卒業の時④
どうも、コーフィー・ブラウンです。
この始まり方、ユーチューバーっぽいな・・と少し年代がばれそうで怖いです。
どうか楽しんでください。
「リク君。もう授業は無いだろう?今から魔法学について学びに行くよ」
教官室の窓際に構える教官長の席からレジンが呼びかける。
それは、この世界に来てから数週間経ったある日の講義。
「せんせーも受けるのー?」 教室の最後列に座っていたリクに、その前々列にいた生徒が話しかける。
「うん。楽しみだね。」 「えー、そうかな?最初はめっちゃ簡単で退屈だよ」
「そんなことないよー・・」 リクは困った様子で、ちらっとレジンの方を見る。
最高齢の彼はもう何度目かというようにため息をついて、
「基礎を制する者が世界を制する。そんなこと言ってるようじゃずっと上級生にはなれんぞ。」
「・・わかってるよ。」
その時、教壇に魔法陣が現れ、 キーンコーンカーンコーン
「では、始めようか。」 起立!礼!
「魔族の君らに魔法を見たことも使ったこともないという状況は、有り得ないものだろう。ただ、誰にでも使えるということは、その巧拙で自らの品位も自然と定まるということ。」
魔法のスペシャリスト、メシア・ガロワンは生徒の方を向きながら見向きもせずに魔法陣をポポポポポポン
と出現させると、
「チャプン」 え? 擬音?
するとそこから高熱を帯びた橙色のしずくが、教室の床に落ちると、ジュウゥゥ 音を発して固まった。
オオオオォォッ 一拍おいて、沸く教室。
「うん、これの面白いところは初級の火魔法を二つ、岩魔法を二つ、中級の岩魔法を二つ重ね合わせているところ。重ね合わせる、または同時に展開するというのはやはりこの魔法のほとんどを理解していないと出来ない技術なのだ。
いいか?その上で。」
彼はそう言って六連の陣を崩して、
「初級。」 ヴォン 「下級」 ヴォン 「中級」 ヴォン
「・・そして上級」 すこしきつそうに三つの陣を消してさらに大きな陣を出す。
「究極はさすがに出せないが、高級なら特別に披露しよう。」
ワアアアァイ!
「高級岩魔法ーフォーシーー」 頭上に、教室をゆうに超えるほどの大きい陣が現れ、その中心から
ゴトン! と大きく重い宝石が現れた。
「いいか?魔法はいくつもの段階に分かれているがそれは一体だれがどう定めたものか、その基準は単純明快、魔法陣の見た目、つまりはこの世のシステム、神だ。デザインが少し異なるだけでその効力は何倍何十倍と、膨れ上がる。逆に考えればそのデザインを網羅しておけばどの程度のものか、見分けがつく。そうなると、いかにこの授業が大事かわかるだろう。」
「先生っ!その大きな宝石、高級魔法にしては地味すぎる気が・・」
うおッ! 少しビックリするリク。 先生の魔法に対して地味発言か・・
しかしそれとは裏腹に。
「フフフフフフッ 素晴らしい!そう!高級魔法とはあまりに圧倒的な効力で敵を倒し、国を富ませ、自らの地位を強固に築けるもの!」
そう言いながら彼はそのドッジボールぐらいの宝石を魔法で浮かせながら、外の校庭の真ん中まで飛ばし、「リベラ 制限ー解放ー」 グゴオオオン!
すっご・・ 教場全体を揺らしながら宝石は地面をえぐり膨らみ、天高く伸びあがり、大木のように空間を何千にも分かれながら広がった。
キラキラとした大木が校庭に出現したようだ。
少し見とれていると、冷静になってきて、これは大丈夫なのかとレジンさんの方を見ると、ガロンさんを睨んでいた。
なぜそんなたわいもない様子を今、思い出したのか。それは目の前で起きていることがどれだけすごいことなのかを表すにぴったりなエピソードだからだ。
「究極闇魔法! ーマニューラ・ソル・ニグルー」
現魔王の息子、そして上級生、卒業生のトリであるカリフ・エラ・オルトが左手を前に出すと、闇魔法特有の魔法陣が展開されていく。
初級、下級・・基本通りに展開されていくその陣は、すごくわかりやすいレクチャーの動画みたいにも思える。
中級・・ 「?」 その時、ピタっと構築が止まった。
そうだ! そうだった・・彼の闇魔法に対する適正度は私ほどじゃないけど、低い。
目の前の彼は必死に食いしばりながら魔力を注いでいる。
「がん、ばれ・・」 リクは泣きそうに見守る。
しかし、そんな思いをあざ笑うように、運命はオルトを押しのけ、魔法陣を崩しにかかる。
押しのけられた彼はポケットから出した何かを飲み込んで、左手の人差し指に黒い宝石が付いた指輪をはめ込む。
「究極闇魔法! ーマニューラ・ソル・二グル!ー」
初級魔法レベルまで崩れていた魔法陣はもう一度よみがえってき、今までのスピードを超えて、中級、上級、そして高級へと順調に組み立てられていく。
「何が起こって・・」 ハッ 彼を見ていると、ヨシルさんの姿が目の端に映った。
彼女はオルトから背け、両手で顔を覆って震えていた。
あとちょっとで究極・・本で見た究極闇魔法の魔法陣はまるで悪魔のような角を四つ、角に有していた。
一つ、二つ・・そして三つめも現れた。
あと一つ・・・
「ねえ、オルト君は何をするの?」 そう聞いたリクに、親友のカビラも興味深そうに体を向ける。
「言わないよ。これは、僕が卒業できるかできないかだけの問題じゃなく、この国の将来の問題だと思っているから。」
彼の横顔は思った以上に凛々しく、まるで一世一代のデモを起こす前夜の首謀者みたいだ。
あと一つ、角の根元が少しずつ見えてきているが、その速さは無いにも等しい。
グラッ ざわわわっ ふらつくが、なんとか踏みとどまって、魔力を注ぎ続ける。
まずい、これ以上は・・一秒でも動くタイミングを誤れば、最悪・・
席を少し立ち上がったリクと同時に、他の全員の教官も同じように構えていた。
ヨシルさんだけは、目を背けながら直立している。
ああ、だめっ・・ 身体の震えが少しづつ弱まっていき、完全に右腕はぶらりと吊られた棒だ。
リクは思わず目線をそらした。
そらした先で、衝撃の光景を見ると思わず。
「ああっ!」 「おおっ!」 うわああああああああっ!(会場の歓声)
ハッ 魔法陣はいつの間にか完成していて、真っ黒に疼く大玉な球体が浮かんでいる。
それを見て、地に伏せるもの、天高く舞い上がるもの、激情にならって咆哮をあげるもの。
おのおのが正気を保てずに、本能のままに動いている。
「うおおおおーッ!!!」 ビクッ ダトンが隣でいきなり叫び出した。
ミリアは電気をちらつかせながら抱腹絶倒し、あの冷徹なレジンさんでさえ片膝を地について座り込んでしまった。
アテリーは直立してはいるものの、口元が完全に震え、眼が正気を保っていない。
前に、子供たちにこう言ったことがある。
魔族と人間の違いは魔法に関する部分だけだと。
いや、そんなことは無かった。
ここから見える限り、平然としているのは私、ヨシル・ルマン、魔王、そして観客の数人。
たぶんあのジジイ(アルファ・ラードン)もここに居たら、そうなんだろうか。
玉座に座り込んでいた彼は立ち上がり、愛息の肩に優しく触れるとパアンと球体も魔法陣も無に帰した。
会場一帯は催眠術から解かれ、静寂が訪れた。
「父上・・」 「卒業おめでとう、オルト」
後ろからヨシルさんが勲章を手に、近づいて胸元に金具をつける。
その重みに順じて彼の涙は足元に落ちていく。
ヨシルに導かれながら、オルトは壇から降りていく。
残った魔王は大衆を一見すると、
「この場を借りて! 皆に表明しようと思う!」 そう言い彼は左手で パッチンと指を鳴らす。
フォン 「ん?」
すぐ右隣には巨大な魔王の姿。
「ふぇ?」
「あの悲劇から十数年間!我々はある者の復活を待ちわびていたはずだっ!
しかし! 彼は戻ってこなかった! 彼は思いをある者に託していた!
彼女はっ! 同じレシオンの名を継承した者!
本日限りよりっ、副社長の座につく者だあっ!」
本作品を読んで頂き誠にありがとうございます。
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