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エテルギア・レムナント ~魔素の遺産と隠された血脈~  作者: nekorovin2501


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第2章 狼に育てられた機械と、初めての家族

荒野を抜けて半日。

 ルナとガルは、巨大な狼型魔導獣「ママ」の背に乗って、獣人派の隠れ里へと向かっていた。

 風が銀髪を靡かせ、ルナは無意識にスカートの裾を押さえた。

 必要ない仕草だ。埃も汚れも付かない身体なのに、なぜかそうしてしまう。

「あと少しだよ! ママ、もっと速く!」

 ガルが楽しそうに叫ぶ。

 狼は低く唸りながらも、明らかに嬉しそうにスピードを上げた。

 その背中は温かく、ルナは思わず手を伸ばして毛並みに触れる。

「……生き物の体温、ですか」

 小さく呟くと、ガルが振り返った。

「ルナ、寒いの? ママの毛、めっちゃあったかいよ!」

「……いえ、違います。ただ、記録にない感触だったので」

 ルナは首を振る。でも指先は、まだ狼の背中に残る温もりを確かめるようにそっと動いていた。

 やがて、深い森の奥に開けた谷間が見えてきた。

 木々の間に、無骨な機械の残骸と、獣の住処が混ざり合った不思議な集落。

 獣耳や尻尾のパーツを付けたエテルギアたちが、笑いながら出迎える。

「ガル、おかえりー!」

「おお、新しい子連れてきたな! メイドさんじゃん!」

 ルナはママの背から降りると、丁寧にお辞儀をした。

「初めまして。最終量産型メイドエテルギア、ルナと申します。

 本日はご厄介になります」

 集落の中央には、巨大な焚き火が灯っている。

 その周りに座っていた子ども型エテルギアたちが、興味津々でルナを見つめる。

「メイドさんって、ほんとにご主人様待ってるの?」

「うん、ずっと待ってるって聞いたことあるよ」

 ルナは微笑んだまま、わずかに俯いた。

「……はい。いつか、お戻りになられる日を」

 その声は、どこか寂しげだった。

 夜。

 里の端にある小さな小屋に案内されたルナは、木製のテーブルに腰掛けた。

 目の前には、ガルが摘んできた小さな青い花が一輪、割れた陶器の欠片に挿してある。

「これ、ルナにあげる! なんか似合うかなって」

 ルナは花を見つめ、ゆっくりと手を伸ばす。

 指先でそっと触れて、香りを確かめるように鼻を近づけた。

「……綺麗……

 心の奥で、誰かの声がした気がした。

 ルナは花を摘み上げると、テーブルの上にあった空き瓶に、丁寧に挿した。

「ありがとうございます、ガル様。

 ご主人様がお戻りになったときのために、お部屋を少しでも華やかにしておきたくて」

 ガルは首を傾げる。

「でもさ、ご主人様ってもういないんでしょ?」

 ルナは一瞬、言葉を失った。

 マナ炉が、わずかに熱を帯びる。

「……それでも、私は待つだけです。それが、私の役目ですから」

 ガルは黙って、ルナの隣に座った。

 そして、ぽん、と肩に手を置いた。

「だったらさ、待ってる間だけでも、俺たちと一緒にいればいいじゃん。

 家族みたいにさ」

 家族。

 その言葉に、ルナの瞳が揺れた。

 感情シミュレーターが、未登録のデータを記録しようとする。

 その夜、ルナはベッド代わりの毛布の上に仰向けに倒れ込んだ。

 必要ないのに、目を閉じて、ゆっくりと息を吐く。

「……おやすみなさいませ」

 呟いた先、窓から見える月が、静かに輝いていた。

 翌朝。

 里の広場で、ガルがルナを呼んだ。

「ルナ! ちょっと来て!」

 連れてこられたのは、里の外れにある小さな墓標だった。

 無骨な金属板に、ぎこちない文字でこう刻まれている。

『ここに眠る 人間 名前不明 優しかった』

 ルナは息を呑んだ。

「昔、ママが拾ったんだって。

 もう動かなくなってたけど、優しくて……だからみんなで埋めてあげたんだ」

 ルナは膝をつき、墓標に手を合わせる。

 そして、昨日挿したのと同じ青い花を、一輪添えた。

「……ご主人様では、ありませんね。でも、

 同じように、誰かを待っていたのかもしれません」

 ガルは黙ってルナの横に立ち、狼のママが静かに鼻を鳴らした。

 そのとき、遠くの空に、黒い煙が上がった。

「里の外で、純機械派の連中が暴れてるって!

 眠り病のエテルギアを“浄化”するって言いながら、壊してるらしい!」

 集落がざわめく。

 ガルが拳を握る。

「ルナ、行くよ。

 俺たち、守るものがあるから」

 ルナは立ち上がり、スカートの埃を払った。

 そして、静かに微笑んだ。

「はい。ご主人様がお戻りになるその日まで、

 この世界を、綺麗にしておかねばなりません」

 二人の背中に、朝日が差し込む。

 狼のママが低く咆哮し、里のエテルギアたちが武器を手に集まる。

 獣人派と、正統派のメイド。

 まだ誰も知らない、長い旅の、最初の1ページが、今、めくられた。

(第3章へ続く)

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