45 ディープインパクト
「部下ってどういうこと? あなたも居酒屋の従業員なの?」マリアが言った。
「違うッスよ。チドリ司令は、自分が働くタリスマン研究所で特任研究員をしているッス」
「タリスマン研究所? チドリってそんなこともしてたの?」
「え、あ、えっと……そのぉー……」
マリアに問われて私はしどろもどろになる。
頭の中で必死に言い訳を探すが、焦れば焦るほど言葉が出てこない。
そんな私の混乱など気にも留めず、フェルさんの表情がぱっと明るくなる。
「そうだ、ちょうど良かったッス。今日完成したばかりの試作品のテストをしたいから、モニターになってくれないッスか?」
「試作品のモニターですか?」とリリアが聞き返す。
フェルさんはコートのポケットをごそごそと探り、チョーカーを三つ取り出してテーブルに並べた。金属製のチョーカーには、小指の爪ほどの緑色の宝石がはめ込まれている。店内の照明を受けて淡い光が揺らめいた。
「これはなんですか?」リリアが聞いた。
「これは自分とチドリ司令で共同開発した、念話術式型チョーカー〝離れていても話せるくん〟ッス!」
「なにその変なネーミングは……」マリアが露骨に眉をひそめた。私も同意見である。
「そのチョーカーを首に付けて、はめ込まれたタリスマンに触れながら何か話してみてくださいッス」
半ば流されるまま、私たちはそれぞれチョーカーを首に装着してタリスマンに指先で触れる。
「これでいいんですか?」
と、リリアが言った直後。
「あれ? リリアの声がすごく近くで聞こえる」
マリアが目を見開いて周囲を見回した。
「本当だ、マリアの声がすごく近くで聞こえます」
そう、耳元で彼女たちの声がするのだ。それはまるで電話のように。
彼は私の言葉をヒントに携帯電話モドキをサクッと作ってしまったのである。しかも骨伝導的なやつを。
「ふっふっふ。これを使えば、離れていても会話ができるッス」フェルが得意げに胸を張った。
「すごいじゃないこれ……。きっと高く売れるわよ」
マリアが感嘆混じりにフェルを見つめた。
「うーん、商用じゃないんスけどね。とりあえず持続時間と会話可能な距離を知りたいから、しばらく使ってレポートしてくれないッスか? 報告はチドリ司令を介してくれればいいッス」
「別にいいわよ。便利そうだし、協力してあげる」
「感謝ッス! じゃあお邪魔したッスね!」
そう言って嵐のように去っていってしまった。
「面白い子ね」
それについては否定しない。
「それに男の人だなんて信じられない! 可愛らしい女の子にしか見えないですよ」
それについては否定したい気持ちがないわけでもない。
「うん……」私は曖昧に頷く。指先が自然と自分の唇に触れていた。
――キス、されたんだよね。私、彼に……。
変に意識しているのはきっと私だけで、あの感じだとフェルさんにとっては軽いスキンシップ程度でしかないのだろう。それでも胸の奥がむず痒くなる。
私は熱くなった頬を誤魔化すように、葡萄ジュースの入ったグラスを傾けた。




