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私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていた~  作者: 堂道廻
第二章【招集】

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41 事件は密室で起きている

 天井の高い射撃訓練場は、25mプールがピッタリ収まりそうな空間で、天井からは人型の標的がいくつもぶら下がっていた。

 手前にはガラスで等間隔に仕切られたカウンターがあり、その一角で私は、トリガーを引いた。 弦が弾かれる音が響き渡り、射出された矢は的に当たらず空を切る。


 現在、私はエドガーからマンツーマンで手取り足取り、ボウガンの取り扱いを教わっている。

 なぜ、こんなことになったのかと言うと、なにか私でも扱える武器の使い方を教えてほしいと頼んだからであり、業務を終えた後に練習が始まった。


 ボウガンはフェルさんが使っていた物よりも、一回り小さいサイズで、撃ったときの反動も思っていたより少なかった。

 おそらく、初心者の私でも扱えるサイズをチョイスしたのだと思う。


 そうだとしてもだ――、つい先日まで食堂の栄養士でありメインウェポンが包丁だったこの私が、どういう訳か生涯触れることはないと思っていたボウガンを撃っている。


「肩に力が入り過ぎです。もう少し力を抜いて、もう一度」


 背後からそう告げたエドガーは、ボウガンを構える私の両腕に自分の手を添えた。


「矢の先端をよく見て、的と先端が重なったら静かに力まずトリガーを引いて」


 言われたとおり、矢の先端と的が重なった瞬間、私は再びトリガーを引いた。音が木霊し、標的の真ん中に突き刺さる。


「あ、当たった?」


「命中です。お見事」


「ふう……」 額の汗を拭う手は微かに震えていた。


「司令、質問してもよろしいですか?」


「はい、もちろんです」


「どうして武器の使い方を? 基本的に司令官が前線に行くことはありません。安全な指揮所から我々に指示を出すのがあなたの役目です」


「でも……厨房に入ることはなくても、料理人を名乗るなら包丁の扱い方を知っておいて損はない、ですよね?」


 そう答えるとエドガーは顔をキョトンとさせた。

 的外れな例え方だったかもしれないけど、意味が通じたのか彼はくすりと笑った。


「今日はこれくらいにしましょう。続きはまた次回」


「すみませんでした。業務の後に付き合ってもらって」


「いえ、こちらとしてもあなたと完全に二人になる機会をうかがっていましたので」


 それは悪意など全く感じさせない微笑みだった。


「え?」


「どうやら私は彼に警戒されてしまったようです。隙がなかったのですが、今はその番犬もいない」


 エドガーは私からするりとボウガンを取り上げると、そのまま私の手を優しく握った。


「今、なんて?」


 鼓動が速まるのを悟られないよう、できるだけ平静を装って問い返す。だが声はわずかに上ずっていた。


「現在、この部屋にいるのはあなたと私だけ、と言ったのです」


 逃げ場を塞ぐように、静かにそう告げると掴まれた手首を軸にして体が引き寄せられた。社交ダンスのターンのように、くるりと視界が一回転する。

 気づけば、彼の顔がすぐ目の前にあった。

 吐息が触れそうなほどの距離で私たちは向かい合っている。心臓の鼓動が高鳴っていく。


「ドアは内側から鍵を掛けました。前回のように邪魔は入らない」


 淡々とした口調のまま、彼は微笑む。

 あと少しで唇が触れそうになった更衣室での記憶が蘇り、頬が一気に熱を帯びる。自分でもわかるほど顔が赤くなっていた。


「な、なぜこんなことをするのですか!?」


「あなたに興味を持ったからです」


 手首を掴む力は強すぎず、けれど逃がす気もない。視線は逸らさない。まるで獲物を観察する猛禽のように、確実に私を捉えている。


「ここにいる者たちは、あなたの言動を注視していました。私と同じように興味を持った者もいるでしょう」


「ど、どうして?」


「あなたは訓練の見学に来ただけでなく教えを乞うた。第一段階はクリア、といったところです」


「えと……、どういう意味ですか?」


 彼はわずかに目を細めた。先ほどまでの甘さを含んだ空気が、すっと引く。


「自分の眼となり手足となる隊員と同じ目線に立てるかどうか。これは指揮官にとって重要な資質のひとつです。同時に、隊員たちは常に観察しています。あなたに自分の命を預けられるかどうかを」


 要するに品定めされていたのだ、ここに来たときからずっと。クレーマー補佐官とエドガーの言った「いるだけでいい」の意味はまるで違うということ。


「初代司令官は施設の案内すら不要と拒否しました。次とその次は施設内を一巡しましたが、それ以降は出勤と退勤するとき以外は司令官室から出てくることはなく、ただふんぞり返るだけだった。無論、訓練を見学することもなかった」


 なんとなくその光景が浮かぶ。神経質そうなあのクレーマー補佐官の顔が頭をよぎる。

 きっと彼なら高価な椅子に座っているだけで、出世にしか興味がなく、現場のことなんて見向きもしないのだろう。


「信頼しなければ信頼は得られない。あなたは自ら我々を知ろうとし、受け入れようとしている。ひとまず、そう評価します」


 至近距離のまま、まっすぐ告げられる。


 正直、そこまで考えていたわけではない。

 ただ私は、軽んじられていることが悔しかったのだ。






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