「うつし世はゆめ 夜の夢こそまこと」
寂しさはどうして
空の色をしているのだろう
夢のあわいに貴方の顔が見えます
今朝は晴れて憂鬱は鍋の底
阿弥陀如来は曼殊沙華の気持ちがわかりますか
八幡神社で花一匁
夏のお堂には鬼面の人々が群がる
お祭りには線香花火を仏壇の前で
あの世の人にも見せたいから
神様とは人を罰することもあるんだ
夢ばかり見ていました
通りすがりの旅人を
小匣に入れて海に流す
明日には
きっとそう
常世の國にたどり着いている
あなたの足跡を探して
夜の宿場町は
月を見失なって
永遠に眠ったまま
朝はこっそり布団の中で丸まっていて
孤独な咳をしている
病だと分かっても
もうモルヒネは足らない
其処の辻で講釈を垂れている若者は
学生運動の神様のなれの果て
日本政府の死神がいかんのだ…
路地裏には本物の死神も居ます
朝には朝餉
暗がりにはお化け
いつまでも子供で居たいのよ
走り回る娘達も
灰色に染まり行く空にため息を
もうすぐ此処も寒くなる
路地裏のヒーローは
黄金バットに夢中
永遠の恋なんて在るのだろうか
或いは八百比丘尼の人魚
沼のヌシは味噌蔵の倅に捕まって
夕飯の刺身になることを恐れている
蔵屋敷の中には阿修羅が居て
この家を燃やすことを
お勧めしてきた
座敷牢の中
娘は兄に恋をする
ほら虫籠窓からシャボン玉が舞っている
もうすぐ終わるからね、この苦しみも
灯篭のような太陽が昇ってくる
町は静かに眠っていて
少しの人たちだけが
秘密の朝焼けを知っている
三味線の音色が何処からか
朝焼けは母の子守歌を知っているか
荒れ野をゆく旅人の孤独を
時期外れの彼岸花が
庭の遺体の上にはらはらと
此処では変わった事が起こる
辻占の婆が猫の亡骸を海に流そうと
小径は喪服の幽霊が立っていた
お風呂には何処からか蝸牛が入り込む
水槽の中の一匹の金魚が脱皮していた
ちょこっとだけ不思議なんです
朝目覚めたら小指だけが青くなっていた
次の日にはポトリと小指は床に落ちた
おかしいなと鏡を覗くと犬歯が青ざめていた
きっと家に棲みつく小人がやったんだ
あべこべの福笑いを哀し気な目で見つめる
お地蔵様の涙が枯れ葉に乗って彼方に
夢の終わりはいつも悲しくてパラドックス
泣きながら目覚めたことがある
「うつし世はゆめ 夜の夢こそまこと」
部屋の隅の西陣羽織の人形が
夕日に照らされて悲しげ
旅人の齧った林檎が道に落ちている
悲しみはいつだって
今度雨が降ったらあの街角で逢おう
それはきっと来年の梅雨になる
哀しみの淵に灯る赤い灯は私を妖しにする
時計がむずがって午前二時ばかりを指し示す
教室のメトロノームは不協和音を奏でて
幼い少女は闇に恋して山に消えていった
恐山の風車を盗んでくる
踏切の地蔵菩薩に秋赤音が止まっている
冬の夕暮れは密やかに躊躇う
提灯を持ったままの狐が
旅人を桃源郷に誘う
フライパンの目玉焼きは
水槽の中のタツノオトシゴが
食べつくしてしまった
秋の残り香をあの部屋の隅の暗がりで
枯れ葉が道路を舞い
秋でも夢を見ることが出来るのだなあと
箪笥の中の線香花火は湿気ってしまった
闇の中で
神様もひとりぽっち
たまには遊びに来てください
そんな葉書が郵便ポストに届いた
小鬼の家に
小鬼は飲んだくれだった
博打ばっかりやっていた
だけど人間の時よりも優しい子だった
神社には待ちぼうけの神様
人に忘れられ
境内は荒れている
たまに雷を落として人間を困らせた
今では小鬼と遊んでる
古道をお酒を片手に往く
家々は物言わぬ虚ろの影
何処からか蝉の声聞こえて来そうな師走
電車が近いので踏切の妖しげな音がカンカンカン
懐かしいあなたに逢いたくなりました
夏にしか会えない神の子
水琴窟の近くの水神の社
灯篭祭りには線香花火をしましょう
陽だまりの中に水槽のザリガニが揺れて
寂しさはどうして
空の色をしているのだろう
夢のあわいに貴方の顔が見えます
今朝は晴れて憂鬱は鍋の底
阿弥陀如来は曼殊沙華の気持ちがわかりますか
八幡神社で花一匁
夏のお堂には鬼面の人々が群がる
お祭りには線香花火を仏壇の前で
あの世の人にも見せたいから
神様とは人を罰することもあるんだ
ランプの上で炎は燃えている
皆はどうして密やかな旅に出ないんだろう
きっと死にたくないからね
竹藪の向こうに忌道は続いている
どうして惹かれるんだろう
暗がりに赤い花が堕ちている
子供達の笑い声がどこからか聞こえてくる
鈴の音が近い
朝焼けがもうすぐ始まる
その前にちょっとだけ
闇に浸って
どうして空は青いのだろう
包帯は血に濡れて蔵の裏の川を流れてゆく
主は遠くの山の山彦に心を奪われたまま
お嬢様は人魚の肉を喰らって気が触れる
暗がりに提灯酒には墓場
幸せになれない人に
此の世は三途の川
蝶番の外れた蔵の中で
兄妹が口づけを交している
娘は狂ったまま座敷牢の中で息絶える
秋は眠り冬は炬燵
魚を咥えた野良猫が
夢はどちらと人語を喋る
未来は土の中に眠ったまま早幾歳
タイムトラベルは僕には早かったかもね
旅人は湯船につかったまま
年を越してしまいそう
お元気ですかと宛先のない手紙
夕餉の匂いと包丁のトントンという音は
いつでも僕を海の向こうへと運んでくれる
アカシヤの雨にうたれて
幽玄の夢を見る
朧月を窓からまばたきせず眺めるような
海の水面は夜になっても穏やかに
眠る前のコップの中の水は透き通って
凡てを抱擁する
坂道を登ると古民家が木々に隠れてひっそり
其処で謎めいた御経が夜の間聞こえて
夜は妖しげ朝まで踊る
人魚の骨が喉に刺さって痛い
夢の在り処は脳のどこら辺に在るのだらう
夢人がかまくらを掘って
その中で人間失格を読んでいる
ためらわず君は鬼の首を絞めた
妹は兄へ禁断の愛を胸に秘めている
あの家は風紀が悪いからね
いつまでも黄泉平坂桃源郷
賽の目が凶日に血に濡れた
暗がりで裸
怨念は勿忘草にも宿るのか
沙羅双樹の下で
暗闇の中に曼殊沙華が堕ちている
昨日地蔵菩薩に貰ったものだ
尊い自尊心は儚い幸福感に勝てない
無理に作ろうとするからだ
羊水には獏が浮かんでいる
ネクロフィリア
ただ、ぼんやりとした不安が好きなんです
墓場はいいねただし取り憑かれないように
二階の窓から般若の面を被った同級生を見送る
夜の外灯は葬式の秘密を教えてくれない
朧月が幽かに野を行く旅人を照らしてゆく
母のヒールの音が仏壇の遺影に吸い込まれてゆく
此処でなら誰だって自由だね
灰皿を煙草だらけにした父が寂しく嗤う
魔物が通る裏路地に
蝶という名のバーがある
其処では喪服の人々がお酒を飲みながら
交霊術をしている
自転車に乗って只、隧道を目指す
入道雲が隠れていると聞いて
遠雷が雨を連れてきた
どうして雨は人の想いを乗せるのか
夕立の中真っ赤な傘だけが
竹藪の中仄かに光っていた
鈴を鳴らすから出てきてくれ
約束は居間の目玉焼きしか知らないはずだ
秘密の世に連れて行ってくれるからと
父の怒鳴る声母の泣いている声
もう聞きたくない
くしゃくしゃの零点テスト
麦わら帽子は向日葵を抱いて眠る
夜になったら
迎えに行くから
出目金が和金と溶けあって
花火の中で結合している、夢
あの夏に戻れたら
宵の祭り
釈迦如来は金魚すくいをしているし
素戔嗚は暗がりで女を口説いている
私はお面売りの前で
般若の面を見つけて固まっている
世の中ひっくり返っているんだ
その夜、恐山で花火を打ち上げて
真っ白い顔の青年が巨大な毬の上で
煙草をふかしている夢を見た
夢の在り処は脳のどこら辺に在るのだらう
夢人がかまくらを掘って
その中で人間失格を読んでいる
ためらわず君は鬼の首を絞めた
妹は兄へ禁断の愛を胸に秘めている
あの家は風紀が悪いからね
いつまでも黄泉平坂桃源郷
賽の目が凶日に血に濡れた
暗がりで裸
怨念は勿忘草にも宿るのか
沙羅双樹の下で