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第2話



 辺りを探索をしながらアシルはかつての街の大通りに出た。


 人で溢れていただろう場所は、アンデッドが徘徊する見るも無残な光景になっている。

 石畳で舗装された車道や歩道には、車輪が外れた壊れた馬車や血がこびりついた荷台がそのまま放置されている。


 見る限りでは人間の姿は一人もいない。

 

 そのまま周囲を観察するように大通りの真ん中を歩く。多くのアンデッドとすれ違うが、彼らは特にアシルに興味を示さなかった。


 安全面を考慮して、とりあえずレベル上げは人気がない場所でひっそりと一体ずつ殺ったほうが良いだろう。


 現状、アシルは街の探索を優先することにした。

 兵士時代に世話になった馴染みの店が全て廃墟になっている。


 やるせない気持ちに、骨の指で眼窩を覆うが当然のように涙は出ない。


 雑貨等を売っている道具屋、錬金釜がデザインされた看板が目印の薬屋、剣が交差した看板を掲げている武器屋。


 アシルはそれぞれ入ってみた。


 やはりと言うべきか、どの建物の中にも人の姿はなかった。

 床に転がっている白骨死体や腐りきった食物に虫がたかっている。


 王都が襲撃され、何か月経過したことだろう。


 アシルの身体からは生きていた頃に身につけていた衣服やペンダントが消えている。


 流石にこれからレベル上げをする上で心許ない。

 多少錆びている鎖帷子を武器屋から拝借し、頭を下げてからその場を後にした。


 着替えを終えたアシルは再び探索を再開し、やがて街の出入り口に当たる正門付近にある教会に辿り着いた。


 天使が描かれた看板が立てられているが、教会自体は半壊している。

 ステンドグラスは割れ、屋根上にあるシンボルのような天使像が無残に破壊されていた。


 本来、教会とは神に祈りを捧げる場所というだけではなく、ステータスを確認する場所でもある。

 天使像に触れると誰しもが自分のステータスを閲覧できるが、アシルが訪れた目的は別にある。


 扉は破壊されているため、そのまま建物内部に足を踏み入れた。

 中は礼拝堂となっている。


 ずらりと並んだ多くの座席に黒々とした血痕が付着していた。

 更に壁に人型の穴が空いていたり、割れたステンドグラスの破片が散らばっていたり、祭壇の手前には神官服を着た人間の死体が放置されていた。


 彼の手には赤子の屍が抱えられている。


 生前、顔馴染みだった教会に勤めていた神父は幸せそうに子供が生まれたんだとアシルに惚け話を聞かせてくれた。


(……ッ)


 思い出がよぎり、ただただ立ち尽くしてしまう。


 しばらくしてから、アシルは神官の死体を丁重に脇にどけ、祭壇に向かう。

 祭壇上には天使の像が倒壊していた。


 近づくと分かるが、屋根上にあるものと比べて像の大きさが段違いである。


 その巨大な天使像の手のひらの上には罅が入っている宝珠(オーブ)がある。


 目を見張るほど綺麗な宝珠(オーブ)だった。透き通るような金に近い色。

 これは天使の涙という宝玉で、これに手を触れると人族は聖光神から加護を与えられるのだ。


 生前、アシルも頂戴した。

 今となっては魔物になったせいか消えたが、もしかしたらと思ったのだ。


 アシル自身、精神は人族だと思いたいから。


 思わず背伸びしてアシルが手を触れた瞬間、宝珠(オーブ)が一瞬明滅した。


 そして、アシルの身体にレベルアップ時のような万能感が満ちた。


(……ありがとう、神様)


 自身の手のひらを眺める。変わらず骸骨のそれだが、何かが明確に変わった。


 確かめるために、アシルは再び自分の内側に意識を向ける。


名前 アシル 

種族:骨人(スケルトン)

Lv2(0/15)

職能(クラス):見習い剣士

Lv1(0/10)


体力:H

攻撃:G(装備+5)

守備:G

敏捷:G

魔力:H

魔攻:H

魔防:H

固有技能(オリジナルスキル)

解析(アナライズ)

職技能クラス・スキル

・|闘気斬


進化解放条件:レベル10

中位職能(クラス)解放条件:レベル20






 無事聖光神からの加護、職能クラスを獲得した。

 見習い剣士の職能クラスは人族だった頃に一番最初に与えられた職能クラスだ。


 職能クラスもレベルを上げれば上位のものに進化できる。


 しかし才能がない者はレベルの上限が決まっており、上限に達すると存在力をいくら吸収してもレベルが上がらなくなり、結果として職能クラス進化は不可能になるのだ。


 ちなみ副兵士長アシルのレベル上限は可もなく不可もなくの30だったので、中位職能クラスには進化できたが、上位にはいけなかった。


 聖騎士になるには上位職能クラスになるのが最低条件なので、いくら鍛錬を積んでも英雄に至ることはなかった。


 ちなみに魔物が職能(クラス)を得ることはない。職能(クラス)は人類にのみ与えられる加護である。


(……つまり、魔物としての種族レベルと人類が持つ職能(クラス)レベルの両方を持つ俺は単純計算で他者より二倍強くなれるということ)


 人だった頃よりよほど強くなれるかもしれない。


 鍛えれば、あの勇者の兄である聖騎士とも戦える。


(……ん? これは)


 現実に戻ってくると、天使像の手の上にあった宝珠(オーブ)、【天使の涙】がまるで役目を終えたように割れていた。


 そして、その宝珠の下に羊皮紙の切れ端が隠すように残されていた。


 手に取って文字を目で追う。


『サフィア姫は生きていた。【屍の魔王】の腹心である屍霊四将【首なし黒騎士(デュラハン)】がいる城の最上階に幽閉されている。俺はもうすぐ死ぬ。あとは任せた、勇者フレン』


 羊皮紙には比較的真新しい血がこびりついている。書き殴るような乱雑な字だが、必死さが滲み出るような文字列だった。


 だが、衝撃は予想以上に大きかった。


 思わず両膝から崩れ落ちてしまう程に。


 この羊皮紙、恐らくこの陥落した王都に忍び込んだ密偵が残したものだろう。

 

 帰還する途中捕まり、邪を寄せ付けない【天使の涙】に守られた教会なら安全と考えメモを残したのかもしれない。


(そうか……サフィア姫が死ねば聖剣は別の王族の身体に移るから魔王軍は生かしたのか……確か国王の妹君はレイフォース侯爵家に嫁いだはずだ……)


 つまり、サフィア姫が亡くなればゼノンや勇者の母に次の聖剣は宿ることになる。


 それはむしろ敵の戦力の強化に繋がるため、おそらく魔王軍はサフィア姫を手元に置くことで聖剣の無力化を図ったわけだ。


(王都は陥落したがまだ勇者様や地方貴族たちは生きているということ)


 同時に、ゼノンが完全に魔王軍に協力していることが明らかになった。

 恐らく母親から地下通路の存在も聞いたのではないだろうか。


 サフィア姫が生きているならば、アシルがやるべきことは一つだ。

 

(まだ……約束は続いている。続いているんだ。どうかもう少しだけ待っていてくださいッ)


 今度こそ、彼女を勇者様の元へ。


 魔物となった身では傍にはいられないが、その約束だけは果たさなければならない。


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