49 化身の顕現
結局、ロクに筋トレなんてできなかった。
しようとはしたけど、フェルさんのせいでもやもやして落ち着かなくて、軽いストレッチをしただけで終わってしまった。
不完全燃焼のままトレーニングを切り上げて執務室に向かった私が鋼鉄の扉を開けると、すでに騎士たちが円卓を囲んでいた。扉が開いた音に反応して、エドガーとクラウディオの視線が一斉にこちらへ向く。
あれ? フェルさんの姿がない。きっと、彼はあのまま研究室に一直線で向かったのだろう。
私は円卓へ歩み寄りながら、少しぎこちなく口を開いた。
「お、おはようございます」
「おはようございます、司令。フェルを見ませんでしたか?」
エドガーの落ち着いた声が室内に響く。
「あ、はい。さっき会いました。たぶん自分の研究室にいると思います」
「そうですか、仕方ありませんね」
小さく息を付いたエドガーは、手に持った書類に視線を落とした。
うーん……、私が頬を叩いたことは怒っていないっぽい? いや、まだ油断はできない。いつ態度が豹変するか分からないから、気を緩めないようにしなくちゃ。
来るなら来やがれッ!!
なんて気合を入れたのに――、朝のミーティングはつつがなく進み、ほどなくして締めくくりに入って空振りに終わる。
最後に「司令、なにかありますか?」と問われ、私が「何もありません」と返事をすると、エドガーが改めて口を開き、「それでは本日、チドリ司令は私と一緒に騎士団本部へ行きます」と告げた。
「はい? なぜですか?」
「騎士団の司令官に着任したのですから、団長に挨拶に行くのは当然かと」彼は淡々と言った。
「本来は着任前に行くのが通例ですが、今回の異動はイレギュラーでしたので」
「今までの司令官も挨拶に?」
私がそう聞くと、エドガーはゆっくり左右に首を振る。
「いいえ」
「でしょうね……。ハイノーブルの彼らが自分から出向くなどプライドが許さないのでしょう」
そう考えると、騎士団長さんって現場叩き上げタイプなのかな?
するとエドガーは首を振る。
「いいえ、そうではありません。彼らは団長を恐れて、会いに行くことを頑なに拒否していました」
「え……そ、そんな怖い人なんですか?」
「団長はお優しい方です」
エドガーがにこりと微笑む。その笑顔には、なぜか妙に含みがあった。
絶対嘘だ!
私は思わずクラウディオの方を見る。すると彼は小さく肩をすくめてみせた。妙に含みがある感じで。
ほらやっぱり! 絶対怖い人なんじゃん!!
「それではさっそく出発しますので、その安っぽい衣服ではなく騎士服に着替えてください」
そう指摘されて私は自分の格好を見下ろした。
ありがたさゼロ、ご利益ゼロ、セクシーさゼロの三拍子そろった〝地味の化身〟がそこにおわすではないか。
……あ。着替えるの忘れてた。




