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私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていた~  作者: 堂道廻
第二章【招集】

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25 法律も国家も守ってくれない世界です

 その後、私は誰もいない休日の食堂で倉庫にある食材のチェックをしながら、宰相から打診された転職について並行して考えていた。


 給与面については非常に魅力的だ。貴族の特権や待遇がいかなるものか正確なところは知らないけれど、生活水準は現在よりも格段にアップするはず。伯爵ともなれば銀行はいくらでもお金を貸してくれるし、貴族しか入れない歌劇場にも行ける。


 だけど、どう考えても怪しい。

 伯爵令嬢なら親の顔よりよく知っているけど、私の元いた世界では、なんの功績もないのに爵位を付与するなんて聞いたことがない。あまりにも話が美味し過ぎる……。

 やっぱり、そんなの馬鹿げた話だ。一年限定とはいえ、平民が伯爵になれるなんて、裏があるに決まっている。


 しかしながら、宰相がそんな嘘をつくだろうか? 天下の中央省庁の役人が、根も葉もないデタラメを言うだろうか?

 いやいや、だからこそだ。官僚なんて詐欺師と一緒、都合が悪くなれば「記憶にございませーん」って言い出すに違いない。所詮しょせんは口約束、しっかりと書面で出してもらわないと話にならぬ。


 仮にこの話が本当だとしたら、鉄の規則をねじ曲げて餌をチラつかせないと、誰もやりたがらない超絶ブラックな職場なのだ。

 よし、やっぱり断ろう。話が美味しくて怪し過ぎる。これは詐欺だ。国家権力を悪用した公務詐欺である。


 ま、断るのはもう少し時間を置いてからでもいいかな。すぐに断っても感じ悪いし、いちおう悩みましたってポーズは必要だよね。社会人として。


 そう心に決めてそのとき、


「ここにいたのかチドリ、探したぞ」


 倉庫の扉を開けてチーフが入ってきた。


「わっ! もうチーフ……、驚かせないでくださいよ」


「カティアに王宮に呼び出されたと聞いて、まだ近くにいるだろうと探していんだんだ」


「もしかしてチーフも呼び出されていたんですか?」

「ああ、お前が家を出たすぐ後、使者が突然家にやってきてな」


「じゃあチーフも打診を受けたんですか?」


「打診? なんのことだ?」


「え……、いえ、なんでもないです」


「そんなことよりチドリ、解雇されたぞ」


「解雇? ってことはクビですか!? なんでですか!!」


「俺にも理由は分らない。お前が頑張ってきたことは知っているし、ここでずっと働いていてほしいと思っている。当然、上には抗議したが全職員の解雇をチラつかせて来やがった……」


 チーフは本当に申し訳なさそうに言った。


 まさか、あいつらが……、あいつらが圧力を掛けてきたの? 私を訳の分からない部署の責任者にするために??


「チドリ、またなにか事件に巻き込まれたのか?」


 言えない。決して口外してはいけないと釘を刺されている。話せばチーフが不利益を受けてしまうかもしれない。

 黙る私にチーフは小さく息を吐いた。


「こうなったら仕方ない……。しばらくは休暇だと思って家でカティアの手伝いでもしてやってくれ」


「わ、わかりました……」


 私が辞めないと食堂のみんなが解雇されてしまう。みんなに迷惑を掛けるわけにはいかない。もうどうしようもない。


 翌朝、更衣室で自分の荷物の整理をしているところに、出勤してきたリリアとマリアが一緒に入ってきた。私は二人に本日付けで解雇されたことを告げる。


「ええ! やめちゃうんですか!?」


「うん……」


「そんなぁ~。チーフに抗議してきます!」


 踵を返したリリアに「やめなさい」とマリアが引き留める。


「今の話だと、準男爵のチーフよりずっと上からの命令よ。下手をすれば私たちの首も飛ぶ」


「でもでも!? こんないきなりなんてひどいよ!」


「チドリ、あんた貴族様に無礼でも働いたの? そうじゃなきゃこんな強引なことしてこないわよ」


「そ、それは……」


「言えないってことは心当たりがあるのね。それなら今は従うしかないわ」


「うん……」


「ほとぼりが冷めたら戻ってきなさいよ」


 そう言って苦笑したマリアが私の肩を叩いた。


「マリア……、ありがとう」



 荷物を持って私は王宮を出た。今は王都を当てもなくさまよっている。


 幸いにも帰る家はある。

 チーフはカティアちゃんの手伝いをして過ごせって言ってくれたけど、ごくつぶしになるのは嫌だ。カティアちゃんから廃棄物を見るような目で見られるのは耐えられない。


 新しい働き先を探すにしても、素性の知れない私を雇ってくれるところなんてない。もし運よく見つかったとしても、今回みたいに上から圧力が掛かってクビになる。

 

 この世界で生きていくには、悪魔との契約しか選択肢は残されていない。


 仕事内容が伏せられているといっても、所詮しょせんは国の仕事。闇金に手を出すよりはるかにマシ。命を奪われたり取って食べられることもない。

 貴族並みの待遇や爵位、給料二倍の件は、口約束じゃなくて文書でやりとりすれば証拠が残る。

 

 ――法律が、国家が、わたしを守ってくれるはず!


 決断した私はペンを走らせてクレーマー補佐官に手紙を送った。


『先日の件、お引き受けいたします』





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