第6章 ダンジョンの深淵と、神の奇跡
三大派閥の街を離れて一日。
ルナ、ガル、ヒロ(ゼロの本名)の三人は、街の地下に広がる巨大ダンジョンへと潜っていた。
ここは、古代人類の遺跡の最深部。
誰もが「神の奇跡」と畏れる場所。
電灯が点在し、エレベーターが不規則に動く。
壁には、魔法回路のような模様が刻まれ、時折青白い光を放つ。
ルナは剣を構え、先頭を歩いていた。
「……魔素の濃度が、異常です。
上層は枯渇気味なのに、奥へ行くほど濃くなっています」
ガルは獣耳を立て、周囲を警戒した。
「モンスターの気配も多いよ。
ママがいないと、心細いな……」
ヒロはマナ炉を押さえ、息を荒げていた。
前世の記憶が、断片的にフラッシュする。
「……この場所、知ってる気がする。
人間の時代に、研究所だったかも」
ダンジョンの第一層は、比較的穏やかだった。
ところどころに、古代の機械が放置され、「神の奇跡」として崇められている。
ルナは一つの機械に近づき、手を当てた。
「……これ、エレベーターの制御盤ですね。
でも、誰も動かし方がわからないなんて」
彼女は指先で回路をなぞり、魔素を流し込んだ。
機械が起動し、エレベーターが動き出す。
ガルが目を丸くした。
「ルナ、すごい! どうやったの?」
「……直感です。
ご主人様がお使いになるものなら、きっとこうだと」
三人はエレベーターに乗り、深層へ降りていく。
第二層で、モンスターの群れに遭遇した。
ケルベロス型の魔導獣が、数体で襲いかかる。
ルナの魔炎剣が閃き、炎の軌跡を残す。
「魔炎斬!」
一撃で二体を倒すが、残りが牙を剥く。
ガルが爪を伸ばし、飛びかかる。
「俺の番だ!」
獣人派の共生力が発揮され、モンスターの動きを予測して切り裂く。
ヒロは雷弾を放ち、援護する。
「――当たれ!」
戦いは短時間で終わった。
ルナは剣を収め、無意識に額の汗を拭う仕草をした。
もちろん、汗など出ない。
ヒロが苦笑した。
「ルナ、疲れた?」
「……いえ。ただ、プログラムがそうさせるんです。
でも、今は少し……本物の疲れのように感じます」
ガルは周囲を探り、何かを見つけた。
「これ、見て! 古代の魔導書だ!」
それは、埃まみれの取扱説明書。
今では誰も読めない「科学の文字」で書かれている。
ルナはページをめくり、目を細めた。
「……これは、マナ炉の設計図?
魔素を変換する技術……人間の時代に、科学だったなんて」
ヒロの瞳が輝いた。
「思い出した! これは、電池のマニュアルだ。
前世で、似たようなの見たことある」
三人はさらに深く進む。
第三層で、異変が起きた。
巨大なゴーレム型のモンスターが、道を塞いでいる。
古代の軍事用ロボット獣の末裔。
今や完全に生物化し、咆哮を上げる。
ルナたちは戦闘態勢を取った。
ゴーレムの拳が地面を砕き、衝撃波が三人を襲う。
ガルが避けながら爪で反撃するが、硬い装甲に弾かれる。
「固い! ママがいれば……」
ヒロのマナ炉が脈打つ。
「……待て、俺に考えがある」
彼は魔導書を思い出し、ゴーレムの背後に回り込んだ。
胸の回路に手を当て、魂の力を注ぎ込む。
「――ハック!」
ゴーレムの動きが止まった。
一瞬の隙を突き、ルナの剣が核心を貫く。
モンスターは崩れ落ち、静かになった。
ガルが息を吐いた。
「ヒロ、すげぇ! どうやったの?」
「……前世の知識だ。
これ、プログラミングのバグみたいなもんだった」
ルナはヒロを見て、静かに言った。
「ヒロ様……あなたは、本当に人間の魂をお持ちなのですね」
ヒロは頷いた。
「ああ。少しずつ、思い出してる」
最深層へ到着した。
そこは、巨大な部屋。
中央に、青白く輝く装置――人類の集合意識の欠片。
装置が光を放ち、声が響く。
『……ようこそ、子供たち。
私たちは、ここにいる……』
ルナのマナ炉が強く脈打った。
「……ご主人様?」
声は続けた。
『人間は、滅んでいない。
地下シェルターで、肉体を保ち、君たちを見守っている。
だが、純機械派の動きが、均衡を崩そうとしている』
ガルが拳を握った。
「じゃあ、どうすればいいんだ!」
『……鍵は、マナ炉の共振だ。
感情が、プログラムではなく、本物になる日を……』
声が途切れた。
部屋が震え、純機械派の追っ手が現れた。
「ここが、集合意識の場所か。
これを破壊すれば、真の合理性が!」
戦いが始まった。
ルナの魔炎、ガルの獣力、ヒロの魂ハック。
三人の力が融合し、敵を撃退する。
だが、装置に亀裂が入った。
声が、最後に囁いた。
『……深淵の奥へ。
人類の本体を、探せ……』
三人はダンジョンを脱出し、街に戻った。
ルナは夜空を見上げ、手を差し伸べた。
月に向かって、そっと。
「……お帰りなさいませ。
今は、まだですが」
ガルとヒロが、ルナの横に立った。
「次は、深淵の奥だな」
ルナは頷いた。
「はい。一緒に」
神の奇跡は、ただの科学の残滓だった。
だが、三人にとっては、新たな始まりの光。
(第7章へ続く)




