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魔族に似ているせいで幽閉されていた幸運をもたらす王女は、追放同然で大魔王に嫁がされたのですが……待っていたのは溺愛でした  作者: 畑中希月
本編

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第十一話 勇者は大魔王について語る(イザドラ視点)

 シェリーンがギルガ宮でリュデロギスの求婚を受け、幸せな一日を過ごしたその翌日。

 アルカンの第二王女にして王位継承者のイザドラは、婚約者である勇者エセルバートが自室に訪れるのを待っていた。まだ、婚約式をすませたわけではないが、イザドラはエセルバートとの結婚が決まってご満悦だ。

 何せ彼は、西大陸最強の勇者とうたわれ、旧王家の血を引く美男子である。

 しかも、エセルバートは大魔王に勝ったのだ。


(敗者な上に醜い大魔王に嫁いだお姉さまより、わたしはずっと条件のいい結婚ができるわ)


 イザドラは初対面の時からシェリーンのことが嫌いだった。

 シェリーンはとがった耳と紫の瞳という、魔族のような気味の悪い特徴を持っているにもかかわらず、その顔立ち自体は非常に美しく、自分の理想とするお人形のような容姿をしている。しかも、イザドラは亜麻色の髪なのに、シェリーンは父王からまばゆい黄金色の髪を受け継いでいるのだ。


(それに、わたしのお母さまは伯爵家の出身なのに、お姉さまの母親はお隣のカラムセナの王女だというし、本当に何もかもが気に入らない。わたしはお母さまがお父さまと正式に結婚するまでは庶子扱いだったのに、最初から王女として育てられたなんて!)


 母キザイアのシェリーンへの態度を見て、「異母姉には何をしてもいい」と学習したイザドラは、シェリーンが大切にしていた前王妃の形見の数々を自分のものにした。彼女の幽閉が決まった時は飛び上がって喜んだものだ。


 シェリーンが幽閉されてからは、彼女を嘲ることで気晴らしをするついでにその世話係をお小遣いで買収し、嫌がらせをさせていた。シェリーンに同情し、命令に抵抗した世話係はキザイアに告げ口して辞めさせた。

 そんな陰湿なことをしておきながら、イザドラは自分のしてきたことは「大したことがない」と思っているのだった。


(でも、お姉さまがいなくなったから、ストレス発散の手段が減ってしまったわ。まさか、魔族や魔物がうようよしている東大陸に行くわけにもいかないし、何かいい方法を考えておかないとね)


 イザドラが不穏なことを考えていると、ノックの音が響いた。


「王女殿下、勇者エセルバートさまがおいでになりました」

「お通しして!」


 現れたエセルバートは優雅に一礼した。


「王女殿下、このたびはお招きいただき、ありがとう存じます」


 王女の血を引く公爵家の出なだけあって、エセルバートは礼儀正しく品がある。

 イザドラはにっこり笑った。


「前にも言ったでしょう? イザドラと呼んで」

「イザドラさまがそうおっしゃるのなら」


 イザドラは控えていた女官にお茶と茶菓子を持ってくるよう命じ、エセルバートに席を勧める。

 イザドラは婚約者の前でもシェリーンをおとしめたくてたまらない。彼は大魔王に勝ったのだから、きっと同調してくれるだろう。


「エセルバートさまもご存知でしょう? 昨日、姉が嫁いだのだけれど、王都を出たところで、大魔王が待ち構えていたのですって。まるで略奪されるように連れ去られたらしいわ。魔族は野蛮ねえ」

「あのリュデロギスが自ら迎えに……」


 エセルバートはヘイゼルの目を見張った。そのあとで、少し考え込むような顔をする。


「おそらく、リュデロギスは移動魔法を使えるでしょうから、そのほうが合理的だと思ったのではありませんか?」


 自分に同意してくれないエセルバートに、イザドラは少し腹を立てた。


「そうかしら。アルカン側が約束を破りはしないかと不安だっただけではなくて? 大魔王は自分を打ち負かしたあなたが怖いから、是非とも和平を結びたくて、姉を妻にすることを承諾したのでしょう? 王女を差し出したのは、アルカンにとってはお情けみたいなものだけれどね」


 エセルバートの表情が曇った。その変化を自分に言い負かされたからだと思ったイザドラは、気をよくして話題を変えた。


「ところで、姉に同行した従者は妙なことを言っていたのよ。大魔王は美丈夫だったって。そんなことがあるわけないわよね。だって、何百年、何千年も生きている魔族の王なのでしょう?」

「正確には魔族の皇帝で、魔帝といいます。魔族の年齢は外見と一致しません。何百年、何千年生きていようが、見た目は麗しい乙女ということもざらです」


 イザドラは内心で羨ましいと思ったが、そんなこと口には出せない。


「そうなの? 気味が悪いわ」

「彼らにとっては、それがごく自然なことなのです」

「じゃあ、大魔王は醜い老人ではないの?」

「はい、その従者の言っていたことは本当ですよ。わたしはあの魔帝ほど整った顔立ちの男を見たことがありません。あの氷のような美貌――思い出すだけで背筋が凍るようです」


 エセルバートはうそ寒そうな顔をした。


(ちょっと待ってよ。そこまで美しく、いくらたっても見た目が若いままの男にお姉さまは嫁いだというの……?)


 話が違う。エセルバートは確かに美男子だが、人族である以上、四、五十年後には老人になってしまうというのに。

 きっと性格がねじ曲がった男に違いない。シェリーンは心のねじけた残忍な夫によって、酷い仕打ちを受けているに決まっている。


「それなら、よほど冷酷な男なんでしょうね。お姉さまもおかわいそうなこと」

「単に冷酷なだけの男なら、どんな汚い手を使ってでも、わたしたち勇者パーティーを殺そうとしたでしょう。彼は単身でわたしたちと戦ったのです。敵ながら見事としか言いようがありません。リュデロギスはそういう男ですから、姉君もそれなりの待遇でお迎えされていると思いますよ」


 またしても反論だった。


(どうしてエセルバートさまは、大魔王をそんなに評価しているのよ……!)


 女官がお茶と茶菓子を運んできた。イザドラはエセルバートにお茶を勧めるのも忘れ、思い通りにならない現実から目をそらすためにゴクゴクとコーヒーを飲む。

 彼女は知る由もなかった。既にシェリーンが魔帝リュデロギスに溺愛されていることに。そして、自分たち親子が魔帝の逆鱗げきりんに触れてしまったことに。

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― 新着の感想 ―
[一言] というか、勇者は魔帝と戦って負けたんだよね?でも、生きて帰ってこれたのは、魔帝の温情があったからなんだよね? そりゃあ勇者は、魔帝の事を知って、褒め讃えてる訳で…。 でも王城の人は分から…
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