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「――また討伐にご参加を……」
料理長が少し立て込んでいるということを伝えにきてくれたジーノさんに「ならこれを渡してほしい」と、さっき決めたメニューを書いたメモを手渡すと、それに視線を落としながら微かに眉間に皺を寄せ小さく呟く。
ジーノさんは、私が森に出向くこと自体に反対の立場だ。
純粋に私の身の安全を心配してくれていて「安全が確保されている場所で治癒するだけですから……」と、なんど説明しても「それでも危険です」と言って私が討伐隊に加わることにいい顔をしない。
……それが分かっているので、ジーノさんの不機嫌さには気が付かなかったことにして話を続けた。
「はい。 ――なので食材の在庫と相談しつつ作ってもらえれば、と……あと、今回の差し入れから騎士団の予算が出ることになったので料理長にはその提出もお願いしたいです」
渋い顔をしながら聞いているジーノさんに苦笑いしつつ、料理長への伝言を伝える。
「わざわざお嬢様が出向かずとも……」
「……本当に危険なところには絶対派遣されませんから」
エド様だって侯爵家の令嬢を森まで連れ出して怪我させました――なんて事態は絶対に避けたいことだろうし。
私程度の治癒師を一人雇うメリットと侯爵家とのトラブルっていうデメリットが釣り合って無さ過ぎる。
それにみんなが森、森って言ってるけど、伯爵家の騎士団が定期的に魔物を間引いている安全地帯同然の場所だ。
周りの木々も伐採されて見通しもきくし。
――ジーノさんも一度見てみれば分かるのに……とかは絶対言わない。
この人、確実についてきちゃうくらい優しくて真面目だから。
――ここバジーレ伯爵領は国の端にあり、この国の国境を守っている。
隣に隣接しているのは、ソラナス大森林と呼ばれる大きな森で――……国境を守護している貴族たちの主な仕事は国境の警備や警護。
ソラナス大森林に住まう、魔物と呼ばれる凶暴な獣たちから国境を――この国を守るのが最重要かつ重大任務なのだ。
つまり――明日の討伐日で討伐するのは森に住む魔物たち。
言葉の通じない凶暴な隣人たちへの――警告だ。
ここまでが自分たちの領土だ。 ここから先には入ってくるなという。
――もうずっと長い間、魔物と人間は縄張り争いをしている。
あとは、定期的に森に住む魔物を間引いていないと、繁殖力の強い魔物なんかが大量発生してしまう危険があるんだそうだ。
――魔物と一括りにいっても、その種類は多種多様で個体差もある。
つまり魔物にも生態系や食物連鎖は存在するわけで……
大繁殖した魔物をエサとする魔物がいれば、その豊富な食料につられて――と魔物がどんどん増えていく計算になってしまうんだとか。
……餌にならないほど強い魔物が大量発生なんて単純に笑えないし。
だからこの討伐日はこの領土や領民を守るとても重要な任務だったりもするんだけど――
「十分にお気をつけを……」
やはり渋い顔のまま面白くなさそうに頭を下げるジーノさん。
(絶対に納得しないよねー……)
これだけ心配してもらって申し訳なく思うと同時に、どこか嬉しさも感じる。
そのことに少しだけ罪悪感を感じ、本気で心配してくれているジーノさんが少しだけでも安心してくれるように……と、明るい声で答える。
「もちろんです! 今回だって特別に護衛騎士が付くんですよ? だからきっと今回も大丈夫ですよ!」
治癒師に護衛の騎士が付くなんて、特例もいいところだろうけど……
イルメラってば、再起不能とはいえ未だに侯爵令嬢だからねー。
ケガなんてしちゃうと、めんどくさい事態にしか発展しないからねー。
「そのようなことは、当然でございます! ――多くの令嬢は自分の預かり知らぬことと、知らぬ存ぜぬを決め込むと言うのに……」
あぁ……またジーノさんのぼやきが始まってしまった……
ジーノさんはこの国の人にしては珍しく、魔法を使うことにとても肯定的な人みたいで、私が騎士団で治癒師をすることには反対するどころか大賛成してくれてて、ことあるごとに他の貴族やご令嬢たちが魔法を使わないようにしていることへの不平不満をぶちまけている。
「どう……なんですかね? もしかしたら私みたいに大っぴらに――とかじゃなくても、こっそり力を貸している方もいたりして……?」
人前で魔法を使うと周りから白い目で見られちゃうから使わないって人も……
どこかには私みたいに魔法使ってみたい勢がいるんじゃない?
――大体、私だってマネーが発生しなかったら騎士団の仕事なんかしてないし、討伐にも同行してないよ?
……それに討伐に毎回参加しているのだって『あなたの力を貸して欲しい!』っていうよりは『美味しいご飯が食べたい!』ってのが本音だと思うし……
――これから先、私以外に美味しい差し入れ持ってくる新人が入ってきたら『お前連れてくと色々めんどいから留守番で』とか言われるような予感は感じてる……
「――なんと……なんと謙虚なっ ご立派でございます、お嬢様っ!」
「えええ……?」
今の答えのどこに謙虚さが……?
私は同志がいたら嬉しいのにな、ってつもりで言っていましたが……謙遜そうに聞こえましたか……?
――……まぁ?
正直なところ……こうやって定期的に持ち上げてもらえることに、悪い気とかはしないんですけどね……?




