日常/アイスクリーム/レイヴンの本気
《日常》
――ローゼン商会の従業員食堂。カティアが用意した料理を前に、レイヴンは気ままな口調で話し始める。
レイヴン「はー、やっぱ飯はここで食うのが一番だな」
カティア「そりゃどうも。じゃあ、もうどこにも行かずにここに住んだら?」
レイヴン「いや、それはない」
カティア「……なんでよ」
レイヴン「俺は自由に生きるのが性に合ってるんだよ。行きたいところに行って、やりたいことをやる。そういう生き方が好きなんだ」
カティア「……ふーん。じゃあ、好きにすれば?」
レイヴン「お、おい、なんか怒ってる?」
カティア「別に? ただ、好きにすればって言っただけ」
レイヴン「ははっ、お前、めっちゃ拗ねてるな」
カティア「拗ねてない!」
レイヴン「いや、拗ねてるって。めっちゃ分かりやすい」
カティア「分かりやすくない!!」
レイヴン「分かりやすいって」
カティア「……うるさい」
レイヴン「ま、そう言うなよ。お前といるのも嫌いじゃないんだから」
カティア「っ……!」
レイヴン「お前といると楽だし、飯もうまいし……なんつーか、居心地がいい」
カティア「……もう、バカ」
レイヴン「は?」
カティア「知らない!もう食べるよ!」
レイヴン「……お前、ほんと分かりやすいな」
レイヴン(でもまあ、俺の幼馴染がこんなに優秀で可愛いってのは、ちょっと得した気分かもな)
◆◇◆
《アイスクリーム》
――ローゼン商会のカティアの執務室。カティアが帳簿を確認していると、ドアが勢いよく開いた。
レイヴン「カティア! お前にすげーもん買ってきたぞ!」
カティア「……いきなり何よ。ていうか、もっと静かにドア開けなさい」
レイヴン「そんなことより、これだ!」
カティア「えっ、なにその氷の塊?」
レイヴン「ふふん、ただの氷じゃねぇぞ。これはな、アイスクリームっていう異国の甘味だ!」
カティア「アイスクリーム?」
レイヴン「ああ、向こうで見つけてな。冷たくて甘くて、めっちゃうまかった! お前にも食わせてやろうと思って持ち帰ってきたんだ」
カティア「……へえ?」
カティア(ちょっと意外。レイヴ、こんなふうに私のために何か買ってきてくれたきたことなんて、初めてじゃない?)
レイヴン「どうだ、感動したか?」
カティア「ま、まあね。でも、アイスクリームって輸送がとても難しくて、あの国だけで食べられる希少品だったはず。どうやって……って、まさか!?」
レイヴン「俺の氷結魔法を駆使して、完璧に保存してきた!」
カティア「……まさかと思うけど、まるごと氷漬けにしたの?」
レイヴン「そのまさかだ!」
カティア「バカじゃないの!? そんなことしたら……」
レイヴン「細かいことは気にすんな。さあ、さっそく解凍するぞ!」
カティア「ちょっ、待っ……!」
レイヴン「ええい、溶けろっ!」
――ゴゴゴゴゴッ……!
カティア「…………」
レイヴン「……あれ?」
ーー目の前に広がるのは、氷とアイスクリームだったものが溶けた白い液体。
カティア「……ねえ」
レイヴン「……なんか思ってたのと違うな」
カティア「いや、違うとかじゃなくて! 完全に溶けちゃってるじゃない!!」
レイヴン「うそだろ!? せっかく頑張って持って帰ってきたのに……」
カティア「何やってんのよ、ほんとに……」
レイヴン「……ごめん」
カティア「……でも」
レイヴン「え?」
カティア「わざわざ私のために買ってきてくれたのは……ちょっとだけ、嬉しい、かも」
レイヴン「っ……! そ、そうか? なら、よかった」
カティア(なんだろう、この感じ……変なの)
レイヴン(やっべ、めっちゃ嬉しい)
◆◇◆
《レイヴンの本気》
――小さな村のすぐ近くに流れる川の岸辺。カティアがいつものようにレイヴンを探し当てて迎えにいくと、村人たちがレイヴンを取り囲んでいる。
村人A「いやぁ、あんたは本当にすごい! 大雨で流されちまったあの橋を、一晩で直しちまうなんて!」
村人B「旅の魔法使いさんだって聞いたが、まるで神様みたいな力だな!」
村人C「おかげで畑に行けるよ、ありがとう!」
レイヴン「ああ、別に大したことじゃねぇよ」
カティア「……は?」
レイヴン「お、カティア。また迎えに来てくれたのか?」
カティア「いやいやいや、ちょっと待って! 一晩で橋を直したってどういうこと!? あの立派な橋を?」
レイヴン「ん? そのまんまの意味だが」
カティア「普通、そんなことできる!? レイヴ、いつの間にそんな技術を!?」
レイヴン「いや、壊れてたから直しただけだし?」
カティア「いやいやいやいや、そんな簡単な話じゃ……ちょっと待って。まさかとは思うけど、魔法を使った?」
レイヴン「ああ。土魔法で石作って、浮遊魔法で積んで補強して、時間魔法で木を成長させて……」
カティア「そんなさらっと言うこと!? 普通はそんなことできないのよ!?」
レイヴン「そうか?」
カティア「……やるじゃない」
レイヴン「ん?」
カティア「何でもない! ただ、驚いただけ!……でも、無茶しないでよね」
レイヴン「これくらいなら余裕余裕! 魔力もまだ全然残ってるし。あ、でも腹減ったからメシ食わせて。オムライス」
カティア「あんた、オムライス好きよね……まあ、いいわ。帰りましょう」
カティア(もしかしてレイヴって、結構すごい魔法使いだったりする?……私だって負けてられないわね)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次話『仄かに灯る/魔法の試し撃ち/用意周到』