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34.平和な日常

 採取した素材は基本的に全てわたしのものになった。なんだか、わたしばかり良い思いをしてしまったような気がする。もちろん、いただけるものはありがたく頂戴するけれど。

 わたしは今、遺跡で採取してきた素材を使って調合を行っている。

 村の人の依頼と平行してグレン様の剣づくりに着手していた。グレン様はわたしの地図にを基に遺跡の探索を行っているらしい。清書した地図はグレン様が良い値段で買い取ってくれたのだ。遺跡の変化をより詳しく調査するそうだ。

 ――新しい素材を使って調合できるのはやっぱり嬉しいわ。調合している間は平和だし。


 わたしはグレン様の魔剣について考える。魔力を無効化するアイテムというものは意外と形にするのが難しい。特定の属性を打ち消すだけならば反対の力をぶつけたり、属性そのものを無かったことにするようにすればいい。

 けれど、今回はどんなものがきても無効化したい。反射にするのが良いのか吸収にするのが良いのかも検討する必要があるだろう。


「まずはどれから試そうかしら。剣との相性も考えないと駄目よね。便利そうなのは吸収かしら」


 わたしはまず相手の魔法を吸収するイメージを明確化するため、ポンチ絵を描く。設計図ほどしっかりしたものではないが、この作業はあった方が良い。しっかりとイメージ出来なければ調合は失敗する。


「攻撃をエネルギーに変換して……。吸収するなら貯めておく入れ物も必要よね。空の魔石に吸わせる感じかしら。放出するなら……。とりあえず試しに火を吸収する魔石でも作ってみよう」


 わたしは錬金釜に火山岩に溶岩石、ガラス玉に錬金触媒を入れる。さらに星のかけらとスライムゼリーも加えた。杖で錬金釜をかき混ぜ、魔力を流して行く。火を吸収する石をイメージし、そのイメージを錬金釜に伝えるように魔力を流した。ぐるぐると錬金釜をかき混ぜていくと錬金釜に入れた素材が形を無くし混ざり合っていく。

 ここまでは問題ない。新しい形が出来ていく感触が出来てきた。

 ――丁寧に魔力とイメージを伝えて……。

 錬金釜を包む光が収束すると『火を吸収する魔石』が完成した。わたしは出来上がった魔石を手に取り光にかざしてじっくりと石を視る。


「よし。問題ないわ。この要領で属性を増やしてみましょう」


 わたしは同じ要領で属性を増やしていった。


「うんうん。ここまで良い調子ね」


 次はいよいよ全属性だ。わたしは素材を錬金釜に入れ、しっかりと完成品をイメージしながら魔力を流し、かき混ぜていく。

 身体からずるりと魔力が奪われていく。さすがにここまでくると必要な魔力も大きくなるらしい。わたしはそのまま丁寧に錬金釜をかき混ぜ、しっかりとイメージする。なかなか上手く形にならない。

 ――あ、駄目かも。

 そう思った瞬間、錬金釜を包んでいた光は霧散し、錬金釜は爆音と共に煙に包まれた。


「けほっ、けほっ……。うぅ……失敗」


 ため息をつきながら錬金釜を眺めているとリラの声がした。リラは「エルザ、大丈夫?」と声をかけながらアトリエに入ってくる。何故か隣にはグレン様がいた。


「エルザ嬢、無事か? ものすごい爆発音がしたんだが……」

「グレン様?」

「そこでばったり会ったから一緒にきたよ。グレン様も心配そうにしてたし」


 ――わざわざ失敗を見に来なくても良いのに。


「大丈夫です。ちょっと失敗しただけですから」

「これがちょっとなのか?」


 グレン様はアトリエの惨劇をみて心配そうな顔をする。


「錬金術は普通に失敗しますよ? 難しいものであれば失敗の確率も高まります」

「そうなのか。いつも難なくこなしているようにみえたからそうそう失敗しないものかと……」

「グレン様、わたしがまだ駆け出しの錬金術師ってことをお忘れですか? それに、見た目ほどひどくないんですよ。失敗しても残りカスや灰は錬金術の素材になりますし。ちょっと掃除が大変なだけで……」


 わたしは苦笑いするしかなかった。


「エルザ、掃除手伝うよ。今日はもう終わりにしよう?」

「ありがとう。確かに今日はもう終わりにした方が良さそうだわ。問題点をしっかり洗い出さないといけないし」

「それ、終わりにするって言わない。今日はね、グレン様が差し入れを持ってきてくださったの。せっかくだから一緒に食事にしましょう?」

「それって、わたしが作るんだよね?」

「もちろん。エルザが作った方がおいしいしね。そのために掃除も手伝うんだから」

「しっかりしてるわ」 

「知ってる」


 わたしたちがいつものように笑い合っていると、グレン様が申し訳なさそうに話しかけてくる。


「私も手伝おうか?」


 わたしたちはグレン様を無視して盛り上がっていたかもしれない。しかし、手伝うと申し出されても困ってしまう。領主の息子に掃除なんてさせられない。リラも同じ気持ちだったのか、すぐさま手伝いを拒否した。


「そんなことさせられません」

「そうですよ」

「だが……」

「グレン様はお客様ですよ。どこの世界にお客様に失敗の片付けをさせる人間がいますか」

「……リラ嬢はエルザ嬢との食事会の為に片付けを手伝うんだろう?」


 ――ん? まさか、食事会に混ざりたいから掃除? なんだか斜め上の発想。意味がわからないわ。

 グレン様がしょんぼりしている犬のように見えてきた。きっと、リラも同じように感じているはずだ。


「そんなことしなくても普通に食べていけば良いじゃないですか。グレン様が差し入れを持ってきてくださったんでしょう?」

「そうですよ」

「そうだが……」


 なんて真面目な人なのだろうか。差し入れをしたならそれで充分貢献しているというのに。仕方がないのでわたしはグレン様に仕事をお願いすることにした。


「では、お手伝いをお願いしてもいいですか? グレン様がいらっしゃるならちょっと豪勢な食事にしましょう。食材の買い出しを頼んでもいいでしょうか?」

「ああ、任せてくれ!」


 グレン様は嬉しそうな顔をする。ますます犬っぽい。


「では、差し入れを見せてください。必要な材料をリストにしますので」


 わたしは頭をフル回転させ、何を作るか考えて必要な材料を書き出した。

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