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28.遺跡へ

 約束の一週間後、グレン様がわたしを迎えにきた。グレン様も探索用にしっかりと装備を調えてある。なんだかんだと皆気になるようで、野次馬ができていた。きっと、リラが村の人に話したのだろう。グレン様と村の人の様子を見て、改めてグレン様は悪い人ではないし、村人とは良い関係なのだと思った。

 リラなど村の女性たちはグレン様にうっとりしていた。残念ながら、わたしには良さがわからない。

 ――皆、わたしに対して可哀想な子といったような顔をするけど、釈然としないわ。ただ、装備を調えて迎えにきただけじゃない。 

 リラ曰く、「王子様が迎えにきたという憧れのシチュエーション」だそうだ。女の子としての感性が死んでいるとまで言われてしまった。



 村の人たちに見送られ、わたしたちはエルド遺跡にやってきた。この遺跡は発見されてから長い時間が経っている。アトリエにも多くの資料が残っていた。

 グレン様が遺跡の鍵を扉にかざす。『ゴゴゴゴ……』と重たい音を立てて扉が開いた。


「エルザ嬢。これを」

「これって……」


 グレン様に差し出されたのは錬金術で作られたアイテムだ。


「あぁ、錬金術で作ったものらしい。遺跡荒らしに遭わないよう特殊な結界を張ったと聞いている。鍵だけでは不十分だろうと。結界はかなり危険だから気をつけてくれ。この結界のおかげで、扉を開けるだけでは入れないが、このブローチがあれば問題無く中に入れる。ブローチがないと……」


 グレン様は落ちている小石を拾い結界に向けて投げた。小石は『バチッ』と音を立ててはじかれる。


「わぁ……」

「これはあまり驚異がないからこの反応だが、結界を壊そうと思い切り攻撃をすればそれに対応した反撃がくる。悪意を持った者が入ろうとしても同様だ。さぁ、入ろう」


 もしかすると、この結界とブローチの作成者はわたしの師匠を辿った人の中にいるのかもしれない。見覚えのある印が入っている。

 遺跡の扉の中に入るとすぐに魔力の壁を感じた。これが結界だろう。わかりやすく主張している。魔力を感じられない人間でもわかるようになっているようだ。わたしは息をのんで結界に触れる。ぐにゃりと触れたところがゆがみ、難なく中に入ることができた。


「結界は問題無く作動しているようだな」

「厳重なんですね」

「普通に危険だからな」


 中には危険な魔物もいるのだから仕方がないのかもしれない。遺跡を守るためもあるのだろうが

遺跡から人を守るためのものなのだろう。

 グレン様が扉を閉めるとわたしたちは遺跡の中を歩き出した。


「エルザ嬢、最大のお目当ての素材はアダマンタイトだよな」 


 グレン様が地図を確認しながら話しかけてくる。

 わたしの一番の目標は亀のような大きくて固い魔物、アダマンタイマイだ。こいつからはとても硬い希少金属のアダマンタイトが採れる。

 遺跡には遺跡にしか存在しない、危険な魔物が存在し、貴重な素材を入手することができる。アダマンタイトもその一種だ。

 このアダマンタイトは昔、料理が好きなわたしのために師匠が良く切れる包丁を作ろうとして失敗した。当時、あまり力が無かったわたしが簡単に材料を切れるようにと考えてくれたのだ。

 とっておきの素材だと意気揚々と作ってみたものの、良く切れすぎてまな板どころか台所を破壊することになった。気合いを入れすぎてしまったらしい。もちろん、即お蔵入りだ。

 今回は程々の切れ味で固くて丈夫な刃を作りたい。ちゃんと考えて作れば問題ないはずだ。剣のためにはぜひ手に入れたい素材のため、強い魔物ではあるが遭遇したい。


「そうですね。アダマンタイトを手に入れるためのアダマンタイマイはかなり強い魔物だと聞いています」

「あぁ、だが問題無く倒せるはずだ。任せて欲しい」


 なんと心強い発言だろうか。心なしかグレン様も張り切っている気がする。

 ――やっぱり、遺跡探索はロマンよね。グレン様もそんなに楽しみだったのかしら。


「期待しています。あの、わたしも地図を作りながら進みたいんですけど……。中の形が変わっていないか確かめたいんです」

「構わないが、大変じゃないか?」

「大変じゃないですよ。わたしにはこれがありますから」


 わたしは鞄から紙の束と瓶に入った液体を取り出した。グレン様は不思議そうな視線を向けてくる。


「ただの紙と液体に見えるが……」

「錬金術で作った、記録用紙です。この液体をわたしの靴にかけて歩くと、その軌跡がこの紙に記録されます。これを基に清書すればかなり正確な地図が作れるはずです。もちろん、この液体自体に害はありませんし、遺跡を傷つけるようなこともありませんから」

「すごいな……。興味があるからやってみてくれ」

「ありがとうございます。では、早速」


 わたしは近くの壁に手を置き身体を支えると、右足の裏を上に向けるように上げ、ブーツの靴底に液体をかけた。左足も同じようにする。

 わたしの動作をみたグレン様は何とも言えない顔をした。


「言ってくれれば自分の足にしたのに……」


 お行儀が悪いが仕方がない。見逃してもらおう。

 わたしは少し歩いて、正常に作動するのを確かめた。

 

「すごいな。これは階層が変わったらどうなるんだ?」

「下の階層に行くなら下の紙に記録されますよ。一応、縦の動きも検知してくれるんです。この遺跡は地下にしか伸びていませんよね」

「そうだな」


 これも夢で視た内容を基に作ったものである。異世界のゲームの中ではダンジョンの地図が自動的に作成されることが多いようだ。採取や記録を行いたいわたしとしては地図を作る手が足りない。便利そうなので錬金術で作ってみたのだ。

 今まであまり活躍する場面がなかったが、作っておいて正解だった。


「では、改めて出発しましょう」


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