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私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていた~  作者: unnamed fighter


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13 マイナスイオンにあてられて

 王都の城門をくぐると、街の空気から土と草と風の匂いに変わる。

 どこか身体の奥がほどけていくような感覚があった。

 この世界に慣れてきたといっても、やはり肩に力が入っていたのかもしれない。


 街道は緩やかに続き、その両脇にはどこまでも広がる草原。

 風が吹くたびに背の高い草が波のようにうねり、さらさらと耳に心地よい音を立てる。


 遠くで牛の鳴き声がして、野鳥が低く空を横切っていった。

 視界を遮るものがなにもない。こんなに空が広かったのかと、今さらながら思い知らされる。


 馬の蹄が土を踏む規則的な音。その音だけが、時間の流れを刻んでいるみたいだった。


 隣を走るノエルは、ときおりこちらの様子を気遣うように視線を向けるけれど、余計なことは言わない。

 沈黙が気まずくない。むしろ、この景色には言葉がいらない気がした。


 私はただ、風に揺れる草原を見つめながら思う。


 この世界に来てから、こんなふうに「どこかへ向かう」日が訪れるとは考えてもいなかった。毎日を生きるので必死だったから。


 この世界は王都の中だけで完結しているのではなく、こんなにも広くて綺麗なのだ。

 そんな当たり前のことに気付く。


 しばらく進むと草原の色が少しずつ深い緑に変わり、木々が増えはじめた。

 鳥の声が近くなり、風の音に葉擦れが混ざる。

 少しずつ傾斜がきつくなっていく。


 やがて、微かに水の音が聞こえてきた。

 さらさらと、澄んだ音。


「もうすぐです」


 ノエルがそう言った。


 木々の間を抜けた先に、それはあった。


 透明な泉。

 まるでガラスを張ったように底まで見える水面。陽の光を受けて、きらきらと反射している。


 その奥、岩肌を伝って流れ落ちる滝。

 白い水しぶきが霧のように広がり、周囲の空気をひんやりと湿らせていた。


 弾けるような水の音が世界を満たしている。


 私は馬から降りるのも忘れて、しばらく見入ってしまった。


「すてき……」吐息のような声が漏れていた。


 ノエルに手を借りて馬を降りると、足元の小石がかすかに音を立てた。


 ぐぅ〜。


 荘厳な光景と感動に水を差したのは、あろうことか私のお腹である。


「あっ、あはは……」


 赤面して照れ隠しで笑う私に、ノエルは気付かなかったふりをして微笑み、「こちらへ」と言った。


 滝がよく見える岩場に案内された私は、平らな岩に腰を掛けて、持ってきた包みを広げる。

 朝早く起きて作ったお弁当である。


 ハーブで味付けして焼いた鶏肉を挟んだサンドイッチ、ピクルスのような酢漬けの野菜。簡単なものばかりだけれど、食べやすさと見た目はちょっとだけ気を遣った。


「これ……チドリさんが?」


「うん。外で食べるならこういうのがいいかなって」


 隣に腰を掛けたノエルは目を丸くして、まじまじと弁当を見つめる。


「まさかチドリさんの手料理を食べれるなんて……、嬉しいです!」


 キラキラ目を輝かせるノエルに「どうぞ、お口に合えばいいけど」と、定型句を添えてサンドイッチを手渡した。


 ノエルはサンドイッチを口に運んで咀嚼した瞬間、はっとしたように顔を上げる。


「おいしい……」


 まるでサンドイッチを初めて食べたような反応だ。その素直なリアクションに思わず笑ってしまう。


 そのとき、ふと彼の腰に目がいった。


「あれ? その剣……」


 この前、彼が持っていた剣と違って使い込まれているように思えた。


「ええ、今日だけは特別に正規騎士と同じ剣の帯剣が許可されました。チドリさんの護衛ですからね」


「ということは、ノエルくんはまだ騎士じゃないの?」


「ええ、半年前に入ったばかりの見習いです。でも騎士団に入団できるのは本来17才からなので、これでも特別待遇なんですよ」


「へぇ、すごいんだね」


 にこりと笑ってそう言うと、ノエルは一瞬言葉を失い、それから耳まで赤くなった。

 視線を逸らし、ぎこちなくサンドイッチをかじる。


 ん? この反応はなんだろう……。なんか照れてる? 褒められて耳まで赤くするなんて素直だなぁ。


 そんなことを考えつつ、私は泉の方へ視線を移した。


 滝の音と水しぶき、揺れる水面、マイナスイオンのバーゲンセールだ。

 いまのうちにたっぷり取り込んでおかなくちゃ。


「チドリさん」


 不意にノエルが私の名を呼んだ。どこか真剣な声だ。


「僕は騎士として男として、家族と国のために戦い、そして守り抜くと誓いましたが、それ以外にも、いえ……、もしかしたらそれ以上に心から守りたいと思える大切な物を見つけた気がします……」


 私を見つめて彼は言った。


 真っ直ぐ見つめてくるその視線に思わず言葉が詰まり、手に力が入り、喉が渇いていく。


 何かを決意して、それでも踏み出せずにいる、そんなもどかしさが伝わってくる。


 え、なにこの雰囲気……? もしかしてそれって……守りたい大切な物ってまさか――。


 空気が少しだけ重くなった気がしたそのとき、ノエルの視線がはっと林の奥へ向く。


 反射的に立ち上がり、彼は剣を抜いた。


「誰だ!!」



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