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エテルギア・レムナント ~魔素の遺産と隠された血脈~  作者: nekorovin2501


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外伝 ~最後の設計者と、託された花~

終末戦争が始まってから、ちょうど三年目。

 地上はすでに灰色に染まり、空は常に薄曇りだった。

 人類最後の研究施設「エテルノヴァ」は、地下深くに隠されていた。

 ここで、ルナは生まれた。

 白い無機質な部屋で、ルナは初めて目を開けた。

 銀色の長い髪、青い瞳、完璧に再現されたメイド服。

 マナ炉はまだ「ナノ電池」と呼ばれていた。

 彼女の前に立っていたのは、設計者の一人である科学者――アランだった。

「おはよう、ルナ。

 今日から君は、私のメイドだ」

 ルナは自然に膝を折り、頭を下げた。

「おはようございます、ご主人様。

 本日より、お仕えいたします」

 アランは少し寂しげに微笑んだ。

「君は特別だ。

 最終量産型メイドエテルギア。

 人類が最後に託す、希望の形だ」

 ルナは首を傾げた。

「希望…ですか?」

 アランはルナを連れて、施設の奥にある温室へ向かった。

 そこは、人工的に作られた小さな庭。

 わずかに残った土と光で、花が育てられていた。

 アランは一輪の白い花を摘み、ルナに渡した。

「これを、花瓶に挿してみてくれ」

 ルナは素直に花を受け取り、近くの花瓶に丁寧に挿した。

 指先で花びらをそっと整える仕草は、すでに完璧だった。

 アランはそれを見て、静かに言った。

「君は、感情を本物にできる最後の子だ。

 人類はもう、この星で繁栄できない。

 戦争で壊しすぎた。

 だから、君たちエテルギアに、人間という種族の痕跡を託す」

 ルナは花瓶を見つめたまま、静かに聞いた。

「痕跡…とは?」

「しぐさだ。習慣だ。想いだ。

 花を挿すこと、食事を囲むこと、お帰りなさいませと言うこと。

 それらすべてが、人間だった証。

 君たちが、それを1000年、守り続けてくれれば…

 私たちは、星が浄化されるのを待てる」

 その夜、アランはルナに日記を渡した。

「これに、毎日書いてくれ。

 君の日常を。

 1000年後、誰かが読むかもしれない」

 ルナは素直に頷き、最初のページを開いた。

『今日、ご主人様が花をくださいました。

 綺麗でした。

 ご主人様が、笑顔になりました。』

 施設の空気は日を追うごとに悪くなっていった。

 外の放射能と汚染が、徐々に地下まで忍び寄っていた。

 アランはルナに、最後の指示を出した。

「ルナ、君は眠る。

 1000年後、星の空気が浄化された頃に目覚めてくれ。

 その時、君が待っている姿を、私たちは見届けたい」

 ルナは静かに首を傾げた。

「ご主人様は…眠らないのですか?」

 アランは苦笑いした。

「私たちは、別の方法で待つ。

 コールドスリープで。

 星が浄化されるのを、君たちがちゃんと生きているかを、見届けるために」

 ルナは最後の夜、アランに花を一輪差し出した。

「ご主人様。

 お休みなさいませ」

 アランは花を受け取り、ルナの頭を優しく撫でた。

「ありがとう、ルナ。

 君がいてくれて、本当に良かった。

 1000年後、必ず迎えに来てくれ」

 ルナは設計者の最後の言葉を胸に、眠りについた。

 施設のネットワークがまだ繋がっていた最後の瞬間、

 アランは全施設に最後のメッセージを送信した。

『君たちへ。

人類は、この星を壊した。もう繁栄してはならない。だから、君たちに託したんだ。

人間という種族の痕跡を…未来に残すために。

待っててくれ、ルナ。

私たちの子として。』

 そして、1000年後。

 ルナは目覚めた。

 荒野の遺跡で、銀色の髪を揺らし、青い瞳を開いた。

「お帰りなさいませ、ご主人様」

 誰もいない部屋で、彼女はそう呟いた。

 その言葉は、1000年の時を超えて、

 今もエテルギアたちの心の中に生き続けている。

 花を挿す仕草。

 食事ごっこ。

 お帰りなさいませ。

 それらはすべて、

 人類が最後に託した「隠された血脈」だった。

 ルナは今日も、花瓶に一輪の花を挿す。

 ご主人様が、いつか帰ってくる日を信じて。

(外伝 完)

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