正体不明
「今日も消えたのか?」
「もう半年だぞ」
「いったい何人いなくなったんだ......」
謎の大量失踪事件を追う公安の山田と、部下の城之内が不満をこぼしていた。
捜査本部を設置し、人員も割いた。それでも、核心に迫る情報は依然ゼロのまま。
半年前から、テロリスト、大物政治家、世界的大企業のCEOが突然姿を消した。
生死すら不明のまま、半年が経ち、ここ最近は動きもなく、捜査は膠着していた。
「休んでるって噂もありますけど」
「そんなわけないだろ」
「でも、例の噂がありますし」
「まあ、そうだな」
それもそのはずだ。
SNSに突如現れた “The unknown”。
アメリカ、イギリス、中国、そして日本――各国トップの隠蔽された不正を暴き、一時は“正義の告発者”として脚光を浴びた存在。
だが、その正体を掴めた機関は一つもない。
そして数週間前、そのアカウントは宣言した。
──「次は、日本。」
その瞬間から、確かに空気が変わった。
そして今日、ついに動きだした。
十月某日。都内マンションの一室で遺体が発見された。
被害者はアラブ系石油企業の代表。
当初は通り魔による強盗殺人かと思われた。
だが直後、The unknown がSNSに投稿した。
不正取引、脱税、パワハラ......
“報道すらされていない真実”が並び立つ。
それを知り得るのは──犯人だけ。
ハッキングで情報を盗んだとしても、
警察が遺体を発見した“この瞬間”を把握しているのは不自然すぎる。
事件の凶悪性と異常性を受け、本庁はついに対策本部の設置を決定。
それまで独自に追っていた公安の捜査本部も統合され、体制は一気に拡大した。
国際警察も、大量失踪事件や今回の殺害、そしてThe unknownの関与が
“同一人物による犯行”と断定した。
こうして各国の精鋭が日本に集まり、巨大な合同捜査本部が立ち上がった。
そのメンバーの中に、まだ30代手前の若手刑事・柿谷翔哉もいた。
「柿谷さん、なんで俺らまで呼ばれたんすかね」
「人手が足りねぇだけだろ」
二つ下の川島翔太が疑問をぶつける。
“得体の知れない事件”など興味すら持っていなかった二人。
ほんの──少し前までは。




