51 彼女の事情
突然の告白に驚き過ぎて言葉が出ない。
頭の中が一瞬真っ白になる。目の前に座る騎士団長の言葉を、うまく現実として受け止めることができない。
聖女召喚は膨大な魔力が必要だから十年に一度が限界だって、チーフが言っていた。ということは、十年に一度は成功の有無に関わらず召喚の儀式が行われているから、この国に私以外の召喚された人がいたって不思議じゃない――。
「ほ、本当ですか? 同じ世界から召喚された人に出会えるだなんて……、そんなことが起こるだなんて……。すごく嬉しいはずなのに、まるで夢のようで信じられなくて……」
私は動揺していた。言葉がつかえながらも、なんとか声を絞り出す。
クリス団長はふっと笑う。
「驚くのは無理もない。突然告白されたのだから」
「ずっと……ずっと一人だと思っていました……、だから本当に嬉しいです!」
胸の奥からこみ上げてくるものがあった。
この世界に来てからずっと抱えていた孤独が、緩やかに消え去っていく気がした。
「ああ、私も嬉しいよ。もっと早くキミに会いたかったのだが、それが出来なかった理由があってね」
「……理由ですか?」
彼女は微かな笑みを浮かべたまま、
「キミの驚いた顔が見たかったんだ」
そう言った。
「は?」
「どうせなら機が熟すまで待ってから事実を告げた方が面白いだろ?」
「はぁ……そ、そうですね」
なんとも言えない顔で頷くしかない。
呆気に取られる私に対して彼女は咳払いして、「それは冗談として」と話を切り替えた。
「私にも立場があっておいそれと会いに行くことができなくてね」
冗談だと言っているけど、本当に驚かせたかっただけなんだと思う。なんとなく分かる……。どうやら騎士団長は見掛けに反してお茶目な人っぽい。
「白城千鳥、よくぞこの世界を生き抜いてきた。容易い道のりではなかったはずだ」
その労いの言葉が、じわりと心に染みていく。
「ええ……、もう本当ですよ。毎日が必死で、サバイバルみたいな感じで……。それを言うならクリス団長も、なんて言いますか聖女なのに騎士団長ってすごいですね。それに〝元〟聖女というのはどういう意味ですか?」
ふむと彼女は相槌を打ち、「紅茶が冷めてしまうぞ」と視線を私の前に置かれたティーカップに向けた。
「え? あ、はい……」
慌ててカップを手に取る。
口元に運ぶと、ほんのり甘く優しい香りが立ちのぼる。少し冷めてしまっていたけれど、その温もりが喉を通ると、張り詰めていた緊張がほぐれていく。
「聖女の力は無限ではない。神聖術を使用すれば減っていき、いずれ枯渇する。そうなればただの人だ」
私を襲ったベガの人たちもそんなことを言っていた。
「私はこの国を守るために聖女の力、神聖術を行使してきた。そして失った。用済みとなった私は国から放逐されるところだった。だが、友人の尽力によって特例で騎士団に入団できることになり、そこからはがむしゃらに戦い続け、気付いたときには騎士団長になっていた。幸いにも元の世界で培ったフェンシングの技術が役に立ってね……、命を救われたんだ」
淡々と語る彼女は過去を懐かしむように微苦笑したけれど、その笑みの裏には私の想像も及ばない苦労があったに違いない。
彼女の姿が自分と重なり、胸が熱くなる。




