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私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていた~  作者: 堂道廻
第三章【初陣】

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50 騎士団長

 着慣れない白亜の騎士服に着替えた私は、エドガーと一緒に馬で王宮へ向かった。


 真新しい騎士は、まだ体に馴染まず落ち着かない。歩くたびに硬い布が擦れる感覚がして、自分が誰か別の人間になったような妙な気分になる。


 エドガーから同乗するように促されたけど、自分も乗馬できることを告げて、もう一頭お馬さんを用意してもらった。


 単純にタンデムが恥ずかしいって気持ちもあるけど、騎士隊の司令官がそれではさすがに格好が付かないと思ったからであり、やっぱり自分と白馬の王子様のツーショットは似合わないという気持ちが先行した。

 

 手綱を握り、馬をゆっくり歩かせる。蹄が石畳を打つ乾いた音を響かせて街道を進み、王宮の外壁が近づくにつれて緊張してきた。


 騎士団本部が王宮の敷地内にあることはもちろん知っていた。けれど、食堂とは反対側にあるし、なんとなく怖くて今まで近づいたことがなかった。


 城門をくぐり、広い中庭を抜ける。王城を囲む堀を沿うようにして東に進み、やがて視界に現れたのは白亜の石造りの壮麗な建物だった。


 重厚な造りのエントランスには王国の紋章が刺繍された旗が掲げられ、両脇を鎧姿の騎士が直立して警備にあたっている。


 空気がビリリと強張り、建物の中に入るとさらに空気が堅くなっていく。


 敷かれた赤い絨毯に従って進み、階段を昇ってたどり着いたのは、装飾の施された両扉だった。

 エドガーが扉の前で立ち止まり、軽くノックする。


「クリス団長、チドリ司令官をお連れしました」


 そう告げて扉を開けた。


 部屋の奥、窓際に立っていたのは騎士服を身にまとった壮年の女性だった。


 長い亜麻色の髪が背中に流れ、腰に帯びているのはロングソードではなく、細身のレイピア。射抜くような褐色の瞳が私を見つめている。


 えと……、この人が王国騎士団長なの? 半年近くも王宮にいたけど、団長が女性だなんて知らなかった。


 わずかに重さを乗せた声で彼女は、「ご苦労」と言った。


 エドガーの後を追うように、私は緊張しながら団長の元へと歩いていき、エドガーと並んで止まる。


「司令、馬上で練習した挨拶を……」


 そう耳打ちされ、慌てて背筋を伸ばして右手を胸に当てる。


「お初に御目にかかります! 王国騎士団戦術騎士隊アルタイル司令官を命じられれまれした、白城千鳥です!」


 せ……、盛大に噛んでしまった。


 空気が一瞬固まったように思えたが団長は、「王国騎士団団長のクリスだ。楽にしなさい」と表情を変えることなく言った。


「は、はい!」


「エドガー、彼女と二人で話したい。外で待機していなさい」


「はっ!」


 エドガーは背筋を伸ばして敬礼し、静かに部屋を出ていってしまった。扉が閉まると途端に部屋の中の静けさが際立った。


「座りなさい」


 有無を言わせない迫力に、私は促されるままソファに腰を下ろす。


「紅茶は好きかね?」


「はい!」


「そう緊張しないでも大丈夫だ。取って食べたりはしない」


 静かに微笑んだクリス団長はテーブルの上に置いてあるポットを手に取り、ゆっくりとカップに紅茶を注ぐ。琥珀色の液体がカップの中に満ちていき、ふわりと優しい香りが広がる。


 彼女はそれを私の前に置いて、向かいのソファに腰を下ろした。


「もう慣れたか?」


「いえっ、その……あの、そ、その前に質問してもいいですか?」


「構わない。なんだね?」


 クリス団長は静かにカップを手に取り、一口だけ紅茶を飲んだ。


「なぜ……私が司令官なのでしょうか? デイビッド補佐官から理由は聞いているのですが……、やっぱり腑に落ちないというか、冷静に考えれば考えるほど普通にあり得ないなって思って……」


「なるほど」


 クリスは静かに頷いた。


「まず結論から言おう。私にアルタイル司令官の任命権はない」


「え?」


「アルタイルは書面上は騎士団所属の部隊だが、実際は国務室直轄なのだよ」


「そうだったんですね……」


「本来、単なる一個部隊に司令官など必要ない。それでもわざわざ司令官を置いたのは、騎士団ではなく国務室の管理下に置くためだ。あいつらが何を企んでいるのか、私にも分からない。ただ、何かがあるのは間違いない」


「何か……、ですか?」


 厄介な隊員たちの相手をさせられるためじゃないとしたら……、国務室の狙いってなに? 素人を司令官にして一体なんのメリットがあるの?


 私がそんなことを考えているとクリスが言った。


「さっきの質問に戻ろう。もう慣れたか?」


「いえ、まだ数日なので……。それに特殊部隊なんて経験がありませんから、どうしていいのか試行錯誤しています」


 私が苦笑して答えると、


「そっちではない」


 クリス団長は一度言葉を区切り、


「この世界に――、という意味だ」


 そう続けて真っ直ぐに私を見つめる。


「……え?」


「隠す必要はない。私も、君が異世界から召喚されたことを知っている。聖女の力がなかったこともな」


「そ、そうですよね。騎士団長が知らないわけないですよね」


 変に嘘をつく必要がなくなり、少し肩の力が抜けていく。


「白城千鳥、私もキミにひとつ打ち明けたいことがあってな、そのために今日は来てもらったのだ」


「え? 私に……ですか? なんでしょうか?」


「私の名前はクリスサヤカという」


「……クリスサヤカ?」


「ピンと来ないか?」


 ポカンとする私に彼女は微かに笑みをみせる。


「クリスは『栗』に、木へんに西で『栖』だ」


「木へんに西……ああ、栗栖さん……。え!? 栗栖さん!?」


 クリス団長こと、クリスサヤカさんは静かに頷いた。


 つまりそれって――、


「私も召喚され、この世界にやってきた元聖女だ」


 私が言うよりも早く、彼女はそう答えた。




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