第4話
涎を零し、体中から血を垂らしながら動く死体。
ボロボロの布切れを纏っているだけで、もはや服とは言えない。
首には金属製の首輪と手に枷がついており、もしかしたら生前は囚人だったのかもしれない。
同じ屍人同士だが、アシルのほうが進化して間もない。
いや、そもそも目の前の屍人は骨人から進化した個体なのか、それとも生まれながらに屍人なのか。
浮かんだ疑問をアシルは思考の外に置く。
「アア、ウァッ」
屍人が手を振り上げ、伸びきった爪を振り下ろしてくる。
咄嗟に避けると、背後にあった窓が粉砕された。
攻撃力は予想以上だ。
痛覚がない分、脳のリミッターが外れているが故の力なのだろう。
(……馬鹿力と言えば、酒に酔った聖騎士団長を思い出すな)
屍人と聖騎士の長である脳筋女騎士の姿を重ねるのは失礼すぎかと思い直す。
生前はどこを気に入られたのか良く飲みの席に誘われた。
弱い癖に飲んで盛大に酔っ払うので、介抱はステータスの差で命の危険が伴う人だった。
今となってはそれも懐かしく感じる。
生前の記憶を思考の端に置き、アシルは相手の戦力を測るために固有技能を発動した。
(<解析>)
名前 なし
種族:屍人
Lv8
体力:G
攻撃:F
守備:F
敏捷:G
魔力:G
魔攻:H
魔防:H
視界に目の前の囚人屍人のステータスが表示される。
当たり前だがアシルよりもレベルは上。屍人としては先輩のようだ。
能力値は一緒だが、魔物だから当然職能がない。
本来はアンデッドとなったアシルにも与えられるはずはないのだが、そこは奇跡が起きたとしかいいようがない。
「ウア、オアアアッ!」
と、冷静に推測できるのは進化したことで、目の前の囚人屍人の攻撃を余裕を持って避けれるからだ。
予測不能の動きだが、十分に対処できる。
ただ室内で戦っている分、長剣を振り回すときは注意しなければならない。
アシルは爪の攻撃を長剣の刀身で受け止めながら、囚人屍人の腹に蹴りを入れる。
ぐちゃりと嫌な音が鳴りながら後退した囚人屍人に対して、アシルはすかさず闘争心に従って前へ出る。
(職技能<闘気斬>)
赤いエフェクト光が長剣に宿る。
そのまま空中に線を引くように手を振りぬく。
その瞬間、囚人屍人の頭がぽろりと崩れ、首から血しぶきが噴き出した。
光の粒子が身体に吸い込まれていく。
その量は骨人とは比べ物にならない。
間違いなく複数回、レベルアップした。生前の副兵士長アシルに、身体能力に限ればどんどん近付いている事に充足感を感じる。
一度、ステータスを確認する。
名前 アシル
種族:屍人
Lv4(12/120)
職能:見習い剣士
Lv5(5/50)
体力:G
攻撃:F(装備+5)
守備:F
敏捷:G
魔力:G
魔攻:H
魔防:H
<固有技能>
・解析
<職技能>
・闘気斬
進化解放条件:レベル20
中位職能解放条件:レベル20
種族レベルは3上がり、職能レベルも一気に上がった。
多少、強引な手段で存在力をかき集めたが、そのおかげで早々に進化できた。
(屍人のほうが存在力を大きく吸収できる。しかし骨人を大量に狩った方が多対一の訓練にもなるしな)
大通り付近を見る限りでは骨人が大半だ。
しかし大立ち回りを演じたためか、階下を見下ろすと大分骨人の数が少なくなったように思える。
王都全域を見れば恐らく極一部に過ぎないが、この辺りでの狩りは控えた方が良いかもしれない。
街にいるアンデッド達は恐らく街の中心に聳え立つ城に住む【屍霊四将】の配下のはず。無暗に数を減らしすぎるのはやめた方が無難か。
(狩場を変えるか)
そもそもアシルが見て回ったのはメインストリートとその周辺、つまりは街の一部でしかない。
王都は驚くほど広いのだ。
魔王軍がこれからどう動くか、また王族を失ったエルシュタイン王国の動き。
そういった情報もできれば欲しい。
その為にも、アシルは狩場を変える事に決めた。