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旅立ち/手紙/帰宅

《旅立ち》


ーーローゼン商会のカティアの執務室。契約書と睨めっこしているカティアと、我が家のようにくつろぐレイヴン。


レイヴン「明日から、また旅に出ることにした」


カティア「……は? 今、なんて?」


レイヴン「聞こえなかったか?」


カティア「聞こえたけど……聞きたくなかった」


レイヴン「そりゃ悪かったな」


カティア「……いつ決めたの?」


レイヴン「前から考えてた」


カティア「なんで、私には相談しなかったの?」


レイヴン「相談しても、お前が納得するわけないだろ」


カティア「当然でしょ! なんでいつも勝手にーー」


レイヴン「勝手じゃねぇ」


カティア「勝手だよ!」


レイヴン「……怒るな」


カティア「怒るよ。だって……」


レイヴン「だって?」


カティア「……別に」


レイヴン「……」


カティア(怒ってるっていうより、寂しいだけ。……でも、そんなの言えない)


カティア「で、いつ帰ってくるの?」


レイヴン「そんなに長くはならねぇよ」


カティア「曖昧」


レイヴン「確約はできねぇ」


カティア「……」


レイヴン「……旅先から手紙を書く」


カティア「……手紙?」


レイヴン「ああ。お前が寂しくならないように」


カティア「……別に寂しいとか言ってない」


レイヴン「じゃあ、なんでそんな顔してるんだよ」


カティア「……」


レイヴン「絶対に、お前のところに帰って来る」


カティア「……」


レイヴン「待ってろよ」


カティア「……馬鹿。……気をつけて行ってきなさいよ」


レイヴン「ああ」


カティア「絶対に無茶しないこと」


レイヴン「わかってる」


カティア「……ほんとに?」


レイヴン「ほんとに。だから、そんな顔すんな」


カティア「してない」


レイヴン「してる」


カティア「……してない! 早く帰ってこないと、また迎えに行っちゃうからね」


レイヴン「……ああ」


レイヴン(お前を悲しませたくない。けど、旅に出ることはやめられない)


カティア(ずっとここにいてほしい。でも、レイヴンの足枷にはなりたくない)



   ◆◇◆



《手紙》


ーーカティアの私室。机の上には一通の手紙。封筒に書かれた名前を指で愛おしそうになぞるカティア。


カティア「……ふーん、ちゃんと約束は守るんだ」


ーー封を開け、目を走らせる。


レイヴン『カティアへ。俺は生きてる』


カティア「……まったく、相変わらず偉そうね」


レイヴン『今は海沿いの街にいる。街の名前は書かない。またお前に迎えに来られちまうからな。魚がうまいが、潮風で髪がベタつくのが難点だな。賑やかで、宿も悪くない。ま、そこそこ快適ってとこだ』


カティア「へぇ……海沿い?」


カティア「でも、この紙、潮風に晒された感じがない。むしろ乾燥した地域の紙質ね」


カティア「インクの色が微妙にくすんでる……鉄分が多い水を使ったインクだわ。海沿いの地域より、むしろ鉱山や山岳地帯の水の特徴に近い」


カティア「便箋の裏が微かに汚れている……これは……赤土?」


ーーカティアは封筒をひっくり返し、消印を確認する。


カティア「発送されたのは交易都市ロスベルク。確かに海沿いだけど……これは絶対ロスベルクで書いたものじゃないわね」


カティア「……ふぅん、わざと変なヒントを混ぜたつもり? でも、レイヴ、あんた嘘が下手よ」


ーー指で手紙の端をなぞる。


カティア(この赤土の汚れと、乾燥した紙質……たぶん、手紙を書いたのは山岳地帯に近い場所。レイヴの性格からして、事前に手紙の道具を用意していたとは考えづらい。現地産の安価なものを買って使うはず)


ーーさらにインクの滲みを見つめる。


カティア(この鉄分の多いインクの色……鉱山の近くで作られたもの。それなら、ロスベルクから北東にある鉱山町……)


ーーカティアは指で地図をなぞりながら小さく呟く。


カティア「四日後には、グレインの洞窟辺りかな……」


カティア(どれだけ誤魔化そうとしても、ちゃんと追えるんだから。……レイヴ、無事でいなさいよ)



   ◆◇◆



《帰宅》


ーーローゼン商会、カティアの執務室。レイヴンからの手紙を保管する箱をチラリと見ながらため息をつくカティア。扉が不意に開く。


レイヴン「……よぉ」


カティア「……っ!? レイヴ……!? ちょっと!? 何その包帯!?」


レイヴン「大したことねぇよ」


カティア「大したことあるでしょ! なんでそんな怪我……」


レイヴン「ちょっとな。……ま、色々あった」


カティア「適当すぎる!! そこ座って。すぐ手当するから。この間入荷した最上級魔法薬(ポーション)がーー」


レイヴン「お、おい、そんな貴重なもん使わなくても……」


カティア「黙って座って!!」


レイヴン「痛てっ! 包帯、乱暴に剥ぐなよ」


カティア「……っ!! こんなの、大したことないわけないでしょ……!」


レイヴン「……悪ぃ」


カティア(こんなになるまで……痛かったでしょうに……!)


レイヴン「……なあ、カティア」


カティア「何よ」


レイヴン「お前の顔見たら、ちょっと元気出た」


カティア「……っ!! 馬鹿……っ!!」


レイヴン「え、ちょ、おい、なんで泣きそうなんだよ!」


カティア「心配したからに決まってるでしょ!! 最近は手紙も音沙汰なしで、やっと帰ってきたと思ったら怪我してて……ほんとに、無事でよかった……!」


レイヴン「……悪かったな、心配かけた。…………ただいま」


カティア「……おかえり。今度音信不通になったら、何がなんでも迎えに行くから」

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

よろしければ、評価、リアクション、ブクマいただけると幸いです。


次話『カティアの縁談/レベルアップ/ダンジョン攻略』

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