エピローグ 二十年後③
ーーカティアとレイヴンの部屋。暖炉の火が静かに揺らめき、部屋にはほのかな温もりが満ちている。カティアはお気に入りのソファに腰掛け、湯気の立つティーカップを手にしている。隣ではレイヴンがテーブルの上を見つめ、難しい顔でため息をついた。テーブルの上にはアーサーが書き残した手紙が置かれている。
《リリスを迎えに行って来ます。少し遠いので三日後に帰ります。探索魔法と回復魔法、サバイバルに必要なひと通りの魔法とスキルは身に付けました。心配しないでください。 アーサー》
レイヴン「……結局、アーサーまで行っちまったな。しかし、リリスだけじゃなくアーサーまで魔法を覚えるってか」
カティア「嬉しいでしょう? 私たちの息子が、妹を守るために自ら強くなろうとしてるのよ?」
レイヴン「そりゃ、兄として妹を守るって気持ちは立派だと思うけどな……なんで迎えに行くのに探索魔法と回復魔法、果てはサバイバルスキルが必要になるんだよ」
カティア「リリスを迎えに行くって、要するにトップランカー冒険者並みの能力が必要ってことでしょ?」
レイヴン「いや、それがもうおかしいんだよ……! 普通は『妹を迎えに行く』って言ったら、街の商店で買い物してるのを迎えに行くとか、友達の家から連れ帰るとか、そういうレベルの話だろうが」
カティア「うちの普通は、王国の普通とは違うのよ」
レイヴン「知ってる……もう、痛いほど知ってる……」
カティア「でも、アーサーはアーサーなりに考えてるのよ。妹の冒険を止めるんじゃなくて、支えようとしてるの」
レイヴン「……あいつ、少し前まで商人の道を突き進んでたよな?」
カティア「ええ、今でも商才はピカイチよ。支店を任せられるどころか、本店でも一目置かれてるもの」
レイヴン「なのに、今じゃ魔法……しかもレアな探索魔法やサバイバルスキルまで磨いて……レンジャーかシーフにでもなる気か!?」
カティア「妹のためなら、どこへでも行くんですって」
レイヴン「……親としては、どうするべきなんだろうな」
カティア「私は誇らしいわ。家族のために努力できる子に育ったんだもの」
レイヴン「俺も、誇りには思うよ。でもな……」
カティア「心配?」
レイヴン「当然だろ」
カティア「アーサーは慎重よ。リリスとは違って、ちゃんと計画を立てて動くし」
レイヴン「そういう問題じゃねぇ。……アーサーがリリスを迎えに行くために強くなりたいって思うのはいい。でも、それってつまり、これからもリリスは無茶をする前提ってことだろ?」
カティア「まあ、そうね」
レイヴン「親としては『無茶すんな』って言うべきだろ、普通……!」
カティア「でも、リリスの無茶を止めることはできないわ。だったら、アーサーが守る側に回るのも、一つの答えじゃない?」
レイヴン「……はぁ。お前、本当に動じねぇよな」
カティア「だって、私たちの子どもよ? どんな道を選んでも、最後には笑って帰ってくるに決まってるわ」
レイヴン「……お前がそう言うなら、そうなんだろうな」
カティア「ええ、そうよ」
レイヴン(本当にこいつの楽観主義はどこからくるんだ……)
カティア「それにね、レイヴ」
レイヴン「ん?」
カティア「リリスやアーサーがどんなに強くなっても、結局最後に帰ってくるのは、ここじゃない?」
レイヴン「……」
カティア「だって、あなたもそうだったでしょう?」
レイヴン「……まあな」
カティア「リリスも、アーサーも、あなたと私の背中を見て育ったのよ。だから、どんなに強くなっても、きっと最後には帰ってくるわ」
レイヴン「……まったく。俺らの仕事はいつまでたっても終わらねぇな」
カティア「永遠に終わらないわよ? だって、私たちは家族なんだから」
レイヴン「……違いねぇ。ま、いざってときは、俺が回収するか」
カティア「ええ、そのときはお願いね」
ーー子どもたちの冒険は始まったばかり。そして、カティアとレイヴンの冒険は、まだまだ終わらない。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本日もう一話投稿します。最終話です。
次話『エピローグ 二十五年後』




