52 会議は勝手に踊る
「他に質問は?」
「私とクリス団長以外にも、他にも召喚された人はいるのですか?」
彼女は首を横に振る。
「現在、この国には私とキミだけだ。だが他国には聖女の存在が確認されている。生きていれば会うこともあるだろう。無論、敵としてかもしれないがな」
「敵……」
その言葉が、私に重くのしかかる。
同じ世界から召喚された人間なのに、敵として戦うかもしれないなんて……。
正直、敵とか戦うとか先のことは分からないけれど、今はクリス団長の存在に勇気づけられたし、同じ境遇の人がいることが嬉しくて仕方ない。私は一人じゃない、そう思えるだけで力が湧いてくる。
「アルタイルの隊員たちとは上手くやっていけそうか? 曲者揃いで大変だろう」
「はは……、どうでしょうか。まだ私は、彼らの一員と認められていないようです」
「焦ることはない。キミが真摯に向き合えば、自ずと部下は付いてくる」
「はい、クリス団長を参考にしてやってみます」
「いや、参考にはしない方がいい。私のは力で打ちのめして屈服させるやり方だ。今の時代に合っていないし、キミにはキミのやり方があるはずだ」
クリス団長はくすりと笑った。
今の優しげな彼女からはそんな苛烈な姿は想像できない。しかし、前任の司令官たちが騎士団長に会いたがらなかったようだし、事実なのだろう。
「なんにせよ、アルタイルの隊員たちはキミの護衛としても機能する。逆ハーレム気分で大いにこき使うといい」
それは本音なのか冗談なのか、返事に困ったそのとき、勢いよく扉が開いて若い騎士が飛び込んできた。
「失礼します!」
息を切らせながら部屋に入ると同時に直立して止まる。
「なにがあった?」
「はい! シュヴァルニ魔導学園で立てこもり事件が発生しました!」
彼は緊張した面持ちで報告した。
「なに?」
「詳細不明ですが、男が生徒を人質に取って立てこもっているようです。室内でガスを発生させているとの情報があり、現在、衛士隊が校舎を取り囲み、生徒を解放するよう説得を行っています」
「すぐに救出部隊を編成し対応に当たらせろ」
「そ、それが……」
若い騎士が言いよどみ、
「戦術騎士隊アルタイルを投入させろと国務室からの指示です」
その一言に、一瞬だけ世界が静止した気がした。
なっ……、ななな、なんですって!? 嘘でしょ!!
「なに? まだ試験運用中の部隊だぞ」
「……団長、どういたしますか?」
指示を仰がれたクリス団長は、すぐには答えなかった。
褐色の瞳がゆっくりと私を捉える。
決めあぐねている様子が伝わってくる。私に行かせるか否か。
今の私に対応できるはずがない。私が首を振ろうとしたそのとき――、
「クリス団長、我々にお任せください」
そう答えたのは部屋の外で待機していたはずのエドガーだった。いつの間にかソファの横に立っている。
「エドガー、しかし……」
「アルタイルは要人や人質になった国民の救出も任務のひとつであり、そのために訓練を重ねて来ました。試験運用中であろうと対応事案が発生すれば、実戦投入するべきだと具申します」
「そうか……」
クリス団長の眼が再び私を捉える。その瞳にもう迷いはない。
彼女は明確に頷き、そして立ち上がる。
「戦術騎士隊アルタイルに命じる。人質となった生徒を救出し、立てこもり犯を捕らえよ!」
「はっ!」
ビシッと胸に手を当ててエドガーが応えた。
「え……」
ええ~~~~ッ!!!!? ちょっとふたりとも勝手に話を進めないでよ!!




