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私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていた~  作者: 堂道廻
第三章【初陣】

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48 くる! こない? くる! こない!?

 翌日――。


 まだ空が薄い藍色に染まっている時間、私はいつもより早く目を覚ました。窓の外には朝靄が漂い、淡い朝日がゆっくりと昇り始めている。


 眠気を振り払いながら台所に立ち、チーフたちの朝食を手早く用意してテーブルに並べ終えると、私は外套を羽織って家を出た。


 足早にアルタイル基地へ向かう。始業の二時間も前に出勤する理由は、基地内にあるトレーニングルームで筋トレをするためだ。


 隊員たちは自分たちと同等の知識と体力を求めている。ならば私は彼らに認められるように少しでも鍛えるしかない。トレーニングルームには、ダンベルやベンチプレス台などの器材が一通りそろっている。


 正直言って体を動かすのは得意ではない。私はクラスにひとりはいるメガネの地味っ子で、流行のファッションやメイクにとんと興味がないオタク女子だった。

 

 中学校のジャージが正装、そんな私がトレーニングウェアなど持っているはずがなく、白いブラウスに丈の長いベージュのフレアスカートを装備している。これらはこの世界に来て初めて購入した安価な古着だ。着古した感じのヨレヨレで生活感が溢れまくっている。


 トレーニングルームの姿見鏡に自分の姿が映り込む。


「ひひ……」


 卑屈な笑みが漏れた。


 まるで地味の化身のようだ。地味もここまで突き抜ければ、もはや〝わびさび〟の境地ではなかろうか。


 でも、やっぱりエドガーに勧められるように前髪を上げようかな……。私だってちゃんとした格好をすればそれなりに映えるんだからネッ!!

 と、自分に言い訳しながらトレーニングを開始した。


 筋トレ器具の使い方が分からないから、とりあえず色々な器具に触れては次に移っていく。

 トレーニングルームを一巡した私は、比較的手軽にできそうなベンチプレスをやってみることを決めてベンチ台に寝転んだ。


 まずは何も重りを付けずに、シャフトだけを持ち上げてみる。

 シャフトをラックから持ち上げて胸の真上に持ってきたその拍子に、すこーんと肘が折れ曲がり私のお世辞にも豊かとはいえない胸の上に落ちてきた。


「んぐっ! んんーっ! んーっ!」


 パニックになった私は声にならない声を出して足をばたつかせる。真上に持ち上げようとしても持ち上がらない。なぜかヤジロベエみたいにバランスが取れてしまっている。


 やばい、息が!? 胸が圧迫されて苦しい! 重い……、どうやってどけたらいいの!? このままじゃ――、そのときだった。


 誰かがシャフトをひょいと持ち上げて助けてくれたのだ。


「げほっ! はあ、はあ……」


 重りから解放された私は体を起こして胸を押さえた。鼻水とヨダレが両方出ている。


「怪我はないッスか?」

「ず、ずみません……、ありがとうございました……げほっ」

 

 頭の上にフェルさんの顔があった。

 

「お、おはようございまず、フェルさん……た、助かりました……」


 一体いつの間に、彼がこの部屋に入ってくるところは見ていない。


「挨拶はいいから水を飲んで落ち着くッスよ」


 そう言って水が入った瓶を渡してきたので、ありがたく頂戴してごくりと呑み込む。

 

 しまった……、変なクスリじゃないだろうな……。


 なんて疑ったところで後の祭りだ。彼を信じるしかない。


「ありがとうございます。いつの間に入ってきたんですか? 全然気づきませんでしたよ、そういえば以前もこんなことありましたよね」


 しししっ、とフェルさんはいたずらっ子みたいに笑い、「試験が終わったからチドリ司令には教えちゃうッス。秘密はこれッスよ」と着用するフードの付いた黒色のローブを広げて見せた。


「そのローブがどうして秘密なの?」


「これはッスね、周囲の景色を投影する術式を込めたタリスマンなんです」


「これがタリスマン? ああ、そういえば術式を込めればなんでもタリスマンになるんでしたよね」


「そうッス。で、これを羽織って内側に仕込んだ魔石に触れると」


「あっ!」


 彼の体が消えた。正確にはトレーニングルームの石壁がローブに映し出されている。まるで鏡のように背景がそのまま映っている。


「すごい……」


「これを着て隠密行動するッス。名付けて〝姿きえるくん〟」


「う、うん……名前以外はすごいけれど、こんな物が世の中に出回ったら犯罪が増えちゃうんじゃないかな……」


「そこは大丈夫、タリスマン生成はそんな簡単じゃないッス。術式のバランスや配合、魔力濃度とか緻密な調整が必要なんス。たぶん自分以外には作れないッスね、今のところは」


「それを聴いて安心した。あ、じゃあこういうのは作れる? 例えばこのタリスマンみたいに投影している景色を他の場所で観るみたいな……、ってそんな簡単じゃないよね」


 すると、フェルさんは親指で自身の唇に触れた。なにやらぶつぶつと呟いている。


「……確かに、離れていても話せるくんみたいに一つのタリスマンを分割して、一方の術式を反転させれば……、いける! いけるッス! そうすれば離れた場所の状況が把握できる!」

 

 突然、顔を上げたかと思った瞬間、がばっと私を抱きしめた。


「すごいよチドリ司令! あなたは天才だ!」


 こ、この展開はキスが来る!?


 私が身構えた直後、彼はくるりと踵を返して駆けて行ってしまった。

 バタンとトレーニングルームのドアが閉まり、しんと静まり返る。取り残された私はぽかんと立ち尽くす。


「あれ……」


 もしかして私、がっかりしてる?




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