21.実力を示すには?
グレン様はすぐに手紙を書くを言うので、わたしは待つことにした。グレン様はちゃんとお手紙セットを持ち歩いているらしい。
――王子の側近ともなるとこういったものも持ち歩かないといけないのかしら。
グレン様は宿に戻ることなく、この場で手紙を書くらしく、わたしは手紙を書く場所を提供して本を読む。
このアトリエには師匠が残してくれた本が山のようにあるので、いくらでも時間は潰せる。本を手に取ればグレン様のことは全く気にならなくなった。
「エルザ嬢、お待たせした」
「わっ」
グレン様に声をかけられたわたしは思い切り驚いてしまう。
「す、すまない。まさかそんなに驚かせてしまうとは……」
「い、いえ。こちらこそすみません。すっかり集中していたようです。一人暮らしなので普段は誰かに読書の途中に話しかけられることが少なくて……」
少しだけ気まずい空気が流れる。グレン様との距離感は正直まだわかっていない。
「え、えぇっと……ではお手紙をお預かりしますね」
「頼む」
わたしはグレン様から手紙を受け取って転送装置の方へ移動した。
転送装置の箱に手紙を入れて、わたしが錬金術で作った魔石を置く。魔力を流すと手紙が消えた。
「本当に転送できるんだな」
グレン様は感嘆の表情だ。
「えぇ。これで第三王子殿下のところに届いていると思います。お気づきになられたら手紙を返送していただけるかと。届きましたらお知らせいたしますね」
「あぁ、待とう」
――これからどうすれば良いのかしら。
「……で、これからのことなんだが、一緒に村の外にでないか?」
「外にですか?」
「あぁ。私の実力を示したい」
早速、グレン様は先ほどの約束を守ってくれるらしい。
「そうですね……。急ぎの予定はありませんので構いません。準備するのでお待ちいただけますか? そこまでお時間は取らせません」
「いや、女性の準備には時間がかかるものだ。気にせずゆっくり準備してくれ」
「ありがとうございます」
わたしはそう言って奥の部屋に行き、採取に行く時の服に着替える。良いものがあればついでに採取もしてしまえば良い。
さっと準備を終えてグレン様のところへ戻った。
「お待たせしました」
「いや、殆ど待っていない。ずいぶん早いんだな」
「外に出掛けるだけですよ? 貴族のお嬢様じゃあるまいし、そんなに必要な準備はありません」
「そんなものなのか……」
戻ってきたわたしを視てグレン様は不思議そうな顔をする。普段から待たされることが多いのかもしれない。確かグレン様には妹がいたはずだ。
わたしは昔の生活を思い出して思わず苦笑してしまう。
――あんな生活はもう無理だわ。
「貴族女性の準備には時間がかかりますものね。平民でも時間をかける人はいますが、わたしはそこまでではありません。採取に出掛けるだけですから。では行きましょう」
わたしはアトリエの戸締まりをして、グレン様と村の外に向かった。
あまり一緒にいるところを見られたくないけれど、見られた方が村の人は安心するかもしれない。口にはしないだけで、グレン様の依頼を受けるか気になっているだろうから。
わたしたちは村を出て、森の中を進んでいく。
この村の周辺の魔物はそんなに強くない。強くないといっても魔物は魔物。一般人には危険である。村には魔物よけのお守りがあるため、魔物は入って来ない。
グレン様はどうやって実力を示すのだろうか。わたしはグレン様に質問する。
「このあたりですと、そんなに強い魔物は出てこないと思いますけど、どうしますか?」
「そうだな……。弱い魔物ではあまり意味がないか……」
「たくさんの数を相手にするのはどうですか?」
「そんなに都合良く集まってくれるのか?」
「錬金術で作ったアイテムがありますよ」
「それはどんな……」
「魔物を集めるんです。魔物よけの反対の機能ですね。今回はお香を持ってきています」
「君は笑顔でさらりと恐ろしいことを言うな……」
「そうでしょうか? 素材を集めたい時に便利なんですよ。こうやって定期的に狩れば村の人の安全も守れますし」
「………………」
――おかしい。グレン様が若干引いている気がするわ。
「しかし、それではエルザ嬢も危ないのでは?」
「うーん。木の上にいるのはどうですか? ウルフとかであれば上まで来ませんし。危なくなったら上から援護しますよ?」
「……そうしよう」
グレン様は一瞬言葉に詰まったが、わたしの意見に同意した。さきほどよりもさらに引いているような気がするがわたしは気にしないことにした。
わたしたちは動きやすいように少し開けた場所に移動する。ちょうど登りやすそうな木もあるし、ここが良さそうだ。
「この木なら登りやすそうかな。じゃあ準備しますね」
わたしは周囲を確認し、鞄から魔物寄せの香を取り出す。こんなこともあろうかと準備しておいたのだが正解だった。
平らな地面にお香を置き、魔石を入れる。
「お香と言う割には火をつけるわけではないんだな」
「一応、危ないですからね。魔石を使うのは安全装置のようなものです。これに魔力を流せば魔物が寄ってきます。お願いしても良いですか? わたしは木に登りたいので」
「わかった」
「では、上から見守りますね」
わたしは鞄から腕輪と取り出し、腕にはめる。身体を軽くし、身体を強化する腕輪だ。さらに鞄からナイフを取り出し、木の幹に向かって勢いよく投げた。
わたしは投げたナイフがしっかり刺さっているのを確かめると足場にして木を登った。腕輪のおかげで簡単に登ることができる。
しっかりした太い枝に座り、下を見るとグレン様が固まっているのがみえた。
「…………」
「どうかしました?」
「……軽々と木に登るのに驚いただけだ」
「あぁ、この腕輪で身体強化してるんです。身体も軽くしてますから簡単に登れますよ」
「いや、うん。なんでもない」
「では、こちらは準備OKなので始めてください」
グレン様はわたしの言葉にうなずくと、魔石に魔力を流した。




