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13.夢を視る

 その後もわたしたちは依頼に関する細かい話をした。


「では、これでお願いします。先ほどもお話しましたけど、手紙の転送装置の仕様は変更になるかもしれません。基本機能は変わりませんが」

「あぁ、問題無い。近いうちに契約書を持ってくる」

「今回の素材は在庫品を使う予定ですけど、持参していただいても構いません。素材採取に行く時間や仕入れの時間を短縮できますから。珍しい素材は入手が大変ですし。その分価格はお安くなります」

「わかった」

「あと、お菓子なんですけど、リラや食堂などで頼めば完全に同じものではありませんが、似たようなものを作ってもらえると思います。レシピを渡していますので」

「そうか。帰りに寄ってみるよ」

「あ、レシピが欲しい場合はきちんとお金を払ってくださいね。皆さん、レシピは購入していますから取り上げるようなことはしないでください」

「もちろんだ」


 グレン様はわたしのストックしてあったお菓子をいくつか持って帰った。それなのに、まだ購入していくつもりのようだ。

 ――かなりのお菓子好きなのね……。さすがに一度に食べるつもりではないと思うけれど、身体に悪そうだわ。

 充分な額を支払ってもらったけれど、グレン様のおかげで在庫がぐっと減った気がする。リラが悲しむから在庫を補充しないといけない。

 あれだけ購入していくのなら錬金術で作ることも検討しないといけないだろう。



「さて、依頼の品にはどう応えようかしら」


 手紙の転送装置の仕様書はざっくりとしたものだ。早急に持ち帰りたいとのことでとりあえずで良いから作って欲しいと言われてしまったためである。世の中にすでにあるものを元にしている。

 わたしの錬金術師としての実力を計りたいたいのだからオリジナリティも必要だろう。

 

 わたしは視た夢をまとめたノートのページをめくる。

 ――このあたりが参考になると思うんだけど……。

 

 異世界の中の通信手段のページで手を止める。

 異世界では電子メールというものがあるらしい。遠く離れた相手にいつでも文章などを送ることができる。

 便利だけれど、形の無いものを相手に届けるということイメージするのが難しい。受信したメールの保存や検索、表示など色々と検討する必要がある。

 送信機と受信機も必要だ。勢いに任せて深く検討せずに異世界のアイテムを持ち込むのも好ましくない。今回は不採用だ。


 他にわたしが気になっているのはどんな制約を持たせるかだ。無制限に使えるようなものは困るし、他者に悪用されないようにする必要もある。


「うーん。これは夢で視た方が良いかな。と言っても思い通りに視ることなんてできないんだけど……」


 確率を上げるためには夢を見やすくする安眠香を使うしかない。夢を視ることができなくても、何日か考えれば何かアイディアがうまれるかもしれない。


 わたしは夢が視られますようにと願って眠ることにした。



 ***


 真っ暗な空間でぼんやりとした光が広がっていく。

 夢を視ることができたようだ。わたしは慣れないベッドから身体を起こす。


「ここは……」


 何度か来たことがある異世界の『ログレス』という国だ。


 この世界にも錬金術がある。と言ってもわたしの世界にある錬金術とは違う。錬成陣と呼ばれる特殊な図形に対応する素材を置いて魔力を流して新しい物質を生成する。

 錬金釜は使わないし、作りたいものによって錬成陣も変えないといけないし、素材を組み合わせて変成するようなものなので、難しそうだと思う。

 わたしの使う錬金術はもっとふわっとしているものだ。イメージ力と才能は必要だが、必要な素材も厳密には決まっていない。


 ――ついているわね。もしかして、強く願えば意外と夢見の力をコントロールできるのかしら?


 この世界は錬金術を応用して物質の移動も行うことができるらしい。錬成陣同士をつなぐのだ。

 わたしの世界にあるものとは原理が違う。

 ――この転送装置について調べれば良さそうね。

 有り難いことに、この世界では錬金術は学問として確立しているので色んな書籍がある。才能も必要で理論を理解しないと使えないのはなかなか敷居が高い。学問を修める環境も財力も必要になる。

 ――まぁ、こっちの人からしたらわたしたちの錬金術の方が敷居が高いと思うんでしょうね。原理がよくわかっていないんだもの。


 わたしは本棚から物質の転送についての本を探す。目的の本を見つけると、そのまましばらく読みふけった。


「うぅ……、やっぱり難しい……」


 文字は読めるが内容をきちんと理解できているかと言われると難しい。物質を転送するイメージをつかめれば良いのが救いだ。


「この世界だったら錬金術師にはなれなかったかも……」


 オリジナリティを出すためのヒントを得るために、実物も観察する。


「ここの部分を変えると転送できる質量を変えられるのね。魔力の節約には……」



 あっという間に時間が経ってしまった。そろそろ戻らないと行けない時間だ。

 ――この世界の錬金術も本当に興味深いわ……。名残惜しいけれど、戻らないと。早く記録したい。


 わたしは先ほど起き上がったベッドに戻り、眠りについた。


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