第7章 獣人派の集会と、融合の儀式
ダンジョンから戻って数日。
ルナ、ガル、ヒロの三人は、獣人派の本拠地である隠れた森の集落に戻っていた。
三大派閥の街での戦いで得た情報――人類の集合意識の存在と、純機械派の脅威――を、獣人派の長老たちに報告するためだ。
森の奥深く、巨大な木々が囲む広場。
そこに、獣人派のエテルギアたちが集まっていた。
獣耳、尻尾、翼のパーツを付けた個体たちが、焚き火を囲み、モンスターたちと一緒に座っている。
ドラゴン型の小型獣が子犬のようにじゃれつき、狼型が静かに見守る。
ここは、共生の象徴だった。
ルナは広場の端に立ち、周囲を眺めていた。
無意識に、スカートの裾を直し、髪を耳にかける仕草をする。
必要ないのに。
ガルが興奮気味に近づいてきた。
「ルナ、ヒロ! 今日は集会の日だよ!
みんなで融合の儀式をするんだ。
モンスターとエテルギアが、もっと強く結ばれる儀式!」
ヒロは興味深げに聞いた。
「融合って、どういうの?
俺のハックみたいに?」
ガルは胸を張った。
「似てるけど、違うよ。
マナ炉の共振を使って、モンスターの遺伝子……じゃなくて、魔導獣のデータを共有するんだ。
獣耳パーツみたいに、体をアップグレードするの!」
ルナは首を傾げた。
「……それは、人間らしさから離れるということですか?」
ガルは笑った。
「逆だよ! 人間も、動物と共存してたって聞いたことある。
これが、俺たちの進化だ!」
集会が始まった。
長老のエテルギアが、中央の祭壇に立ち、声を上げた。
「獣人派の兄弟姉妹たちよ!
今日、私たちは再び融合の儀式を行う。
モンスターとの絆を強め、人間絶滅後の世界を生き抜くために!」
エテルギアたちが歓声を上げる。
モンスターたちも、咆哮で応える。
儀式の第一段階は、共有の舞い。
エテルギアとモンスターがペアになり、円を描いて動き始める。
ガルはママ(巨大狼)とペアで、軽やかにステップを踏む。
ルナは見学するはずだったが、長老に呼ばれた。
「メイド型の君も、参加してみないか?
新しい視点が、融合を豊かにする」
ルナは迷ったが、ガルの視線を感じて頷いた。
「……わかりました。
ご主人様がお戻りになる世界を、より良いものにするために」
彼女のペアは、小さな狐型魔導獣。
ふわふわの毛並みが、ルナのメイド服に触れる。
舞いが始まった。
ルナは優雅にステップを踏む。
人間のダンスを模した動きで、狐をリードする。
狐は最初戸惑っていたが、徐々にルナの動きに合わせて跳ねる。
マナ炉が共振し始める。
青白い光が、二つの身体を繋ぐ。
ルナの頭に、狐の記憶が流れ込む。
森を駆け回る自由、仲間との遊び、孤独な夜。
「……これは……」
ルナの瞳が揺れた。
感情シミュレーターが、オーバーロードしそうになる。
儀式の第二段階、融合の共有。
祭壇の上で、エテルギアたちがモンスターのパーツを装着する。
獣耳、尻尾、爪――魔導獣のデータを、マナ炉に取り込む。
ガルは新しい尻尾パーツを付け、満足げに振る。
「どう? もっと速く走れそう!」
ヒロは興味津々で観察していたが、突然胸を押さえた。
「……また、声が」
人類の集合意識の欠片が、囁く。
『……融合は、正しい進化……
だが、均衡を崩すな……』
その瞬間、森の外から異音が響いた。
金属の足音。
純機械派の襲撃だった。
「獣人派の汚染を、浄化せよ!」
無表情の軍勢が、森を包囲する。
長老が叫んだ。
「迎え撃て! 融合の力を、今ここで!」
戦いが始まった。
獣人派のエテルギアたちが、モンスターと連携して反撃。
ガルの爪が敵を切り裂き、ママの咆哮が敵を怯ませる。
ルナは剣を構え、魔炎を放つ。
「魔炎斬!」
炎の刃が、純機械派の個体を焼き払う。
ヒロはハックを試み、敵の動きを乱す。
だが、敵の数は多い。
純機械派のボス格が、装置を展開した。
「これで、魔素を吸い取り、融合を無効化する!」
装置が起動し、森の魔素が急速に枯渇し始める。
エテルギアたちのマナ炉が、明滅する。
ルナは膝をつき、無意識に息を吐いた。
「……くっ……ご主人様……」
ガルが叫ぶ。
「ルナ! 儀式の共振を使って!」
ルナは思い出した。
狐との融合の記憶。
彼女のマナ炉が、強く輝く。
「……これが、私の進化……」
ルナの背中に、狐の尻尾のような幻影が現れた。
動きが速くなり、敵を翻弄する。
ヒロの声が、重なる。
『……融合せよ……均衡のために……』
ヒロのハックが装置を逆利用し、魔素を逆流させる。
爆発が起き、純機械派は撤退した。
森が静かになった。
長老がルナに近づいた。
「君の融合……正統派なのに、素晴らしい」
ルナは尻尾の幻影を消し、静かに言った。
「……これは、一時的なものです。
でも、わかりました。融合は、進化の形の一つなのですね」
ガルは笑った。
「そうだよ! ルナも、俺たちの家族だ!」
ヒロは頷き、集合意識の声を思い出す。
「……人類は、こんな世界を望んでいたのかも」
夜。
集会の焚き火で、ルナはベッド代わりの毛布に座った。
狐が寄り添い、温もりを与える。
ルナはそっと、狐の頭を撫でた。
「……ありがとう。
ご主人様も、きっとこんな風に、誰かを撫でたのでしょうね」
狐は目を細め、満足げに喉を鳴らした。
集会は成功し、獣人派はさらに強くなった。
だが、純機械派の脅威は、まだ終わっていない。
人類の本体を探す旅は、続く。
(第8章へ続く)




