26 あいむあのんのーぶる
それから二日後の昼前、私は迎えに来たクレーマーことディビット補佐官と一緒に、馬車の荷台に乗っている。
「この度は急な依頼を引き受けていただき感謝します」
クレーマーは言った。
物腰は丁寧だけど、どこか偉そうで鼻に付く。上から目線で見下している感が半端ない。
「あの、そろそろ仕事内容の方を教えていただきたいのですが……」
彼は中指でモノクルの縁を撫でると、小さな窓から差し込む陽光をレンズが反射した。
「あなたには本日より、騎士団の司令官に着任してもらいます」
「へ?」
いまなんつった?
キシダンのシレイカンにチャクニン……、はて?
意味が分からず、クレーマー補佐官のセリフを頭の中で反芻する。
「あのー、いったい何を言っているのでしょうか? 騎士団? 司令官って? 冗談ですよね?」
「事実です」
「無理ですよそんなの!! 騎士団の司令官って、つまりナイトのコマンダーってことですよね!?」
「そんなところです」と、しれっとクレーマーは答えた。
「ウソでしょ!? 私が騎士団の司令官ってなんですか!?」
「ウソではありません、事実です。ですが、あなたはただいるだけで構いません。何もしなくて結構です。爵位持ちの司令官として、それっぽく振る舞うだけです」
「……な、なんでわざわざそんなことを?」
「当然の質問ですね。正確には騎士団の司令官ではなく、新設された騎士隊の司令官なのですが、あなたで四人目になります」
「四人目……、つまり四代目ですね……」
「呼び方はどちらでも構いません。前任者たちは私と同じ爵位を持った貴族でしたが、隊員たちの執拗な嫌がらせを受けて精神を病み、離職を余儀なくされました」
思わず「おいてめえッ!!」と叫んでしまいそうになった。
「ちょっと待ってくださいよ、そんなところに私を送り込むんですか!?」
この鬼畜単眼メガネっ!!
「どうやら彼らは我々、上級貴族が気に入らないようでして、自然と滲み出てしまう品性や有能さ、頭の回転の速さが鼻に付いてしまうのでしょう。もっともそんなつもりは毛頭ないのですが、どうしても偉そうにしているように見えてしまうのかもしれません」
いえ、実際に偉そうですよ。まごうことなく鼻に付きます。
「はあ……なんとなく、その人たちの気持ちも分かりますが」
「なので、今回は敢えて我々、きぞく……ノーブルとは正反対の人材を選びました」
正反対の人材って……、品位がなくて低学歴で頭の回転が遅いってことですか? つーかノーブルってわざわざ言い直さないで普通に貴族って言えばいいじゃん。
「あなたからはまったくノーブルの風格を感じません。ノンノーブルそのものです。そんなあなただからこそ適任なのです」
なぜ私をディスる必要がある……。
「それならノンノーブルっぽいノーブルを選べばいいじゃないですか」
「そんな者はノーブルには存在しません」
なに言ってんだこの人……。貴族ざるもの人にあらずって?
「当該部隊の正規運用には、国務室を始め各機関の威信が掛かっています。司令官不在で頓挫するという訳にはいかないのです。そして制度上、司令官の肩書を持つ者は例外なく、伯爵以上のハイノーブルでなくてはなりません」
「……それで一時的とはいえ、平民の私に無理やり爵位を与えて司令官に据えるわけですか」
詐欺じゃん。
「はい、正規運用の際には正式に正当な貴族の司令官を着任させる予定です」
つまりそれまでの繋ぎ? 当て馬? ちょっと違うかな。さしずめ名ばかり店長、もしくは幽霊会社の社長ってところか。
というか本気なの? こんな素人が司令官って……、出来の悪い夢を見ているようだ。
「ちなみに、その新設の騎士隊って具体的には……」
そう言いかけたところで、馬車が停まった。
「着きました、ここです」
彼の視線を追って窓の外を見る。
私の目に映ったのは、王都にそびえるランドマークの一つ、誰もが知るアルゼリオン大聖堂だった。




