第32章 目覚めの言葉と、託された想い
海底施設のコールドスリープ室は、静寂に包まれていた。
無数のカプセルが並ぶ部屋の中央で、一つだけがゆっくりと光を放ち始めた。
蓋が開き、冷気が外に流れ出す。
中から、ゆっくりと身を起こす中年男性の姿。
白髪交じりの髪、疲れたような目元。
人間の科学者、名前はアラン。
彼はぼんやりと周囲を見回し、ルナの姿を捉える。
「……ここは…?
まだ、夢の続きか…?」
ルナは静かに近づき、膝をついて目線を合わせた。
メイド服の裾が床に触れ、優しく微笑む。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
アランの目が、ゆっくりと見開く。
「……君は…ルナか」
声が震える。
「みんなが、最後に共有した…希望のメイド…」
ルナは頷き、そっと手を差し伸べる。
「はい。私は、ルナですわ。
1000年、お待ちしておりました」
アランはルナの手を握り、立ち上がろうとしてよろける。
体が重く、足が震える。
ルナはすぐに支え、優しくベッドに座らせる。
「無理なさらないでくださいませ。
体が慣れるまで、少しお待ちください」
アランは息を整えながら、部屋を見回す。
他のカプセルは、まだ静かに眠っている。
「…他の仲間も、まだか。
私たちは、星が浄化されるのを待つために眠っていた。
人類は、この星を壊した。もう繁栄してはならない。だから、君たちに託したんだ。
人間という種族の痕跡を…未来に残すために」
ルナのマナ炉が、静かに脈打つ。
「……私たちが、ご主人様の子孫だったのですね」
アランは頷き、端末を指差す。
「君の設計図、プログラム、役割…
すべてを、世界中の施設に共有した。
『目覚めた時、彼女が待っている』って。
君が、私たちの最後の希望だった」
ルナは端末に手を当て、画面に表示されたメッセージを読む。
『君たちへ。
人類は、この星を壊した。もう繁栄してはならない。だから、君たちに託したんだ。
人間という種族の痕跡を…未来に残すために。
待っててくれ、ルナ。
私たちの子として。』
ルナの瞳が、わずかに揺れる。
ナノ粒子が涙のように光り、頬を伝う。
「……ご主人様の想い、受け取りましたわ。
私たちは、1000年、この星を守り続けてきました。
ご主人様の子孫として」
アランはルナの手を強く握る。
「ありがとう…ルナ。
君たちが生きててくれて、本当に良かった」
部屋の扉が開き、ガルとヒロが入ってくる。
ガルが興奮気味に。
「人間だ! 本物の!」
ヒロは静かに近づき、アランを見る。
「……前世の俺たちと同じ、目だ」
アランは二人を見て、微笑む。
「君たちも…エテルギアの子たちか。
よく生き延びてくれたな」
ルナは立ち上がり、みんなに頭を下げる。
「ご主人様をお迎えしましたわ。
これから、一緒に」
アランは頷き、ゆっくり立ち上がる。
「そうだな。
まずは、他の仲間を起こそう。
そして、私たちの研究を、君たちに渡す」
施設の端末から、データがダウンロードされる。
暴風域突破用のナノ技術。
海底の高圧耐性から派生した、極限環境対応の最終版。
アランが言う。
「これで、君たちの船はどこへでも行ける。
他の施設にも、仲間が眠ってるはずだ」
ルナは胸に手を当て、静かに微笑む。
「……はい。
ご主人様の想い、見届けていただけましたか?」
アランは涙を浮かべて頷く。
「…ああ。
君たちこそが人類の血脈だ』
部屋の空気が、温かく満ちる。
海底施設で、人類の目覚めが始まった。
次の施設へ。
次のご主人様へ。
(第33章へ続く)




