卒業の時①
どうも、コーフィーブラウンです。
どうか楽しんでください。
「はあっ・・・」 足腰を動かし体勢を崩す若い男。
「オゼロ。やめてやれ。彼らも頑張ってるんだ」
カリフ・エラ・オゼロ 当時25歳。
「お前がついてこいっていうから来たというのに・・」
「次期魔王が顔見せないでどうすんだよ」
二人して、右側を見る。
そこには恰好こそ豪華なものの、管や装置が後方に無数に繋がっていて、まるで重病患者だ。
「そろそろ父を部屋に戻した方がいいんじゃないか?」
「そうだな。おい、頼む。もどったら着替えと清拭を」 「はい。分かりました。」
数人が患者の周りに群がって、静かに椅子を移し会場から出ていく。
二人は気にしないふりをしながらも、目の端でその様子を見守って完了したのを見てから、
「そういえば、コープ。おまえの子は順調か?」
「ああ。もうすぐで37週。名前をずっと考えているところだよ」
「じゃあ、おれの子の方が早いかもな。今だってこんなとこより速く妻の隣に居たいもんだ」
それからも退屈な、生徒たちの卒業成果発表の儀の間、いつものたわいない会話を続ける二人。
「だからそれはっ」 ーそれでは、副社長からの祝辞ですー
「ああ、おれだ。行ってくる」 「ちょっ、頼むかr」 「全然大丈夫だって(笑)」
ワアアアッ その男が壇上に姿を現すと会場から歓声が噴き出る。
「本日、卒業される17名の生徒諸君、卒業おめでとう。そして、その親御様または血縁者様、そして家の皆さまにお祝い申し上げます。今回で第二回となった卒業式。先ほどの卒業生の皆さんの成果、実に見事で私も常々感心するばかりでした。
彼らの指導、教育を努めてこられた人事部の教官の皆様に深く感謝を申し上げます。さて、ー」
「リク~!早くーぅ!」 「ふう・・ギリギリ入った・・」
前の世界でことあるごとに着ていたネイビーのレディーススーツ。
細かった体を鍛え過ぎたのか、肩回りがきつい・・。
リュックを背負って寮の部屋を出て、階段を下りる。
「あ!その服!やっぱ可愛いね!」
そうか。この世界に来た初日はこの恰好だったんだっけ。
でも、ミリアの姿も教員の時とは違う、すごくファンシーでモノクロチックなもの。
「あ、これ?正装なの。こんなフリフリして歩きづらいの、嫌なんだけどさ。」
ちらっとアテリーの方を見るミリア。
彼女は黒いレザーのぴっちりしたズボンに長いブーツ。
そして真っ白なフリルブラウスに金のすごく細く短いタイをつけている。
「アテリーのへそが見えてないって不思議だね」こそっと言うリク。
「アハハハ!違いないやっ!」
そう。今日は私たち教官にとって一番の節目。
生徒たちの卒業式だ。
もちろん普通なわけがない。ここは魔界。昨日人事部教官長のレジンさんから一通りのプログラムを見せてもらったが、不安になるようなものばかり。
デカ門が開かれ会場となる主塔に教官全員で入ると、わああああッ 大喝采の中を通って壇上の端にある席に着く。 そこからの景色は圧巻で、手前から卒業生の親や関係者、そして卒業生以外の生徒たち、最奥には信じられないぐらいに多くの観客がこっちをみている。
さすがは魔界、ただでさえデカい魔人の中に混じる魔物じみた個体がパラパラと目に入る。
「明日は私たちも主役だから。頑張ろっ!」
昨日話していたのを思い出す。
ワアアアッ 重々しい門が開くと、会場が大いに盛り上がる。
リク達も手を長い間、叩き続けて卒業生を迎える。
「これは・・な、長いね。(リク)」 「ほんとだよ~。全員で1000人以上いるんだもん。(ミリア)」
「多いのは良いことだ。」と最高齢のレジンさんがダトンさんの丸く肥えた背筋を正させながらいう。
「確か昔はすっごい少なかったんだよね。(イパル)」
「私が若い頃、ここで第一回の卒業式が行われていた時の卒業生はたった一人だった。その次は十数人ぐらいで、百人を超えたのは第九回の時だった。」
「その頃の重役の子供たちはどうやって教育を?(リク)」
「その頃は家庭教師が主流で、かくいう私も教官の前はそれだった。」
そんな話をしていても、まだまだ卒業生は途切れない。
「今思えば昔の成果発表はひどいもんだった。」
「ハハハッ 特にヨシルのやつがな!(アテリー)」 「ヨシルさんが?」
人事部長として少し遠い席にいるヨシルさんを見る。
「ああ。あいつだよ。最初の卒業生は。(アテリー)」
「ヨシルさんにも家庭教師がいなかったんですか?」
「まあ・・家庭教師というか、師匠だな。コープ・レシオンこの国の英雄だ。」
「うらやましいですなー、あの副社長直々の指導。(ダトン)」それにメシアもうなずく。
「あいつは最後の一年だけここで過ごして卒業したんだ。何を発表したか知ってるか?
初級魔法だよ。しかもめっちゃ地味な。あれは笑ったさ。(アテリー)」
幼いヨシル・ルマンの左手からビリッと白い電気が走る。
「何言ってんの!アテリー!ちゃんと説明しなよ!リク。あの人がそこで見せたのはただの初級魔法じゃない。 それは、世界で初めての雷属性の魔法だったってわけ!(ミリア)」
たしか、雷魔法はミリアの得意な分野だったか。
「アテリーは教場出身じゃないんでしょ?どうして知ってるの?」
「そりゃあ、教場っていうよくわからん場所が式を開くっていうんだから、父と見に行ったんだよ。
あと、それが最後の弟子・・」
パーッパパパーッパパパーッ! パパパパーっ!
金管楽器の音色が響き渡る。
気づくともう卒業生はみんな入場して席に着いていた。
ガチャアン 門が開く音。
じゃあ一体今から誰が。
バッ 全員が一斉に立ち上がった。 全員だ。
バッ 全員が一斉に頭を下げた。 もちろん全員。
その男は群衆の間を堂々と歩いてくる。
リクも思わず同じようにしながらもちらりと顔を少しあげて覗き見る。
彼が壇に上がり、私たちとは反対側に座り込んでやっと、皆が顔を上げると、
彼が少し見回して、手を挙げると一斉に席に着いた。
「それでは、第19回の卒業式を行います。」
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