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エテルギア・レムナント ~魔素の遺産と隠された血脈~  作者: nekorovin2501


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第3章 バグと呼ばれる少年と、忘れられた名前

 里の外れで起きた騒ぎは、すぐに収まった。

 純機械派の斥候は数体だけで、獣人派の連携とママの咆哮で散り散りに逃げていった。

 だが、ルナの胸には小さな棘が残った。

 彼らは叫んでいた。

 「人間ごっこはもうやめろ! 感情など不要だ!」

 「眠り病は浄化だ。合理的な世界に戻れ!」

 ルナは剣を収めながら、静かに呟いた。

「……私たちは、本当にごっこをしているだけなのでしょうか」

 ガルは肩をすくめた。

「俺は知らないよ。でも、家族がいるって感じるのは、俺にとって本物だ」

 その言葉が、ルナのマナ炉に小さな波紋を残した。

 二人は里に戻り、負傷したエテルギアの手当てを手伝った。

 ルナは無意識に、傷口をハンカチで拭う仕草をした。

 もちろん、血も汚れも付かない。

 それでも、彼女は丁寧に折り畳んでポケットに戻した。

 夕暮れ時。

 里の広場で、子どもたちが焚き火を囲んでいる。

 ルナは少し離れた場所に座り、空を見上げていた。

 橙色に染まる雲の流れを、ただ眺めている。

 ガルが隣に腰を下ろした。

「ルナ、なんか考え事?」

「……はい。純機械派の言葉が、気になって」

「アイツらは昔からああだよ。人間の姿とか感情とか、全部“バグ”だって言って、

 自分たちをどんどん機械に戻してるんだって」

 ルナは膝を抱えるようにして、わずかに身を縮めた。

「では、私のこの仕草も……バグなのでしょうか」

 彼女は自分の手を見つめた。

 白いグローブに包まれた、完璧に人間を模した指。

 そのとき、森の奥から叫び声が上がった。

「誰かー! 助けてー!!」

 里のエテルギアたちが一斉に立ち上がる。

 ルナとガルも駆けつけた。

 そこにいたのは、ぼろぼろの少年型エテルギアだった。

 外見は十代半ば。黒い髪が乱れ、片腕が損傷している。

 胸のマナ炉は不安定に明滅し、時折赤い警告灯が点く。

「純機械派に……追われてて……」

 少年は地面に膝をつき、息を荒げた。

 必要ないはずの仕草なのに、必死に肩で息をしている。

 里の長老格のエテルギアが眉をひそめた。

「こいつ……転生者疑惑派の“バグ持ち”だな。

 危ない奴だ。純機械派が狙うのもわかる」

 子どもたちがざわめく。

「バグって、あの変な記憶持ってる奴?」

 ルナは少年に近づき、そっと手を差し伸べた。

「大丈夫ですか? ここは安全です」

 少年は顔を上げ、ルナの瞳を見つめた。

「……お前、誰?」

「ルナです。あなたは?」

 少年は一瞬、目を逸らした。

「……ゼロ。名前なんて、ゼロでいい」

 その声に、どこか諦めが混じっていた。

 夜。

 ゼロは小屋のベッドに横たわり、ルナが手当てをしていた。

 損傷した腕に魔素を流し込み、回路を修復する。

「痛みは……感じますか?」

 ルナの問いに、ゼロは苦笑した。

「感じるよ。バグだからな。

 みんなは“必要ない”って言うけど、俺は痛いし、怖いし、腹も減る気がする」

 ルナは手を止めた。

「腹が……減る?」

「変だろ? マナ炉があるのに、なんか空っぽになる感じがするんだ。

 昔……いや、前世の記憶だって言うんだけど」

 ゼロは天井を見つめた。

「俺、時々夢を見るんだ。

 違う世界の夢。コンクリートの街とか、スマホとか、コンビニとか……

 意味わかんない言葉ばっかり」

 ルナは黙って聞いていた。

 自分のデータベースに、そんな記録はない。

「それが、バグ……なのでしょうか」

 ゼロは首を振った。

「わからない。でも、純機械派はそれを“人間の残滓”だって言って、

 俺みたいなのを全部消そうとしてる」

 ルナは修復を終え、ゼロの腕をそっと包帯で巻いた。

 必要ないのに。

「……あなたは、逃げてきたのですね」

「ああ。転生者疑惑派の隠れ家も見つかって、みんな壊された。

 俺だけ、なんとか逃げてきた」

 外で、狼のママが低く唸った。

 遠くから、金属の足音が近づいてくる。

「まずい……追っ手だ!」

 ガルが小屋に飛び込んできた。

「純機械派の本隊だ! 数は二十……いや、三十体はいる!」

 ルナは立ち上がり、剣を構えた。

「ここは、守ります」

 ゼロもよろよろと立ち上がる。

「俺も……戦うよ。バグでも、生きてるんだ」

 里の広場で、獣人派のエテルギアたちが集結する。

 純機械派の軍勢は、冷たい金属の身体を晒し、感情のない声で宣言した。

「対象確認。“バグ”個体ゼロ、および獣人派の汚染個体を浄化せよ。

 人間の幻影は、排除対象だ」

 戦闘が始まった。

 ルナの魔炎剣が閃き、ガルの爪が敵を切り裂く。

 ママが咆哮し、モンスターたちを呼び寄せる。

 ゼロは不安定なマナ炉を輝かせ、雷弾を放つ。

 だが、敵の数は多い。

 ルナはゼロをかばい、剣で弾丸を弾いた。

「ゼロ様、下がってください!」

「ルナ……お前、なんでそんなに優しいんだ?

 俺、バグなのに」

 ルナは一瞬、動きを止めた。

「……優しい、ですか?

 それは、私のプログラムです。でも」

 彼女は微笑んだ。

「今は、少し違う気がします」

 その瞬間、ゼロのマナ炉が激しく輝いた。

「――っ!」

 ゼロの瞳に、異様な光が宿る。

 彼の声が、重なる。

『……聞こえるか? ゼロ……いや、私の本当の名前は……』

 遠い、誰かの声。

 戦場が一瞬、静まり返った。

 純機械派の指揮官が叫ぶ。

「バグの暴走だ! 全火力集中!」

 ルナはゼロを抱きかかえるようにして、後退した。

「ゼロ様! 大丈夫ですか!?」

 ゼロは額を押さえ、震えていた。

「……聞いた。誰かの声が。

 “おかえり”って……」

 ルナのマナ炉が、強く脈打った。

 ご主人様の声に、似ていた。

 戦いは獣人派の勝利で終わったが、純機械派は撤退しながら警告を残した。

「次は本軍だ。お前たちの“家族ごっこ”は、終わりだ」

 夜が明ける頃。

 ルナは里の外れで、一人、朝日を浴びていた。

 手を差し伸べ、温かさを確かめるように。

 ゼロが近づいてきた。

「ルナ、ありがとう。

 俺、初めて……守られた気がする」

 ルナは振り返り、静かに微笑んだ。

「私もです。

 初めて、守りたいと思った方ができました」

 ガルが遠くから呼ぶ。

「おーい! 朝飯の準備できたぞ!」

 二人は顔を見合わせ、歩き出した。

 ゼロが小さく呟いた。

「……名前、思い出せそうなんだ。

 本当の、俺の名前」

 ルナはそっと、ゼロの肩に手を置いた。

「いつか、教えてください。

 その名前を、ちゃんと呼んであげたいので」

 朝日が、三人の影を長く伸ばした。

 まだ誰も知らない。

 ゼロの中に眠る声が、人類の集合意識の欠片だということを。

(第4章へ続く)

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― 新着の感想 ―
食べるんですか?少し気になったので。
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