人はこの学園の教師、ノイック=エイケンズ。

 人質は、アラバスタ侯爵家令嬢、ローザ=アラバスタ。


 突入した衛士隊の救出チームは、仕掛けられていたトラップによって負傷して撤退。


 加えて、隊員が携行していたタリスマンが可燃性ガスを検知。

 ノイックが何らかの方法で可燃性ガスを発生させ、室内はガスが充満している可能性が高い。


 現在まで完全な膠着状態であり、外部から呼びかけを継続しているが反応はない。


「それで……、この状況をどうやって解決するつもりなんだよ? 精鋭無比のアルタイルさんはよぉ……」


 露骨な飛んできた皮肉を「そうですね」とエドガーが静かに継ぐ。


「まずは可燃性ガスの発生源を特定し、断つことが最優先です。犯人が心中を図る可能性もあります。悟られないようにガス濃度を下げたうえで突入。それが難しければ、刺激を避けつつ交渉を継続し、犯人の疲労を待ってから制圧します」


「けっ……、そんなこと俺たちだって思い付くぜ」


 吐き捨てたのも当然、それは教科書通りの回答なのだから。

 エドガーの提案は正にセオリー、マニュアルにも書かれている。


 堅実で確実な手段であり、当たり障りのない方法。できるならとっくにやっているし、できないから困っているであって、今の状況は即座に打開する案ではない。


 結局は持久戦しかない。

 

 でも、なんだろう……。なにか引っかかる。本当にガス濃度を下げる必要があるのかな? ガスの発生源が特定できていなくても、もっと簡単に安全な状態を作れるような気がする。


 ガス、可燃性、引火、玉ねぎの腐った匂い……。


 それからなんだっけ? 大学の授業で教授が興味深いことを言っていたような?


 都市ガスは空気より軽くてプロパンガスは重い。それから、それから……。


 思い出して、思い出せ、思い出すのよ、千鳥!


 少女を助ける方法を、あなたは知っている。


「おい、さっきから黙っているがよ」


 現実に引き戻すように、低い声が飛んできた。


「あんたが司令官なんだろ? 何かないのかよ。それともただのお飾りか?」


 腕を組んだまま衛士の男が睨みつけてくる。


 けれど、その言葉は耳に入っていなかった。


 思考が一点に集中する。


 断片が繋がる。


 ――マニュアルの活動編。あのとき読んだ記述。「ああ、こっちの世界も同じなんだな」と思った――。


 次の瞬間、


「ああっ!」


 私は思わず声を上げていた。

 

 幹部衛士たちが一斉に身をかがめてテーブルの下に潜り込んだ。


「思い出した!」


「な、なんだよ急に大声で叫びやがって! 爆発したかと思ったぞ!」


 そう、可燃性ガスの特性よ! これを利用すれば発生源を断たなくても突入できる!


「私に作戦があります」


 顔を上げて、視線を幹部たちに向ける。


「なんだと?」


「ただ、必要な物があります。少しだけ時間をください」


「どうするつもりだ? 人質はアラバスタ侯爵家の令嬢様なんだぞ。下手を打てば大爆発だ。もしもお嬢様の身に万が一のことがあれば……、分かっているんだろうな?」


 暗にお前が全ての責任を負えと彼らは言っているのだ。

 それでも私はグッと眉間に力を込める。


「大丈夫です。我々アルタイルに失敗の文字はありません」


 啖呵を切った瞬間、時間が止まったかのように幹部たちは押し黙った。

 

 心臓がうるさい。足が震える。でも、それを悟られるわけにはいかない。私は戦術騎士隊アルタイルの司令官なのだから。

 この場を掌握するために〝有能な司令官〟を演じるんだ!


「……でかい口叩いたんだ。とっとと聞かせてもらおうか?」


 すっと息を吸い込み、そして告げた。


「毒を以て毒を制します」






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