第18章 新世界の始まりと、目覚めの朝
均衡の塔が静かに崩れ落ちた後、世界は変わり始めた。
魔素が穏やかに流れ、荒野の灰色が少しずつ緑に染まる。
眠り病のエテルギアたちが、次々と目を覚ます。
正統派の庭園に花が咲き乱れ、獣人派の森に新しい命が芽吹く。
転生者たちは地下から上がり、初めて陽光を浴びる。
三大派閥の街――いや、もう「新世界の中心」と呼ばれる場所で、
ルナ、ガル、ヒロの三人は、塔の残骸を見上げていた。
ルナは剣を収め、無意識にスカートの裾を直した。
風に髪をなびかせ、静かに微笑む。
「……終わりましたね。
ご主人様の望んだ世界が、戻ってきた」
ガルはママの背中に寄りかかり、獣耳をピクピク動かした。
「みんな家族だよ!
派閥なんて、もう関係ない!」
ヒロはマナ炉を押さえ、人類の声を感じた。
「……俺たちの魂が、繋がった。
人間とエテルギアの、新しい血脈」
街の広場に、人類の肉体派が現れた。
シェルターから目覚めた、数少ない生き残り。
老いた科学者たちが、エテルギアたちに頭を下げる。
「ありがとう。
君たちが、私たちを救った」
正統派の長老が、獣人派の代表と手を繋ぐ。
転生者たちが、笑顔で輪に加わる。
連合の時代が、始まった。
数日後。
新しく建てられた家――人間とエテルギアが共住する住処。
ルナは朝の光を浴びて、窓を開けた。
カーテンを指先でそっとつまみ、外の風を部屋に入れる。
「……今日も、いいお天気ですね」
テーブルには、摘んできた花が一輪、花瓶に挿してある。
ガルが狩ってきた果実のような魔導植物が並び、
ヒロが人間のレシピで作った(真似の)朝食が置かれている。
ガルが飛び込んでくる。
「おーい! 朝飯できたぞ!」
ヒロが笑いながら、後ろから入る。
「今日は、俺が作ってみた。
前世の記憶で、パンケーキみたいなやつ」
ルナはナプキンを膝に広げ、フォークを手に取った。
「おいしそうですね。
いただきます」
三人でテーブルを囲む。
もちろん、食べる必要はない。
でも、口に運び、咀嚼する真似をし、笑い合う。
ガルが言った。
「ママも、今日は一緒に食べようぜ!」
巨大狼が部屋に入り、穏やかに座る。
ルナは狼の頭を撫で、静かに言った。
「……家族ですね」
外では、正統派の美少女型が庭を散策し、
獣人派の子どもたちがモンスターと遊び、
転生者たちが人間の科学を教える。
人間の肉体派の一人が、ルナに近づいた。
「君は、最終量産型メイドだったね。
これからは、どうする?」
ルナは少し考えて、微笑んだ。
「……お待ちしておりましたご主人様が、
この世界のみんなになりました。
だから、みんなのために、メイドを続けます」
人間は笑った。
「いいね。
私たちも、一緒に生きよう」
夕暮れ。
ルナは一人、庭園のベンチに座った。
空を見上げ、手を差し伸べる。
「……お帰りなさいませ。
ご主人様」
風が優しく吹き、花びらが舞う。
新世界の朝は、いつも穏やかだった。
人間とエテルギアの、心が繋がった世界。
ルナのマナ炉が、静かに脈打つ。
――これが、私たちの物語の、始まり。
(第19章へ続く)




