16.依頼の品の完成
その後も調合を行い、下準備を終えたわたしは腕輪の調合に取りかかった。
素材を錬金釜に入れ、杖で丁寧にかき混ぜていく。魔力を少しずつ流し腕輪の完成形をイメージした。
――丁寧で細かい、綺麗な細工。複数の毒に対する毒耐性に身体強化。攻撃を受ければ障壁を作り、魔力を流すと敵を氷漬けにする能力。腕輪の内側には小さくて綺麗な赤い石。王子様を守る腕輪。全てを一つにまとめてあの腕輪と同じ形に……。
簡単な薬とは違ってすぐには形にならない。手を止めることは出来ず、錬金釜を混ぜ続ける。
わたしの魔力がどんどん奪われ、キラキラと錬金釜が不思議な光に包まれ始めた。
イメージが形になる感覚と感触だ。
――あと、一息。ここで一気に魔力を流し込む!
「で、出来た……。想定よりも魔力を使っちゃった」
欲張ったせいか、想定していたものよりつくるのがずっと難しかった。身体強化の特性はつけなくても良かったかもしれない。
――でも、元の腕輪より良いものを作りたかったのよね……。
出来上がった腕輪と借りた腕輪を見比べても違和感はない。機能面は設計通りだ。これであればお守りとしては充分な出来だろう。
わたしは出来上がった腕輪の内側に自分が作ったことを示す印をいれた。
少し休憩した方が良いかもしれない。そう思ったわたしは飲み物を補給しようと動き出す。
「できあがったのか?」
グレン様は恐る恐る声をかけてきた。
「はい。腕輪だけですけど。思ったより難しかったですね。ご覧になりますか?」
「あぁ」
わたしはグレン様に出来上がった腕輪を差し出した。
グレン様は元の腕輪と見比べながら「よく出来ているな……」と感心している。
「わたしの印が入っている方が錬金術で作ったものです。あとで説明書を書きますね」
「助かる」
「すみません。手紙の転送装置は明日にさせてください。このまま始めるとおそらく徹夜になるかと……」
「いや、ちゃんと休んでくれ。あんなに大変な作業だとは思わなかった」
グレン様はわたしが調合中、錬金釜をずっとかき混ぜ続けていたことを言っているのだろう。わたしは思わず苦笑する。
「錬金術ってなんかすごそうだけど、錬金釜をかき混ぜるだけで何かできるんでしょ?って思われることもあるんですよね……。よくわからない技術なので仕方ないんですけど。グレン様は今日はこの村に?」
「そのつもりだ」
「でしたら、明日、調合が終わりましたらお声がけしにいきますので」
「それはつまり、明日は来るな、と言うことだろうか?」
「まぁ、そうとも言いますね」
思わず本音がこぼれてしまう。見てる分には構わないのだが、作業中に出入りされると邪魔なのだ。明日は特に神経を使う作業になる。
グレン様は少しだけ傷ついたような顔をした。
「ずいぶんはっきり言うんだな……」
「すみません。疲れているようで外面が……。お茶もお出しできませんし」
「いや、構わない。邪魔になるのは本意ではないし、明日はこの村の周辺を見てくるよ」
村の周囲を見てくると言う言葉にわたしは先日のことを思い出した。「毒草には気をつけてくださいね」と笑うと、グレン様の表情も崩れた。ほんのり赤くなっている。
「あ、あれは……。本当に情けない。あの時は本当に助かった。まだお礼もしていないが必ず……」
「あれは本当に気にしないでください。では、お疲れ様でした」
「あ、いや……」
わたしは面倒だったので、まだ何か言いたげなグレン様を見送った。
――お礼がしてほしくて助けた訳じゃないんだもの。余計な縁は作りたくないわ。
気がつけばすでに夜になっていた。どおりで疲れるはずだ。
「ふぅ……やっと落ち着ける。今日の夕飯、どうしようかしら。さすがにちょっと疲れたかな」
わたしは凝り固まった身体を思い切り伸ばす。
夕飯について悩んでいるとリラが訪ねてきた。
――こんな時間にどうしたのかしら。
「エルザ、お疲れ様。良かったら夕飯に食べて。たいしたものじゃないんだけど……」
「嬉しい。ありがとう。でも、どうしたの?」
「グレン様が戻ってきたみたいだから今日の仕事は終わりかなって思って」
さすがはリラだ。差し入れを持ってきてくれたらしい。なんて気がつく良い人なんだろう。わたしが男だったらリラと結婚したい。
「ちょっと、さすがすぎない? タイミングバッチリだよ。わたしの心が読めるの?」
「エルザのことはお見通しだよ。今日は疲れてるだろからこれで帰るね。明日もなんでしょう?」
「うん。この仕事は明日で終わると思うから、一息つけるかな」
「そっかぁ。じゃあ頑張ってね。おやすみー」
「うん。ありがとう。おやすみなさい」
わたしはリラが持ってきてくれた夕飯を食べ、明日の調合の準備をして寝た。
***
「よし、今日も頑張ろう」
早めに起きたわたしは調合の準備を始める。昨日の晩のうちに手紙の転送装置のために必要な調合の下準備は終えてある。
結局、きりの良いところと思って作業を進めてしまった。
早くこの仕事から解放されたい、という気持ちが大きかったのかもしれない。
「昨日のうちに進めておいたから今日は楽なはず……」
わたしは気合いを入れて手紙の転送装置の調合に取りかかった。
金に錬金粘土、風伯の羽に月見草、星のかけらに……と次々に素材を錬金釜に入れていく。すでに作成済みの魔石、夢で見た二つをつなぐ錬成陣も入れる。
錬金釜に入れた素材は魔力を流し始めると形を失っていく。
――ここまでは問題なし。
魔力を流しながらかき混ぜていくとすべての素材が溶けて混ざり合った。わたしは実現したい機能や形をしっかりとイメージしていく。
――二つを繋ぐ箱。手紙だけでなく、小さなものも転送できて……。悪用できないように使用者を限定。
予想通り、すぐには形にならない。手を止めることは出来きないので必死に錬金釜を混ぜ続ける。
わたしの魔力がどんどん奪われ、キラキラと錬金釜が不思議な光に包まれ始めた。
イメージが形になる感覚と感触だ。
――もう少しで形になりそうね。ここで一気に魔力を流し込んで……。
錬金釜を包んでいた光が収束し、混ざり合った素材がイメージ通りの形になる。
「……完成!」
手紙の転送装置が完成した。




