44 死亡遊戯
城下町の市場は、休日とあっていつもより活気に満ちていた。
石畳の通りの両脇には露店が立ち並び、威勢のいい呼び声が飛び交い、絶え間ないざわめきに包まれている。
籠いっぱいの林檎や豆類、山積みにされた乾物、瓶詰めの漬物が並び、甘いお菓子の香りも漂ってくる。
衣類や雑貨を見るつもりで来たはずなのに気づけば、私の視線は食材へ一直線。完全に職業病だな。
「チドリ、このスカーフ可愛くないですか?」
リリアの声に「うん」と返事はするものの、隣の八百屋の野菜に眼が行ってしまう。
この量でこの値段……、お買い得だ!
でも買ったところで使い道がない。私はもう王宮食堂の職員じゃないし、こんなに大量に仕入れてもチーフの家では使いきれない。買えないジレンマが私を締めつける。
そんな中、同じように真剣な眼差しで野菜を物色している見知った姿を発見した。
マリアだ。私のすぐ近くで腕組みをしながらトマトを吟味している。
私はそんなマリアに声をかけて、その流れで三人でショッピングした後、夕飯を食べに行くことになったわけで――。
「新しい仕事は見つかったの?」
マリアは何気なく尋ねてきた。
「あ、うん……まあね」と私は少し曖昧に笑う。
「そうなんだ、よかったですね!」リリアがぱっと瞳を輝かせる。
ちなみに今夜は、クラウディオの実家の酒場から少し離れた区画にあるアメリカンダイナー風の店に来ている。店内は陽気な生演奏と若者たちで賑わっていた。
この店はマリアのチョイスで、がっつり系の肉料理が有名らしい。運ばれてきたステーキも恐竜の肉かよと思わずツッコミたくなるくらいの大きさだった。
もちろん一人で食べられるわけもなく、女子三人で頂いている。
ナイフを入れると、じゅわっと肉汁があふれ、柔らかい肉が口の中でほぐれていく。
うーん、ジューシーで美味しい。思わず頬がゆるむ。赤ワインが飲みたい! でも昨日飲み過ぎたから今日は自粛して、リリアと同じ葡萄ジュースで乾杯した。
「何系のお店なのよ?」
マリアは当然のように私の働き口が飲食店だと思っているようだ。
「えと……居酒屋さん」
「ふーん。じゃあ今度行ってあげるから、お店の名前教えなさいよ」
「ありがとう。でも厨房だし新人だし、来てくれても顔出せないから……また今度ね、あははっ」
私は乾いた笑いでごまかすしかなかった。
そんな感じでガールズトークに花を咲かせていた、そのときだった。
「あっ!」
聞き覚えのある声に振り返ると、骨付き肉――、通称マンガ肉を片手に立ち止まってこちらを見つめるフェルさんの姿があった。騎士服ではなくコート姿の私服だ。骨付き肉をマラカスのように振りながら近づいてくる。
「チドリ司令、こんなところで会うなんて奇遇ッスね!」
失念していた。私が休みということは隊員たちも休みなわけで、町のどこかで会うことだって普通にあり得るのだ。
「チドリシレイってなんです?」
リリアが首を傾げた。
私は下手くそなウインクを繰り返してフェルさんにサインを送る。お願いだから察してちょうだい! そう念じながら。
するとフェルさんは私とリリアの顔を見比べるように見つめて、「ん? あー、そういうことッスね」とマンガ肉を振った。
どうやら察してくれたようだ。
なんて胸を撫でおろしたのも束の間だった。
「どうも、自分はチドリ司令の部下のフェルナンドっていうッス!」
全然察してねぇーーーーーッ!!
「フェルナンド? え? あなた男の子なの?」マリアが目を丸くする。
「そうッスよ! バリバリのアルゼリオン男子ッス!」
そしてやっぱり男だったんかいーーーーーッ!!
怒涛の波状攻撃に、私の意識はぐらりと揺れる。
ああ……、このまま椅子から転げ落ちて死んだフリしようかな……。




