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31.休憩

 グレン様はかなり期待に満ちた目をしている。

 確かにサンドイッチの断面はとても綺麗だ。柔らかくジューシーなカツに甘めのソースとからしマヨネーズ。パンと千切りキャベツも加わり完璧な調和。きっと満足するはずだ。

 わたしが「どうぞ」と手渡すとあっという間に胃袋の中に消えた。

 ――やっぱり男の人はたくさん食べるのね。多めに作ってきて良かった……。


「デザートもありますから」


 そう言ってわたしは火をおこしてお湯を沸かす。気分の問題かもしれないが、お茶は淹れたてが良い。お茶を淹れると気持ちが落ち着くのもある。そういうわけで、わたしは採取で出掛ける際も外でお茶を淹れることが多い。

 お気に入りのお茶でわたしは一息つく。

 今日のお菓子はホワイトチョコとクランベリーの入ったブラウニーだ。濃厚なチョコレートの甘さとクランベリーの酸味の相性が抜群である。自分ではおいしいとは思っているけれど、人に出すときはやっぱり少し不安だ。

 グレン様はわたしが出したものを何でもおいしそうに食べてくれる。

 危険な魔物も出る遺跡の中だと言うのにここだけは違う空間のようだ。

 ――なんだか餌付けしているみたいだわ。


 パチパチと火が爆ぜる音がする。

 ――こういうときって何を話せば良いのかしら。グレン様のことなんてよく知らないし……。

 

「甘さと酸味のバランスが素晴らしいな。このまま菓子職人になるのはどうだろうか?」

「また、そんなことを言うんですか?」

「王都でも充分やっていけると思うぞ」

「わたしは錬金術師なんで……」

「そうだな。まぁ、冗談は置いておいて……」


 ――え? 冗談だったの? よくわからない……。


「どうしてそんなに戦えるんだ?」

「どうしてって言われても錬金術師だからですけど」

「素材採取するから戦えると言っていたが普通なのか? 今はいないが城にいるような錬金術師は戦わないんじゃないか」

「自分で素材を採取しないなんて錬金釜の面白さも半減ですね。わたしたちは素材を採取するときもこれはあれに使えそうとか考えますし。発想力が重要な錬金術において自分で素材を採取しないなんて考えられません。ある程度戦えなくては普通に困ります。もちろん、危険は極力避けますよ」

「なるほど」

「錬金術って割と才能の割合が大きいので修行としては戦闘訓練とか素材の観察が殆どでしたね。魔物を倒せば素材になりますし、ほぼ戦闘訓練だったかもしれません……」


 わたしは師匠との修行の日々に思いを馳せる。あれはなかなか過酷だった。


「三年ほど前に村に来たと言っていたが三年でここまでならたいした物だと思う」

「う~ん。厳密に言うともう少し前から軽く訓練はしていたんですよね。母が嫌がるのでこっそりと。母が亡くなってからは護身のためだと言って」

「かなり前から準備していたんだな」

「えぇ。でも、こっちにきてずいぶん甘かったなと実感しましたよ。師匠、かなり厳しいですから……」


 望んで得た生活だったけれど、驚きの連続だった。貴族令嬢の鍛錬なんておままごとだった。

 今ではわたしもずいぶんこの生活に馴染んだと思う。昔の知り合いがみたら驚くだろう。


「すごい師匠なんだな」

「えぇ! 師匠はすごいんですよ。とっても強いですし、錬金術の腕だってすごいんです。グレン様とも良い勝負をするかもしれません」


 師匠を褒められてわたしは思わず興奮してしまう。


「そんなになのか?」

「剣だけで戦えば厳しいでしょうけど、錬金術師としてアイテムを駆使するならいい線行くと思います」

「いつか手合わせしてみたいな」

「あ、でも身体を大切にしないといけないような歳なので、お手柔らかにお願いします。挑まれれば張り切っちゃいそうですけど」

「そんなに歳が離れているのか」

「えぇ。感覚的にはわたしの祖母世代ですね」

「さすがにそんな人とは戦えないよ」

「ふふ、そんな風に油断していると普通に負けますよ」


 ――この会話の感じだと師匠とグレン様は会ったことがないのね。錬金術師なんて珍しいのだから普通に認識してそうなものなのに。まぁ、外出していることも多いものね。


「これからはエルザ嬢にも期待していいだろうか?」

「もちろんですよ。別に守ってもらいたいとか思ってませんから」

「それはそれで悲しいものがあるが、心強いな」


 そう言ってグレン様は少し考え込んだ。


「ところでエルザ嬢。その『様』は不要だと思わないか? 戦闘中にいちいち『様』を着けるのもどうかと思うのだが。こちらもエルザ嬢を――」

「え? 嫌です」

「即答……」


 なぜかグレン様は淋しそうな顔をした。


「理由を聞いても?」

「いや、だってグレン様は貴族で、領主様のご子息ですよ? 不敬だと捕まりたくありませんし、要らぬ嫉妬は買いたくありません」

「そんなことは……」

「ないと言い切れますか? 他の人が聞いたら変に思いますよ」

「書面にすれば良いか?」

「そこまでしなくても……。書面にしたところでいつも持ち歩いて見せるなんて非現実的ですし。普通に今までどおりで良いじゃないですか」

「そうか……わかったよ……」


 なんだか残念そうな顔をする。どうして距離を縮めようとしてくるのかわからない。


「そろそろ、交代で仮眠を取りませんか? まだ、必要な素材が集まっていませんし、探索は続きますよね」

「……そうだな」


 グレン様は心なしか元気がないような気がする。ここは先に休んでもらった方がいいだろうか。


「お疲れでしょうから、わたしが先に見張りをしますよ。グレン様は休んでください」

「いや、私は大丈夫だからエルザ嬢から休んでくれ」


 この感じは引いてくれそうにない。疲れているようにみえたのは勘違いだったのだろうか。わたしは遠慮無く休ませてもらうことにした。

 ――休めるときにしっかり休まないとね。


「わかりました。では遠慮なく。あ、一応念のために言っておきますけど、護身用のアイテムはたくさん身につけていますから」

「……安心してくれ。大丈夫だ。君に危害が加わるようなことはないよ」


 わたしは鞄から毛布を出して休むことにした。


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