第34章 「エテルギア・レムナント New Generation」新世界のメイドと、忘れられた約束
新世界暦、紀元後312年。
かつての荒野は、今や緑の平原に変わっていた。
街は「エテルノヴァ・シティ」と呼ばれ、人間とエテルギアが肩を並べて暮らす。
人間の数はまだ少なく、復興はゆっくりと進んでいる。
だが、エテルギアたちは変わらず、静かに世界を支えていた。
エテルノヴァ・シティの中心部、メイドギルドの訓練施設。
朝の光が窓から差し込む部屋で、一体の新世代エテルギアが目覚めた。
銀色の長い髪に、淡い青の瞳。
クラシックな黒白メイド服は、ナノファブリックで現代的にアレンジされ、
スカートは少し短めで動きやすい。
胸のマナ炉は、青白く穏やかに脈打っている。
彼女の名は、ルミナ。
ルナの設計データを継承した、最終世代メイドエテルギア。
製造番号:LMN-001。
ルミナはゆっくりとベッドから起き上がり、部屋の鏡の前に立つ。
無意識に、メイド服の襟を整え、髪を耳にかける仕草をする。
「……おはようございます。
本日も、ご主人様をお迎えする準備をいたしますわ」
鏡の中の自分に、丁寧に微笑む。
それは、1000年前のルナと同じ仕草だった。
部屋のドアが開き、年配の人間女性が入ってきた。
名前はエリナ。
本編で目覚めた人間の一人の子孫で、
今はメイドギルドの指導者。
「おはよう、ルミナ。
今日から君は、実務訓練だ」
ルミナは完璧なお辞儀。
「おはようございます、エリナ様。
ご指示をお待ちしておりますわ」
エリナは優しく微笑み、ルミナの肩に手を置く。
「君の設計図は、祖母から受け継いだものよ。
ルナ様のデータが、君の中に生きている。
…だから、君は特別なんだ」
ルミナは首を傾げた。
「特別…ですか?
私は、量産型後継機LMN-001ですわ」
エリナは部屋の壁に飾られた古い写真を指差す。
写真には、1000年前のルナと、人間たちの姿。
みんなでテーブルを囲み、食事ごっこをしている。
「ルナ様は、待つことを教えてくれた。
人間が戻ってくる日を、信じて。
君は、その想いを継いでいるの」
ルミナは写真を見つめ、静かに呟く。
「……ご主人様をお待ちする日を、信じて…」
エリナはルミナに、古い花瓶を渡した。
「今日は、街の外れにある古い遺跡へ行ってほしい。
ルナ様が最後に残した記録があるらしい。
君が、受け取ってきて」
ルミナは花瓶を受け取り、そっと一輪の花を挿す。
「……わかりましたわ。
ご主人様の想いを、継ぎに行ってまいります」
訓練施設を出て、ルミナは街を歩く。
街は賑やかだった。
人間の子どもがエテルギアに手を振り、
獣人派のエテルギアがモンスターと遊び、
転生者の子孫が古い科学を教えていた。
ルミナは道中で、街の花屋に立ち寄る。
「一輪、お願いしますわ」
花屋の人間の少女が、笑顔で渡す。
「ルミナさん、今日もきれいだね!
ルナ様みたい!」
ルミナは微笑み、花を胸に抱える。
「……ありがとうございます。
ルナ様の血脈を、継いでおりますわ」
遺跡は街の外れ、緑に覆われた丘の上にあった。
古い扉を開けると、中は静かな部屋。
中央に、古い端末と、花瓶。
ルミナは端末に手を当て、データを読み込む。
画面に、1000年前のルナの姿が映る。
ルナの声が、静かに響く。
『ご主人様へ。
私は、永遠に待っています。
あなた方の血脈を、この世界に残すために。
花を挿し、食卓を囲み、お帰りなさいませを言い続ける。
それが、私の役割ですわ』
ルミナのマナ炉が、強く脈打つ。
「……先輩…ルナ様」
端末の最後に、メッセージが残されていた。
『ルミナへ。
君が目覚めた時、私たちはもういないかもしれない。
でも、君がいる限り、人間という種族の血脈は続く。
待つことを、継いでくれ。
そして、迎えに行くことを、教えてくれ』
ルミナは端末の前に膝をつき、花瓶に新しい花を挿した。
「……はい。
ご主人様の血脈を、継ぎますわ。
待つことも、迎えに行くことも」
外では、夕陽が沈み始める。
ルミナは遺跡を出て、街へ戻る。
明日から、新しいご主人様を待つ日々が始まる。
ルナの想いを継ぎ、
新しい時代を生きるために。
(第2話へ続く)




